第一話 転校生②
前の話と同様、前に投稿した話を改変、差し替えとさせていただきました。
こういうことはできるだけないようにしますので、これからもよろしくお願いいたします。
零が五十嵐に言われた通りに校門へ向かうと、そこには一人の男子生徒がいた。
本来、生徒は教室についていなければいけない時間だし、そもそも生徒として学校側に登録されている人間であれば仮想世界にダイブする際、出現地点を直接教室に設定する事ができる。
校門は立派に屹立しているが、そこをくぐって校内に入るものは新入生と転校生、他には零のように特別な理由のあるものだけだ。
だから、あの男子生徒が転校生で間違いはないだろう。
「あ、あの……」
零は声を掛けようとその男子生徒に近付いた……が、何かおかしい。
なんだか、頭と手をブンブン振り回し暴れている。
完全に変質者だ。
一瞬、今からでも校内に引き返そうかと思ったが。
「すみません、そこのお嬢さん」
先にむこうが気付いて、声を掛けてきた。
同年代とは思えないほど低い声。
近くで良く見ると顔は整っていて、男らしい……が、右目には眼帯をしており、顔中に傷がある。
まぁ、現実では目立つが、肉体に眼帯や傷、タトゥーのような装飾を施すのはこの仮想世界では珍しい事ではないが……。
「申し訳ありませんが、視界が半透明の帯の様なもので埋め尽くされ不自由しております。ゴミが目に入ったのかと思いましたがどうやら違うようで……仮想空間特有の『何か』ではないかと愚行しますが……初対面の方に助けていただくのは大変恐縮ですが、なんとかしていただけませんか?」
ワイルドな見た目とは違い、言葉遣いは異常なほどに丁寧だった。
「あ、そ、それは……『ウィンドウ』が展開しているだけだと思います」
相変わらず緊張はしていたが、警戒のレベルを下げて零は答える。
「ういんどう?」
「はい。仮想空間内での私達の肉体は、いわば高性能な携帯端末のようなもので、この世界……この仮想世界の基幹部と直接繋がっています。視界内に映るアイコンやウィンドウをタッチする事で、様々なシステムアシストを受ける事が出来ます。多分、あなたの視界内に広がっているのはアイコンタッチによって呼び出された『ウィンドウ』……だと思います」
「???」
「目障りなら、手で払いのけるか……一端削除する事をお勧めします。×マークを押せば、『ウィンドウ』……その帯は消えますよ」
説明しても理解できそうになかったので、簡潔に対処法のみを教える。
そういえば、転校生……目の前の男子は、生まれてから一切VR技術に触れた事がないのだと、五十嵐が言っていたのを思い出す。
そういう事なら仕方ないのかもしれない。
肉眼がコンピュータディスプレイのように機能するのは、ナノマシンでも体内に入れていない限りは仮想世界特有の事だ。現実ではありえない。
突然、視界に文字やマークが入った四角いアイコンが浮かんだら驚くのも無理はない……たぶん。
いや、しかし、『ウィンドウ』や『アイコン』の意味すら分からないというのは問題ではなかろうか。
旧式のアナログデバイス……携帯端末やパーソナルコンピュータにもそれらの概念はあったというのに。
彼は未開人か何かなのだろうか。
「おお、消えた!」
嬉しそうにその未開人……いや、転校生が声を上げる。
無事ウィンドウが消えたようだ。
「ありがとうございます、お嬢さん。あなたのお陰で無事問題は解決いたしました。このご恩は一生忘れません」
ウィンドウを消失させるやり方を教えたくらいで一生ぶんの恩義を感じていた。
「い、いえ、そんな大した事は……」
本当に大した事はしていません。
「あ、いや、それより……転校生の方ですか?」
いまさらだが、話を本題に移す。
「はい。間違いなく私は本日より転校となりますが……もしや、あなたが私のフォローをしてくれるクラス委員長殿ですか?」
「はい、そうです。担任の五十嵐先生に頼まれて迎えに来ました。そろそろ教室に向かわないと、転校生といえどさすがに遅刻になってしまうのです」
「……なるほど。決められた時間に遅れるのはこちらとしても、心苦しい。早速向かいましょう」
「あ、この場で学校の名簿に個人情報を登録して、転移可能ゾーンに『教室』を登録すれば、廊下を歩いたり、階段を登ったりしなくてもアイコンをタッチするだけで『教室』まで移動できますけど……」
こういうところが仮想空間は便利だ。
すなわち、『エリア』間、もしくは『エリア』内フィールドの任意箇所には『転移システム』のアシストが働き、アイコンをタッチするだけで移動できる。
例えばこの日本MPS校舎のある空間は『日本MPSエリア』という名の『エリア』である。
エリア間の移動はアイコンのタッチでできるので、『日本MPSエリア』から別の『ショッピングモールエリア』や、それこそ『VR戦闘訓練エリア』などには視界内の『移動アイコン』に触れて転移先の『エリア』を指定すれば瞬時に転移できる。
『転移システム』は基本的にはエリア間でしか使用できず、転移先のエリアでは所定の『転移ゾーン』か、完全ランダムか、そのエリアのルールに従って決められた場所に転移する事になる。
『日本MPSエリア』では校門前が『転移ゾーン』に指定されており、特に何も設定していなければ、『日本MPSエリア』に転移する際は、必ず校門前に転移する仕組みだ。
しかし、エリアによっては『転移可能ゾーン』というものを設けている場合がある。
『転移可能ゾーン』はざっくり言えば、設定を変更することで『転移ゾーン』になる場所の事だ。
『日本MPSエリア』では、各『教室』が『転移可能ゾーン』となっていて、『日本MPSエリア』に転移した際に『教室』を『転移ゾーン』に設定しておけば、『教室』にそのまま出現する事になる……のだが。
「?????」
「……歩いていきましょうか」
その説明をしても理解できなさそうだったので、大人しく歩いて教室まで行く事にした。
ありがとうございました。
評価や感想があればよろしくお願いします。