姫様。
PSR-360は今となっては古臭いハードではあるが、未だにサードパーティからのソフト供給がある恵まれた機種である。
現在この機械には一つのソフトが入ったままになっていてコンセントに繋いでいないいのに電源は入ったままだ。
元々押入れに仕舞ったままのRPGだったのだが、PSR-360はこのソフトを何らかの方法で読み込み魔王を現世界に召喚したのだ。
「シン……待って……そこはダメ」
「真桜これ以上は待てないよ……諦めな」
「……そんな」
伸の指が伸びる。
「王手!」
「あぁぁぁぁぁぁ夜の主導権がぁぁぁぁ」
「諦めて大人しく寝ろ」
「せめて同衾してもいいでしょ?」
「健全に寝るぞ」
「何もしないから~先っちょだけね?」
「黙れ」
「はうぅぅ」
魔王はこちらの世界では真桜と名付けて貰い伸と同じ部屋で暮らしていた。
伸の両親は真桜の魔術で『恋人だから同棲する』と常識変換している。
「義母さんから孫はまだか?って言われてるから……ね?」
「『ね?』じゃないよ何洗脳してんの!」
結局、伸の部屋にはベッドは1床しか無いのでうやむやのうちに一緒に寝てしまう。本当に添い寝感覚の睡眠である。
「じゃ電気消すよ」
「はーい」
ゲーム機のパイロットランプが赤から緑に変わると直ぐに点滅し始めた。
―――………勇者、やっと見つけました
PSR-360は本体の隙間から光が漏れ始めた。
その光は人の形を浮かび上がらせた。
人の影は真桜をベッドから引きずり落とすと伸の上で四つん這いになる。
「……この日が来ることを待ちわびていました」
暗闇で衣擦れの音だけが響く。
「……さあ勇者今すぐ王国に戻りましょう」
勇者が寝ている間に事を済ませてしまおうと、そのまま覆い被さる。
パチッ
「オイ!金髪のクソ女……他人の男に何してやがる!」
「……魔王討伐に出てから勇者の消息が跡絶えて私がどれだけ心配したか解りますか?」
金髪の全裸の女はユサユサと伸を起こそうと揺らす。
「……真桜何騒いで……!!」
「をい!金髪女無視すんなごらぁぁあぁぁぁ!」
「勇者を探しに別動隊を魔王城に出したら……魔王や家臣だけで無く勇者までいなくなって……」
ここでようやく伸は真桜以外の存在に気付くわけだが、目の前にはまたしても全裸の女性……つくづく女難が続くものだ。
「……盛り上がってる処悪いけど……誰?」
目の前の金髪女はキョトンとし、真桜は大爆笑。
「勇者……お忘れですか?水の都ウィンディーネのアクアです……貴方の婚約者ですわ」
「婚約者って……ゲーム設定でも無かったはず」
「ゲーム?何ですかソレ?……まぁ兎に角、魔王を退治した勇者は私と国で幸せに暮らすんです!宿屋で『昨夜はお楽しみでしたね!』って言われるんです!」
「あのな、クソ女!シンはお前の事なんかアウトオブ眼中なの解る?」
「……先程から見逃して差し上げてましたのに死にたいようですわね獣女!」
アクアは伸に更に抱きつく、まるで『ここをキャンプ地にする』とでも言いたいようだ。
「それよりも勇者!魔王は倒したのでは無いのですか?」
「ボクは、確かに勇者に倒されてるけど毎晩シンからベッドに押し倒されてるぜ!」
「まぁなんて下品!恥を知りなさい」
そう言うなら裸で抱きついてるのは、どうなのだろうか?そんな疑問はアクア姫に簡単に棄てらてしまう。
「さぁ納得いった処でウィンディーネでの挙式を王国に住む民が待ちわびてます!早く子作り……いえ勇者の逞しい腕の中で結婚しましょう!」
ウィンディーネのアクア姫、欲望に忠実な女である。
そして、自分に素直な女である。
「盛り上がるのは勝手だけどシンはボクの彼氏だからあげないよ?」
「勇者ぁあの獣女の言ってる事は本当ですか?」
「……まぁ真桜の話は、一概に嘘とは言えないよな」
「えぇぇぇぇぇ!だって『魔王討伐に成功したら個人的に褒美を贈りたいけど何が良いかしら?』『それなら、ウィンディーネを案内しないくれますか』って永住してくれるって話でしたわ!」
「いやいや、今の何処に永住する話になるんだ?」
「勇者はご存じでは無いと思いますが、未婚の異性が二人きりでウィンディーネの町を歩くと女神から愛の種を賜り永久の祝福を約束されるって言い伝えがありますわ」
「異世界の常識は知らないけど……真桜そうなのか?」
「……さぁローカルルールだと思うけどボクは聞いたこと無いよ」
「言い伝えや伝承なんて地方で違うんだから……獣女が知らなくても当たり前よ!……とにかく勇者はウィンディーネで結婚するのよ!国王も待ってるわ」
「アクア姫には悪いけど……」
「シンってば……」
「勇者」
「……村雨が気になるんだ」
「「えぇぇ!」」
続かないと言いながらつづいてます。
うーん。
魔王が来たなら姫様も来るし、推しキャラが来てもいいよね。
では。