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Opening:Virtual(仮想)

今後挿絵を挿入していこうと思っておりますので、お見苦しくなければ挿絵ありでお楽しみください。





挿絵(By みてみん)


――――眼前には、『戦場』が広がっている。


銃弾が飛び交い、血しぶきが舞い、死体が転がる、そんな戦場。


漂う死臭。


乾いた空気。


額を伝う汗。


そして、痛み。


そのどれもが、とてつもない現実感リアリティーを持ってそこに存在している。


「……敵戦力は残り二名。こちらで始末をつけます。万が一に備え、逃走が予想されるルートをマップで確認し先回りして下さい」


視界に映る戦場のマップをチラリと見ながら風音零かざねれいはそう呟く。


独り言、ではない。


これがこの世界での、仲間との連絡手段なのだ。


『了解。殺っちゃって!』


『こちらも了解。お任せします』


返答は脳内に直接返ってくる。


今、(れい)の視界は、通常肉眼で世界を見るのとは違う……例えるならば、テレビゲームの画面のような状態にある。


自軍の戦力、敵軍の戦力、戦場の見取り図、自分の装備している武器の種類、残弾数など、『戦争』を有利に進行するための情報群がいくつものウィンドウやアイコンで表示されている。


(れい)はそのウィンドウのうち、ナイフのシルエットを模したアイコンをタッチした。


するとどこからともなく大きめのコンバットナイフが出現し、(れい)の左手に収まる。


武装の交換や銃弾のリロードなどは視界に浮かぶ各武装の簡易モデルアイコンにタッチすれば瞬時に行われる。


視界内のウィンドウ・アイコンに触れれば、そのアイコンに内包された各種の機能が使用できる。


先程の脳内無線のような連絡も、視界に浮かぶ『CALL』と書かれたアイコンをタッチして行ったものだ。


世界そのものがデジタルデータで構成されるこの世界では、銃器類も、それを扱う人も、デジタル情報の集合体に過ぎない。


デジタル化した戦場では、あらゆる事にシステムのアシストが加わるのだ。




…… そう、この世界は現実ではない。




この戦場には痛みがある。


血も流れるし、疲労感もある。



だが、それらはすべてデジタルな電気信号によって形作られる仮想の感覚・仮想の事象にすぎない。


テクノロジーが発達しVR技術がいたるところに蔓延した世界で、人はその生活の大部分を仮想現実の中で生きるようになっていた。


仕事、勉強、娯楽 …… ありとあらゆるものが現実ではなく、仮想の世界で行われるようになったのだ。


そして、その果てに『戦争』という行為もまた、仮想世界で行われるようになった。



世界の戦争問題のすべては『仮想現実(VR)』へと完全に移行したのだ。



仮想が現実となんら変わらないのであれば、仮想世界で戦争をすれば武器や弾薬などに掛かるコストも資材もカットできる。


地球上のどこも戦場にならないのだから土地も荒れない。



なにより、人が死なずに済む。



そう考えれば、『戦争』が仮想世界で行われるようになったのは至極当然の事といえる。


現在の『戦争』にそれまでのような大量殺戮としての意味合いはなく、兵士は仮想の戦場で、仮想の武器を使い、まるでゲームでもしているかのように戦争をする。


(れい)も、そんな仮想の戦場で戦う兵士の一人だ。


コンバットナイフを右手に持ち変える。


遮蔽物に潜みながら足音を殺して移動する先には敵軍の兵士が二人、こちらに背を向けて歩いている。


一人は色白の小男、もう一人は大柄坊主頭の男。


二人組で行動している為の安心感からか、仮に戦死しても現実の『生死』に影響がないという楽観からか、敵兵は周囲を見回しこそしても大して注意を払っていない。


内容は定かではないが、なにやらヘラヘラと談笑すらしている。



……戦場に身を置く者とは思えない。



(れい)は大胆にも敵の背後に忍び寄ると、敵二人の歩調がわずかにずれる瞬間を狙い…………迷わず、小男の喉をかき斬った。


左手で口を塞ぎ、右手のコンバットナイフを喉元に走らせる。



この間、約一秒。



次にもう一人の敵……大柄の坊主頭が異変に気付き振り返るまでにさらに一秒……だが、その間に(れい)は右手のナイフを捨て、腰のホルスターから愛用のリボルバー拳銃『コルトSAA』を引き抜く。


視界端に浮かぶリボルバー拳銃の簡易モデルアイコンをタッチすればナイフを捨てることなく瞬時に、拳銃に持ち変える事が可能だったが、実際に銃をホルスターから抜く動作の方が慣れている。


銃を構え、引き金を引く。


残った敵が状況に気付き己の武器を構えようとした頃には、その敵の額には風穴が開いていた。


結果、敵戦力二人を無力化。


それにより、敵軍は全滅。


視界いっぱいに『WIN』の文字が表示される。



(れい)達の勝利だ。



しかしながら、(れい)の心に喜びのようなものはない。


ごちゃごちゃと視界内に展開される『戦績』だの『獲得ポイント』だのをまとめて手で払い退け、『離脱』と表記されたアイコンを押す。


瞬間、(れい)は淡い光に包まれ消える。


戦いが終わった戦場に、兵士はいらない。


戦場からの退却も、電脳の世界ではボタン一つだ。



……仮想の戦場から離脱した(れい)は、カプセル型の寝台の中で目を覚ます。



現実世界への帰還だ。



各企業のオフィスも学校も、ショッピングモールすら仮想世界に存在する今の時代、現実世界に戻る意味は乏しい。


一日のほとんどを仮想空間内で過ごす事は、すでに当たり前となっている。


しかしながら、現実世界にまったく帰還せずに一生を仮想世界内で過ごすというのは難しい。


自分の肉体と、VRマシンのメンテナンスを行わなければならないからだ。


(れい)は手近のボタンを押してカプセルを開き、意識を仮想世界へ接続していた少し大きめのヘッドセット型VRマシンを外す。


目を開けると電灯の光が(れい)を照らしている。


脳に直接送り込まれる仮想世界内の映像ではなく、実際に眼球を通る光の刺激に目元を覆う。


脳裏には先程の戦闘が思い出される。


5人対5人による殲滅戦(チーム・デスマッチ)


今年度、|民間軍事学校(PMS)に入学した(れい)にとって初のVR戦争の実戦。


と、言っても軍事目的の戦争が最低30人から~50人のチームによって行われる事を考えれば、先程(れい)が行っていた戦争ごっこなどまるで子供騙し。


言ってみれば、『練習試合』みたいなものだ。


ただ、それでも(れい)にとっては初陣であったので緊張や不安のようなものを感じていたのだ。


結果的には、特に何の落ち度もなく戦果を上げる事ができた。


これならば次回以降の戦闘も上手くこなせるだろう。


そう自分で思えるほどには戦場で動けた。


だが、(れい)の心には喜びも安堵もなかった。


「……もっと、がんばらないと」


その胸には、ただひたすらな向上心。


戦闘に対する飢え。


(ちから)への執着。



目を開け、上体を起こす。


視線の先は透明なガラスばりになっており、外の世界が見渡せる。



現実の世界をその目で捉え、(れい)は決意を新たに呟く。



「私には、戦う事しかないのだから」



窓の外。


現実の世界。



そこはもはや、人の住む星とは思えない惨状だった。



灰色の空に、荒廃した大地。



テクノロジーが発達しVR技術がいたるところに蔓延した世界で、人はその生活の大部分を仮想現実の中で生きるようになった……だが、厳密には少し違う。



残された人類は仮想の世界で、生きるしかなかったのだ。



人類最大規模の大戦争、『グラウンド・ゼロ』がこの世の全てを破壊した。



戦争は数年前に終わった。



だが、まだ決着はついていない。



現実で決着の付かなかった戦争は、そのまま|VR(仮想現実)に移行。





―― 崩壊寸前の世界リアルの上で、今日も人類は平和に戦争ヴァーチャルを続けている。






ありがとうございました。


次回から本編の投稿に入ります。第一話は今週中の投稿を予定しておりますので、よろしければご覧ください。

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