表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

明日の約束

彼は、自分の言葉を思い返していた。


どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。


胸の奥が、じわじわと重い。


弱さを見せた。

隠してきたものを、渡してしまった。


(みっともない)


いつもなら、もっと上手くやり過ごせた。

何でもない顔で、距離を保てた。


なのに今日は、できなかった。


情けなさと後悔が押し寄せる。


それでも――


心のどこかが、

わずかにほどけている。


否定されなかったから。

拒まれなかったから。


それが怖い。


でも同時に、

どうしようもなく安堵している自分がいる。


(もっと……)


そこまで考えて、

思考を止めた。


これ以上望めば、壊れる。

そう分かっている。



彼女は、何も聞かなかった。


聞こうと思えば聞けた。

言葉も、励ましも、いくらでも渡せた。


でも今この人に必要なのは、

答えでも正しさでもない。


隣に誰かがいる、という事実だけ。


だから彼女は、ただ歩いた。


半歩前でもなく、

半歩後ろでもなく、

同じ速さで。


沈黙は重くなかった。


むしろ、どこか整っていくようだった。


会社の出口に着いたとき、

彼女はほんの少しだけ迷ってから、


「……明日も、コーヒー行く?」


できるだけ、何でもない調子で。



彼は一瞬、息を止める。


断る理由を探す癖が、

反射のように顔を出す。


でも今日は、

その言葉が見つからなかった。


代わりに出たのは、


「……うん。」


短い返事。


けれど、逃げなかった返事だった。



夜の空気は冷えている。


それでも胸の奥には、

小さな熱が残っていた。


それが何なのか、

まだ名前は分からない。


二人はそれぞれの帰路につく。


振り返らない。


ただ――


明日の約束だけが、

静かに灯っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ