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魔王さん登場

 誰でも買って満足してしまった本やゲームの一つくらいあるはず。


 テレビ台の棚の中や押し入れに閉まったまま……封も切ってなかったりする積みゲや積み本。


 内容が自由過ぎたり、上級者向けのRPGを途中で投げ出したままで放置してませんか?


 それが何か?と問われても困るのだが…夜中に押し入れで物が静かに崩れた。それだけの話である。


 そんな物音にも気づく事無くベッドで安眠を貪る男……俗に云うと物語の主人公的存在。

 その名は『新太あらた しん』全世界が泣いた!親の脛をかじりまくって生活する17才。

 只今、絶賛学生中!

 幸せな寝顔の口元には主人公らしからぬ一筋の涎を垂らしている。


 そんな健やかな眠りの時間も長くは無かった、目覚まし時計が睡眠終了のゴングを鳴らす。


 ジリリリリリリリリィ。


 ベルは伸の耳に入るが目を開くまでには至らなかった。


「……あと……十時間……」


 緩慢な動きで目覚ましに向けて手を延ばす。


 むにゅ。


 目覚ましのベルは止まる事は無かった……もう一度トライ。


 むにゅ。むにゅむにゅ。


「……ん、はっ……ダメ」


 目覚ましは止まらないが、耳に甘い声と鼻にミントの香りが届いた。

 手はジョイボール位の大きさの丸く柔らかな物を掴んでいて掌にアポロチョコの様な硬さを感じていた。

 ジョイボールに触れ続ける度にミントの香りが掛かる。


 伸の鈍い頭も通常の三倍速でスリープモードからモードを切り換え作業をおこなった。

 目をユックリ開くが……理解力は追いたかなかった。


 目の前には一糸纏わずの赤毛の女性が、伸の指に反応して身悶えている。ただ女性は水牛の様な角を生やしている以外では体つきは一般女性と変わりは無かったが、伸の家族でも知り合いでも無いそれだけは理解出来た。


 慌てて伸は手を離すと、赤毛の女性は半身を起こして伸の顔側に身体ごと向けて座り直した。

 彼女は一糸纏ってないのだから、今の伸の目の前にはモザイク無しの世界が広がり……伸は慌てて身体を起こして彼女に背を向けて座り直した。


「……やっと逢えた」


 彼女は伸の背中にすがり付く様に抱き付く、見た目華奢な腕では考えられない程の力だっので伸はバランスを崩して後ろにひっくり返った。

 後頭部には柔らかな球体のクッションがあった。


「この時、この瞬間をずっと待っていたよ……勇者」

「……勇者?」

「そうだ勇者、ボクはずっと暗い迷宮の奥で待ってたんだ……」

「はじまりの村に勇者が現れたと聞いて、自分の事の様に嬉しくて迷宮の中の家臣を呼んで三日三晩宴会を開いたんだぞ」

「各村や町に魔王城までの道のりを案内所に地図を配布したんだよ」

「……魔王城?」

「ん、そうだよ…だってボクは魔王だもん」

「そっか魔王か……ってえええ!!」


 魔王と名乗る女性は失笑する。魔王とは思えない明るい笑い。


「勇者はボクの想像と違う」

「……カッコ悪かったよね」

「んーん、想像以上に素敵だったから逢いに来て良かったよ」

「だって、だって暗い迷宮でただ待ってるだけじゃ詰まんなかったんだもん」

「時々玉座から降りて色々歩いたの『勇者まだかな』って初めは迷宮だけだったの」

「でも、気付いたら直接逢わなければ大丈夫だってフィールドを歩いたりしたのだけど……西の城を出た辺りから動かなくなって……ボク寂しかったし哀しかった」


 魔王は勇者を抱き締める。愛しくて仕方無いって身体全体で知らせるように。


「ところで魔王はどうやってここまで来たんだ?」

「んー、あの黒い箱が導いてくれた……たぶん」

「ゲーム機が?」

「解らない……でも、勇者に逢いたかったの……すごく、すごく逢いたかった」

「……逢ってどうしたかったんだ?」

「ボクの所にどうして来てくれなかったか知りたかった……ボクたちが嫌いになった理由を知りたかった……でも良いの、もう良いの勇者はボクの腕の中に居るから」

「魔王と勇者って敵対関係じゃないの?」

「……君が望なら全力で殺るけど?」


 魔王の爪が伸びる。

 刺されたら痛そうだ。


「……いや平和主義者だから闘争は望まないよ」

「なら、勇者は何を望む?」


 魔王の爪は元の長さ(短く)なった色々便利な体質のようだ。


「魔王は何を望むんだ?」

「勇者」

「なんで俺なの?」

「向こうの世界では嫌われて、憎まれて、怨まれていたから」

「……それって一緒に居たい理由になるのかな」

「なるよ…だって怨まれるってそれだけボクの事考えてるんでしょ…ボクだって勇者の事毎日思ってただから両思いなんだよ」


 魔王の顔は見なくても解るくらい楽しそうだ。


「…なぁ勇者、ボクの物にならないか?ここでのボクには何の権力も無い……ただ魔法が使えるだけの女だけど勇者の子供くらい1ダースは補償するぞ!」

「……ガッツリ作る気だな」

「勇者……ボクじゃ……嫌?」


 ポスン


 伸の肩に魔王は顎を乗せる。

 背中に二つの肉球体が潰されるのが解る。


「……魔王、俺の側に居たいなら先ずは服を着てくれないか?」

「解った……勇者は自分で脱がせたい派なんだな」

「何その派閥……ってか家以外で勇者って呼ぶのはやめてくれない?伸って名前あるからさ」

「わかったよ……勇者シン」

「……だから勇者は要らないよ」

「解った……シン」

「で、魔王……名前は?」

「こっちでは発音出来ないから勇……シンが付けて?」

「なら……」


 魔王は勇者と幸せに暮らしました……


 ゲーム機PSR-360のランプが赤から緑に変わったことを二人は気付かなかった。






ん。

企画と設定は練ったのだけど、リアル商品名は使えないから紛い物を用意するけど、陳腐な表現になるのは僕が重力に囚われた古い民だからだろうな。


魔王の可愛いらしさが伝われば正解なのだけどね。


では、また次回。

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