変異
無機質でいて、規則的に変化する鈍い音。
聞いた話では車輪が敷設されたレールとレールの隙間を通過する時にこの音が鳴るそうだ。なぜか不思議と心地良いこのリズムに揺られ僕の睡魔は最高潮に達しようとしていた。
ふいに、現実の境界線が曖昧になっている僕の目の前に“NEW GAME”の文字が現れた。
混濁していく意識の中で、僕はあるはずのないスタートボタンをゆっくりと押し込んだ。
何かが足りない奇妙な感触に目を覚ます。
ゆっくりと車窓から外を見ると、最寄り駅の看板が目に入る。即座に寝惚けていた感覚が鮮明になり、慌てて鞄を掴んでドアから外へ飛び出す。電車を乗り過ごさなかったことに安堵し、駅のホームから改札を目指して歩を進める。
――――まただ、また何か足りない気がする。
あまりにも静かすぎる。それほど大きい駅ではないが、いつも聞こえる駅のアナウンスや、人の行き交う足音、自動車の走行音、何一つ聞こえない。周りを見渡すと駅のホームには人影一つない。それどころか、先ほど下車した電車もドアが開いたまま止まっており、見える限り人の姿はない。
「……今日はなにかお祭りでもあった、かな?」
少しずつざわつき出した心を抑えつつ、電車の先頭車両を目指す。少しずつ足取りが速くなる。その間の車両も同様に人の姿はない。いつの間にか駆け足になっていた体が先頭車両を追い越す。運転席を覗き込む。
「車掌がいない……」
落ち着け。何か考えろ。そうだ、まずは状況確認が大事だ。本当に誰もいないのか。寝ている間にトラブルがあって一時的にどこかに避難しているだけじゃないのか。深呼吸をして頭を落ち着かせる。
「息が白い……」
少しずつ冷静を取り戻し始め、二階建てになっている駅のホームから街を眺める。
そこには季節外れの雪が降っていた。
初めての投稿になります。全力を尽くして読者の皆様を楽しませていく所存ですので、よろしくお願いします!