第1話
そこそこ続きます。
さて どうぞ。
熱帯夜が襲う今日この頃。
ある日、僕は夢を見た。
天国へ続きそうな、とてつもなく長い階段が雲の上から、さらに上空へ続いていた。
なぜかそこに居た僕は、その階段の行き着く先を目で追う。しかし先は、かすんで見えない。どうしようか、上ってみようか? と考えていた矢先、後ろから僕の名前を呼ぶ声がした。
「原田たいら。原田たいら、よ。5千点あげるから、こっちに来なさい」
……は?
僕は振り向いた。白い長いひげと、白いロン毛の、いかにも『神様』だか『仙人』のような格好をした老人が、ここは雲の上なのに湧き出ている泉の中央から姿を現していた。
……あ〜、夢だ夢だ。何でもアリだ。僕は、そう考えた。
僕は泉の前まで進み、立って、その老人を見た。「何か用ですか?」
「肩を揉んでもらいたいのはヤマヤマだが。そんな事は秘書に任せて。それより」
どこに秘書が居るのだ……? という僕の疑問をよそに、老人は泉の中から両手に1本ずつ、ビンを出してきた。中に、それぞれ透明の液体が入っている。
冷えてますか? ……僕が、あさっての方向を考えていると、老人は説明し出した。
「こちらが『何でもきく薬』で、こちらが『何かにきく薬』である」
薬……? 薬だと言った。
しかし『何でもきく』薬と、『何かにきく』薬だと言う。何ですか、そのニュアンス。
「5千点くれるんでないんですか?」
僕はまた、あさっての方向に話を逸らす……意味もなく。
だが老人は、ひるむ事なく「嘘ぽん!」と、本人はフザけたポーズと顔だが、僕の飛んだ質問に真面目に返して来た後、「このどちらかを選ぶがよい」と言った。
選ぶ……。どちらかの薬を……。
……。
……いらない……両方……。
「絶対選べ」
と、老人は強く言った。夢の中のキャラのくせに、何でそんな主導権を握っているのだ?
「じゃあ……んと……。『何でもきく薬』で、いいです……」
「なぜ、そちらを選んだ?」
「……だって万能じゃないですか。何のどんな病気にも効くんでしょ」
「いや。君は感動的な勘違いをしている。これは『何でもきく薬』だ」
……よくわからない。僕がまた「は?」といった顔をしていると、老人は、
「しょうがない。タネ明かしをしよう。ビンのフタを開けると、白クマのおばあさんが煙のように出てきて、君の愚痴を24時間体制で何でも『きいて』くれるという、スグレモノ」
と、鼻高々にえばる。
……僕の愚痴を24時間体制で何でも『きいて』くれる薬……。
「そんなモン、世の一般サラリーマンか主婦の皆さんにでもあげてください」
僕は謙虚になった。しかし老人はあきらめない。
「それならば、もう片方のコレをあげよう。コレならば……」
……キューキュキュッキュ〜……。
……動物の鳴き声を真似した、機械交じりの音が聞こえた。よく知っている音である。
僕の頭の横にある、目覚まし時計の音だ。ちなみに鳴いているのはアザラシの声。
僕は音を止めてベッドから身を起こした。
辺りを見渡す……さっきまでのは、本当に夢だったらしい。
夢か……夢……。
夢で……ない。
ゴトン。
よく割れずにいてくれたが、身を起こした僕の体の上からベッドの下へ、身に覚えのあるビンが1本、転がり落ちた。
『何かにきく薬』
何でここに。夢だったんだから、存在するはずがない。
え……まさかこの話、ホラーだったんですか?
僕は誰かにそう聞いた。
《第2話へ続く》