デパートは遊び場らしいです:1
「だーーーーかーーーーーらーーーーーーお前はさっさと同人誌とAVと図鑑返せよ!」
「お兄ちゃんだって私の写真集返してくれないじゃない! それにこの前正直に隠し場所言ったら返してあげるって言ったくせに!」
「何が隠し場所だ! ゴミとして袋に入れてただけだろ! だいたい図鑑まで勢い余って破ってしまうってお前馬鹿なの? 天然なの? ドジっ子アピールなの? 相当きもいな」
「うるさいうるさいうるさい! あんたこそなに? そんなのほっぺにちゅ、ちゅう……キスしてあげたんだから許してくれたっていいじゃない!」
7月1日、水曜日。もうあの【花、木のぼり事件】から二週間以上が経過していた。しかし喧嘩の内容は今も変わっておらず、毎日何度も繰り返されている。お兄ちゃんがしつこいんだ。男ならバシッと許してくれたらいいのに。
「おにーちゃん、ゆるしてあげなよー」
「姉ちゃん喧嘩しててもいいからとりあえず朝ごはん早く作ってくれよ。僕お腹が減ってもう我慢できないよ」
花と良樹は内心この話に飽き飽きしていると思う。私だって同じ話をうだうだ引きずるのは嫌だし、さっさと終わりにしたいんだけどお兄ちゃんがそうはいかないらしい。
「そりゃお前らは毎日同じ話聞きたくないだろうし、嫌だと思うよ。けれどちょっとは俺の気持ちも考えてくれよ。俺はとっても大事なモノを桜に捨てられてしまったんだぞ。これを終わりにできるか? 良樹ならグローブを、花ならシルマニアファミリーを捨てられるようなもんだぞ」
私が捨てたモノの内容は花と良樹の前では絶対に言わないように、とお兄ちゃんに言っておいたけどどうやらそれは守ってくれているらしい。知ってる側からすれば、それを子供の遊び道具に例えるのはかなりの違和感があるけど。
「姉ちゃん酷過ぎる……」
「それはおにーちゃんがかわいそー」
私が昨日の夜の残りの味噌汁を温めなおし、みんなのご飯をお茶碗によそっている間に私は完全に悪役になってしまっていた。これがお兄ちゃんの力。きっとお兄ちゃんなら自称霊能力者にもなれると思う。ちなみに私は最近、この宗教チックな力を大樹教と呼んでいる。
私は全員分のお茶碗と味噌汁をお盆に乗せて、何回か往復して運んだ。私達の家には昔から朝ごはんは兄妹揃っていただきますをするというルールがあり、私が運んでいる間も待っててくれている。