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Pains  作者: GUM
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第弐話

 軽くストレッチをして、小走りに化物の臭いのする方へ向かった。腕に数字の痣が現れてから、日に日に身体能力が向上していくのが分かった。昔は運動音痴で、学校の体育の成績も1か2、体力も無くて、長距離走なんかはいつも見学していた。しかし、今は、息も切れることなく長距離も走れるし、それどころか、走るスピードもそこいらのオリンピック選手なんかよりは早く走れるようになったし、普通じゃ有り得ないような身体能力も身に付いたし。恐らく、この痣が私の体に何らかの変化を与えたのだろう。


「今回はやけに臭いがきついな。こりぁ、1体じゃないね。」


 化物がいるであろう場所に近付けば近付くほど、臭いはどんどんと、鼻を突く様にきつくなっていった。今まで私が殺ってきた奴らは、大抵は単独行動で、恐らくだが、仲間意識なんかの概念は持ち合わせていない様に思えた。それなのに、今回は珍しく複数で行動してる。


 奴らを何体も相手にして、自分なりに考察した結果だが、奴らにはそれなりの縄張り意識があって、その縄張りの中の人間を餌として捕食している。時折、それを犯す奴がいるが、その場合はどちらかがその縄張りを奪ってしまう。当然、力及ばず争いに敗れた方は新たな縄張り主に喰い殺されてしまう。所謂、共喰いだ。まぁ、私の様な数字持ちは見境なく襲ってくる様だが、それはたぶん、本能的な行動だろう。

 何にせよ、今回の様に単体ではなく複数で行動するケースに遭遇するのは初めてで、さすがに複数体の化物を、同時に相手をするのは骨が折れそうだ。


「この辺りか、やけに人目に付く場所で食事を始めたな。」


 まだ、夜と言うには早すぎる時間帯の街の路地から、化物と血の臭いが漂ってくる。さっきよりもさらに強く、いつもの連中とは比べ物にならない程強い、体を仰け反ってしまうほどに。こんなに強く臭いを発していれば一般人にも気付かれる。普段ならそんな危険な事はしないはずなのに、今日に限ってなぜだ。

 当然、辺りには野次馬が集まっていた。その現場を覗き込み、化物の捕食する姿を目にした人達は、恐怖に怯え、腰を抜かし、泣き叫び、その場に蹲り嘔吐する。


「あぁ、もう、言わんこっちゃない。ちょっと、道開けてくださいよーっと。おっ、やっと見えてきたね。」


 人混みを掻き分け、やっとの事、奴らの姿が確認できる位置まで辿り着いた。そこから見えたのは、2体の化物と喰い散らかされた人間の残骸、いや、もう既に人であったかどうかすら識別できないほどに散らばった肉片。


「ちっ、下品な奴らだな。もうちょっと上品に出来ないもんかね。」


 奴らの捕食する姿に苛立ちを覚えたが、こんなにも 野次馬がいる中で化物相手に戦闘するのは流石に気が引ける。私は、一旦人混みの中を引き返し、路地の横にあるビルの屋上まで急いだ。

 今回の2体はあまり気長に待ってくれそうにもない。急いでビルの壁を駆け上がり、屋上まで辿り着いた私は、自分の指の先をナイフで切り、血を一滴、奴らの元へと落とした。奴らは、数字持ちの人間に酷く反応する、その血には特に。


「さあさあ、早くこっちにおいでー。そんなとこにいたら、おいしいご飯が冷めちゃいますよー、なんちゃって。」


 私の血が片方の化物の腕に落ちた。その瞬間、ピタリと今までの捕食活動を停止。そして、2体同時にこちら見ると物凄い勢いでビルの壁を駆け上がり私の元へと辿り着いた。

 でかい。先程、遠目に見ていた時の印象よりも、かなりでかい。体長は2体とも私の倍程はある、恐らく3メートル位だろうか。今まで私が対峙してきた化物共は、捕食時や敵意を表した時でも、ある程度は人の姿を保ち、手や足、頭部など一部または数カ所の変体を確認できる程度だったが、こいつらは違う。もう既に全身がその悍ましい姿へと変貌を遂げている。


「あらまぁ、こうやって見るとでかいねぇ、あんたら。でも、でかけりゃいいってもんでもないでしょうに。それに、捕食するなら、もうちょっと大人しくしといた方がいいと思うなぁ、って、こんな事あんたらに言っててもしょうがないか。」


 そう言いながら、私は奴らのコアを探した。人間の心臓とは違い、奴らのコアは各個体によって場所が異なる。胸にある者、頭にある者、腕や足にコアがある奴もいる。普段なら人型のまま襲ってくるので、コアの場所は特定し難いが、今回は全身を変体してくれているお陰ですぐに見つけることができた。

 見たところ1体は胸、もう1体は頭にコアがある。その部分だけいかにも頑丈そうな皮膚で守られているのを確認出来たので恐らく間違いはないだろう。攻める箇所は決まった、後は攻め方だけだが、2体もいるとなると、策もなく猪突猛進に攻めても分が悪い。

 こちらの様子を伺っているのか、2体はまだ動こうとはしない。


「さてさて、どうしたもんかね。でも、考えてる暇なんてないし、そっちが動かないならこっちから行かせてもらいますよっ!」


 そう言って、私が1歩踏み出そうとした瞬間、2体が分散し私を挟み込むようなポジションに移動した。


「やっぱり、こいつら共闘してるのか。」


「さて、ここからどうする?」


 ・・・!?


「誰だ!?」


 突然の後ろからの声に反応した。振り返ると、そこには知らない男が貯水タンクの上に座り、こちらを見つめている。


「あんたと同じだよ。数字を持ってて、そいつらを殺して回ってる。ただ、1つ違うのは俺は野良じゃないって事かな。」


「野良じゃない?どういうことだ!」


「まあまあ、詳しい話はそいつらを殺ってからでいいんじゃない?あんまり気が長そうでもないし、早くしないと殺られちゃうよ、野良猫さん。」


「ちっ、一瞬で片を付ける。あんたはそこを動くなよ!」


「はいはい、お待ちしてますよ。」


 男とのやり取りの後、私は2体の化物に向き直し、奴らの方へと走った。

 まず、1体の片足を切断、その隙を突いて後方から襲い掛かってくるもう1体の肩にナイフを投げつけ時間を稼ぐ。足を切り落とした方の後方に周り込み、体と首を切り離す。これで1体は片付いた。残るはもう1体、意外に呆気なく片付いてしまいそうだ。


「んー、残念。そいつまだ生きてるから気を付けなよ。そいつのコアは頭部じゃなかったみたいだね。首を落としただけじゃ死なないし、すぐに生えてくるから注意しなよ。」


「うるさい!黙って見てろ!」


 彼の言う通り、首と足を切断したはずの化物はすぐに再生し、元の姿に戻っている。


「くそっ!コアは何処だ!」


 少しでも間違えば確実に殺られる。1体だけに構ってもいられないが、やはり2体同時に相手をするのは厳しい。1体を躱しつつ、確実にもう1体を仕留めるしかない。

 もう1度、こちらから攻めるしかない。コアの場所さえ分かれば。


「苦戦してるみたいだねぇ、教えてあげようか、奴らのコアの位置。」


「あんた、わかるのか?」


「んー、惜しいけど、不正解。わかる、じゃなくて見えるが正しいね。それから、野良猫ちゃんと俺の違い、まだあったみたいだね。まだ覚醒してないみたいだし、それじゃそいつら2体同時に相手をするのは無理があるよ、自殺行為その物だ。」


「見える?覚醒?どういう事なんだ。さっきから説明不足なんじゃないのか?」


私がそう言うと男は少し笑い、しかしながら冷たい眼差しでこちらを見つめ話を続けた。


「なんでもかんでも、すぐに説明してもらえると思ったら大間違い。世の中そんなに甘くないよ、野良猫ちゃん。」


目の前にいる2体の今までとは違う化物。


私の知らない事を知る男。


否が応にも進んでいく物語に私は少しずつだが確実に運命を巻き込まれていた。


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