祝いの食事会にて
案内されたのは、すぐ隣にある城の中にある国王の間だった。
たどり着くまでの間、周りから小さな声で噂されているのが聞こえた。
「あれが勇者様。」「伝説は本当だったのですね。」「あのお方が来てくださったのなら国は安泰だな。」「やはり美しい。」
神官たち以外の者にも好評のようで、順調に事を進められそうだと思った。
「おぉ。そなたはまさしく、伝説として語り継がれてきた勇者殿!こうして目にすることができようとは。」
「お目にかかれて恐縮です、国王陛下。」
「表をあげよ。そなたは我が国の救世主。堅苦しくなくてもよいぞ。」
「いえ、おかまいなく。」
この他人行儀でいかにも礼儀正しそうに見せる立ち振舞いは、普段からの癖のようなものだ。
そんな態度で国王のご機嫌を伺う。
だいぶ老いてるように見える男だった。もう現役は過ぎているのではないのだろうか?
「聞いたところ、何の事情も知らずに召喚されたのだとか。こちらの都合で呼び出してしまい、まことに申し訳ない。食事を用意しておりますがゆえ、そこで事情をお話いたしましょう。」
国王直々の招待で食事をすることになった。
さすがは城の食卓といったところか。元いた世界とあまり変わらない豪華な料理が並ぶ。
皿に手をつけたところで、真剣な表情を見せながら国王は本題を話し始めた。
「ここはマレンツェという国です。他にもラニエ、ココルトといった国々はありますが、我が国がその全ての国をまとめております。」
「ほう。では、この国が世界の中心国であり、代表であると?」
「そのとおり。というのも、この国には勇者様の伝説や女神様の守護がありますし、遥か昔から闇の力を封印するという宝珠を管理しておりまして、悪者から国や人々を守ってきたからですな。」
「宝珠?そのようなものが、ここにあるとは。」
似たようなものなら、私もその効果を直に味わったことがある。
前は近づくこともできず放っておいたが、できれば邪魔になるものは早めに処理しておかねば。
「勇者様には、後にその宝珠をお預けいたしましょう。きっと魔王を退治するのに役立つはず。」
「その魔王だが、一体どのような?」
「実際に目にしたことはありませんが、予言によればあらゆる生き物を取り込んだ姿をしているのだとか。その魔王が魔物を生み出し、魔物は力を蓄えるために村を襲っては食べ物を奪ったり人に危害を加えたりしているのが現状なのです。」
「魔王が魔物を生み出すのか?」
「はい。魔王を倒さないかぎり、魔物は増え続けます。歴代の勇者が何度も挑戦はしたのですが、、、。」
「歴代?」
「魔王は何度も甦っているのです。何度倒しても、封印しても、何百年かすると復活してしまうのです。それまで何人の人々が犠牲になったことか。ですが、予言が出たのです。あなた様が全てを終わらせることができるのだと!あなた様こそ、伝説の救世主なのです。」
なるほど。そういうことか。
まさか既に何度も魔王が倒されていたとは思わなかった。何人もの勇者が世界のために命をかけて戦ったのだろう。しかし、彼は不死身。なんとも変わった、不憫な世界だ。
どうして自身が魔王消滅を成し遂げると予言されたのかはわからないが、まぁいいだろう。
もう少し世界について調べ終わったら事を始めることにして、私は再び目の前の食事に手をつけたのだった。