伝説とよばれた者
「勇者様、お待ちしておりました。」
自分にかしずく人間共。
かねてより望んでいた光景に魔王は圧倒されていた。
勇者として、というのが気にくわないが。
いや、勇者として扱われるなどありえない。ありえてなるものか。
だがしかし、魔王はまず今の状況を冷静に把握することにした。
「私が勇者だと?どういうことだ、説明しろ。」
「おや、勇者様は、勇者様ではないですか。まさか、何もご存知でない?」
「知るものか。気がついたらここに召喚されていたのだぞ。」
「これは、まことに申し訳ありません。勇者様は我々を救いに来たのだとばかり。」
「(馬鹿か、こやつらは。)」
どうやら信仰がすぎる連中らしい。
突然呼びだした者が全知全能の救世主だと決めてかかっていたとは。女神ならまだしも。
たしか自分と対していた勇者は普通の町の住民だったが、このような扱いを受けたのだろうかと、魔王は考えた。
「何かの間違いではないのか?」
「勇者様、ご謙遜を。あなたで間違いありませんとも!あなたからは確かに、壮大なるお力を感じております。」
「ほう。」
力を感じ取れるとは。さすがはこの私を召喚した神官、といったところか。
しかしながら、この力の他とは違う禍々しさはわからなかったようだが。
「それに、あなた様は伝説通りのお姿をなさっています。間違いなく、あなたは勇者様なのです。」
「伝説?」
「ほら、あちらをご覧ください。あのステンドグラスに描かれているお姿。あれこそが、かつて偉大なる預言者様の見た勇者様なのですよ。」
言われた通りの方に振り向いた魔王は目を見開いた。
自分が召喚された地の上から光を照らすステンドグラスの窓。
そこにはたしかに、自分自身が描かれているではないか。
一体、どういうことなのか。
「・・・なるほど。どうやら貴様たちの言うことは正しいようだ。」
自分は、間違いなく勇者として召喚されたのだ。
「おぉ、おわかりになられたようで良かった。」
「勇者様、どうか我々をお救いください。」
唯一の希望として見られることに嫌悪感を感じながらも、彼らに笑顔を見せてやる。
それにしても、人間共から崇めれることなるとは思わなかった。
理屈はまるでわからないが、面白い。
この立場を利用して少し遊んでやることにしよう。
そして、いずれは今度こそ。
世界を征服してやろう。
「ところで勇者様、お名前は?」
「なんだ。名前は知らぬのか。・・・そうだな、ランス。ランスとでも呼ぶが良い。」
人間共に真名など、教えてやる気もない。
これからはランスと名乗ろう。
念のためにも、な。
「ランス様!わかりました。それではランス様、城まで私が案内いたしましょう。」
「あぁ。よろしく頼む。」
これからが、楽しみだ。