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人類最後の夏休みに君と河童を獲りに行こう。

作者: アンバー

戦争が始まった、原因は枯渇しつつある資源をめぐってのことらしい。今度はほとんどの国が参戦して、私達の住む日本も例外ではないそうな。なんてどこか他人事にのらりくらりと日々を過ごしていたら、いつの間にか私の住む町は危険地帯になり、田舎に疎開することになった。そういえば、誰かが言っていたっけ?人類はこの戦争で滅びるだろう、と。



そんな訳で私は田舎で夏休みを満喫していたりする、と言っても特にすることもなく畳の上でごろごろしてるだけなんだけど。手元にあるテレビのリモコンを引き寄せ、テレビの電源をつける。一世代前のそれは低い画素数で、連日面積を増やしつつある惨状を映していた。数日前に私の住んでいた街もか壊滅したらしい、家も瓦礫の山になっていた。昔家族旅行で行ったことのある観光地も、世界遺産も、全部全部壊滅してしまった、それでもやっぱり私にとっては他人事で。

「いつかはここもああなるのかな・・・」

無意識に零れた、この戦争が終わる頃には日本全土がこうなるんだろう。そうなったら私は死ぬのか?いつ?どこで?どんな風に?いやそもそも、戦争とは全く関係のないことで死ぬのかな?もしそれが明日とかだったら、何かやり残しはないっけ?いや、子供の頃から人間関係に関しては淡泊だったし、今でこそ17歳だけど物欲も薄い方だしなあ…そんなんで、生きている意味はあるのかな?


ピンポーンッ


その時、インターホンが鳴った。こんな時に誰だ面倒くさい、と思いつつ立ち上がる。腕や背中についた畳の痕が痛い、こんな時に限っていない私の家族を恨みつつ気だるげに玄関に出る。と、

「やあ、久しぶり。」

「…久し、ぶり。」

そこには、小学4年生まで隣に住んでいた幼馴染がいた。名前は・・・確か、佐久間央だったっけ?

「何か用?」

「うん、彩音ちゃんに用事。」

「それで?」

「河童、獲りに行こう。」

・・・・・・・・・はい?



太陽がじりじりと照りつける中、何故か私は久方ぶりの再会を果たした幼馴染と河原で並んで座っていた。改めて見るとなんとまあ整った顔立ちか、確かに女子にきゃーきゃー言われてた気はする。しかし頭の方はこんなに残念だったっけ・・・。

「来ないねえ。」

「そうね。」

・・・釣り竿の先に胡瓜ぶら下げて川に垂らしてる(外見だけ)イケメンと一緒って・・・本当に、私は何をしているんだろうか。

「でも、急にどうしたの?引っ越し先かなり遠かったじゃない。」

「んー・・・まあなんていうか、口実は何でもよかったんだよね、実は。」

「ああ、そう・・・。」

「まあ河童を見てみたいっていうのは本当なんだ、覚えてる?昔この辺に見世物小屋が来ててさ、そのおじさんと仲良くなったんだけど、その中で『この川には河童が出るんだぞー』って言ったの。」

「そんなじーさんの戯言を私が覚えていると?」

むしろ捏造だって方が信憑性あるけど、それ。でも段々思いだしてきた、そう言えばこういう奴だった気がする。

「貴方も変わってないみたいね、少しほっとした。」

それで?と目で促す、本題はまだあるってことだし。

「ああ、本題だね。えーっ・・・と、まあちょっと話が長くなるけどいい?」

「いいよ、聞いててあげる。」

「戦争が始まったじゃない?それで、今は大丈夫かもしれないけどいつかは僕の住んでるとこも戦火に巻き込まれるでしょ?だからさ、いつかは戦争で死ぬんだろうなって思ってたんだ。」

「うん。」

「そう考えたら何にもやる気しなくなっちゃってね、どうしようかなって少し悩んでたんだ。だって残る寿命が少ないならやることは限られてるし、そこに希望を抱くなんて不毛だなって。」

私と同じことを考えていたのか・・・。

「そんな矢先に親戚のおじさんが死んじゃったんだ、正直言って顔もあんまり見たことのないような人だったんだけどね。死因は何のことはない、心筋梗塞だったそうだよ。それで葬式に出たら、僕は何をやってたんだって思ったんだ。」

「どういうこと?」

「そのおじさんは戦争とは全く関係のない所で死んでしまった、それってつまり『死』っていうのは戦争のあるなしは関係なく訪れるってことだろう?それを考えたら急に恐ろしくなったんだ、今こうしている間にも事故か何かで死ぬかもしれない、否もしかしたら頭のおかしい奴が現れて刺されて死ぬかもしれないって。」

それは・・・少し考えすぎではないか?でも言われればその通り、「死」・・・いや生物の話だけじゃなく、或いは「破滅」或いは「破綻」・・・そんな概念に対して万物は等しく無力だ。今こうしている間も刻一刻と私達は寿命を消費しているのだから、それを自覚してしまえば・・・確かに、それは恐ろしいことかもしれない。

「それでそれを考えたらさ、君のことを思い出したんだ。」

「・・・うん。」

「もう何年も会ってないのに、急に死ぬのが恐ろしくなったら、無性に君に会いたくなった。それでまあ、気付いたら電車に乗ってたんだ。」

「・・・うん。」

「だからね、きっと僕は彩音ちゃんにずっとずっと、多分物心ついた時からからずーっと恋してる。今日はね、それを伝えに来たんだ。」

「・・・。」

「返事は?」

あんなに恥ずかしいこと言ったのに、コイツは相も変わらず私に笑顔を向けてくる、少しは照れなさいよ。あんまりにもムードのない告白に文句の一つでも言ってやりたいのに、まともに央の顔を見ようとすると顔が熱くなる、鼓動がどんどん速くなる。子供の時はコイツのマイペースっぷりに振り回されて迷惑してたけど、ずっと一緒にいたいと思った、当然のように私から離れないと思っていた。・・・お別れの日、凄く凄く悲しくていなくなった後はしばらく放心してたっけ。そっか、あれが恋なのか。

「・・・たし、も。」

「?」

「私も・・・多分、好きなんだと思う。」

しばらく沈黙が流れて、誰からともなく手を繋いだ。目を瞑っても、お互いがすぐ傍にいるって感じられるのがわかる、一瞬一瞬がとてつもなく永く思えて、もし今君と死ぬのなら多分、この瞬間は永遠だったと笑いあうことができるのなら・・・それで、いいんだと思う。それから、色々な話をした。秋になったら温泉に行こう、冬が来たら一緒に雪だるまを作ろう、春になったらお花見をして・・・それから、これからは死ぬまでずっと一緒にいることを約束した。



それが、半年前の話。あれから季節は巡って冬になった、彩音ちゃんは初雪が降る前に死んでしまった。死因は交通事故に巻き込まれての失血死、勿論戦争にはなんら関係はない。結局、そういうものなんだと思う、いくら将来有望な人であろうと死は必ず訪れる。それはある日突然やってきて、呆気なく命を奪い去って行く。それは理不尽なことかもしれないけど、それでも・・・それでもそれを受け入れていくことが、僕達にできる唯一のことなんじゃないかと思う。



書いた後に見なおして、深夜のテンション怖ええと思いました。友人には褒められた。

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