第41話 約束の場所で全ての君へ
思い出した…全部、全部!!
忘れていたのは、記憶が無くなっていたのは結姫だけじゃなかったんだ。
俺もあの時の記憶をどこか遠くへ失くしていたんだ。
結姫はあの時のことを覚えているだろうか。
いや、きっと覚えている。
今思えば結姫の全ての言動は過去を想起させるには十分だった。
結姫はあの時の記憶を思い出さない俺を見てどんな気持ちだったんだろうか。
悲しかっただろう、辛かっただろう、やるせなかっただろう。
俺はなんてことをしてしまったんだ。
最低だ…。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
謝りたい、謝らなきゃいけない、今までの事を全て。
だから俺は探さなきゃいけないんだ。
人混みをかき分けながら必死に思考をフル回転させる。
結姫がいるとしたらどこだ…?
あの時走り去ってしまった理由は俺にもわかる。
そのまま家に帰った?まだここにいる?
どっちだ?どっちかすらも分からない。
でも、俺の本能はまだここにいると言っている。
いや……違う。
ここだけど、ここじゃない。
今なぜこのタイミングであの時のことを思い出したのか。
………いや、そうか。
そういうことだったのか。
なんでだ、なんで忘れていたんだ…!!
あの時、2人で小さな花火大会を開いたあの場所、また一緒に2人で来ようって約束したあの場所……!!
行かなきゃ、結姫が待ってる。
「すみません、すみません」
俺は謝りながら人混みをかき分けていく。
絶対に辿り着かなきゃいけないんだ。
花火が打ち上がるその前までに。
肩がぶつかる、足がよろめく、それでも止まらない。
だんだん人の通りが少なくなってきたように感じた。
あの約束の場所をめざして進み続ける。
人混みをぬけてちょっとした暗がりに足を踏み入れる。
昔は少し怖かったこの道も今はちっとも怖くない。
成長したなぁ、としみじみ思う。
神社の脇を駆け抜けて草木をかき分け前に進む。
俺を待ってくれてる人の場所へ、精一杯足を動かす。
そして、目的地が見えそうになったところで歩みをゆっくりにする。
1歩1歩地面を踏み締めながら歩く。
視界が揺れる、月明かりがぼんやりと差す。
静かな場所に俺の呼吸音と草木の揺れる音だけが取り残される。
草木の揺れる音を聞いてまた過去を思い出す。
結姫と出会ったあの日も、草木の揺れる音が聞こえたなと思い出す。
だんだんと呼吸も落ち着いてきた。
そのタイミングで俺は月明かりの差す場所に足を踏み入れる。
すると開けた場所の奥から唐突に風が吹き込んできた。
少し目を細めて手をかざす。
風が吹き抜けたあと手を避けて目をゆっくりと開く。
風に靡く髪。
朧気な背中。
すぐにでも消え入りそうな程の華奢な体。
視界に飛び込んできたのはそんな、美しい風景だった。
俺が忘れていたあの夏の日の思い出。
それが今、ゆっくりと重なった。
そこで俺は1度深呼吸をした。
そして意を決して口を開く。
「ごめんな、待たせたね《《ゆーちゃん》》」
その瞬間、夜空に大きな大輪が咲いた。
それぞれが輝きを放つ火球は夜空高くに打ち上げられ生き生きと輝いていた。
それは漆黒の空を一瞬にして色とりどりに埋めていった。
「もう、待ちくたびれましたよ」
結姫は顔を花火に向けたままそう言う。
「ごめんな」
「いえ、いいんです。勇気出せなかった私のせいでもありますから」
「でも…」
「大丈夫ですから、今はそういうのではなくて花火を見ましょう?ほら、綺麗ですよ」
あぁ、たしかに綺麗だ。
「これがあの時俺たちが見れなかった景色、なのか」
「そうですよ。あの時の約束、叶いましたね」
「あぁ、そうだな」
取るに足らない小学生の戯言を今でも胸に停めている。
それほど俺は想っていたのかもしれないな。
「なぁ、覚えてるか?」
赤、黄、緑…色とりどりな火球は夜空で躍動する。
それを見つめながらそっと口を開いた。
「俺たちが再開した時のこと」
つい数ヶ月前のことだがそれがだいぶ前のことのように感じる。
「あの日、雨が降っていたよな」
「そういえば、そうでしたね」
「傘を貸したの覚えてるか?」
「はい、もちろん」
「俺はさ、本当はそういうことする人間じゃないんだ。でもな、何故かその時はそうしてしまったんだよ」
それは何故か、言わずもがな分かる。
「本当に申し訳ないことに俺は結姫のことを忘れていた。でもな、俺は思うんだ。きっと神様がまた繋げてくれたんだろうなって」
そんな非現実的なこと実際にはあるわけが無い。
でも、それくらい不思議だったんだ。
「それでまた結姫と一緒に過ごし始めて俺は楽しかったんだ」
いつしか一緒に作ったご飯も、共に遊んだ記憶も、全部全部。
「そして自分でも気づかないうちにいつしか結姫の虜になっていたんだ」
そこで一呼吸置いてから再び話し始める。
「今の俺は《《ゆーちゃん》》に惹かれたんじゃなくて、《《結姫》》に惹かれたんだ。夢咲結姫という1人の少女が、たまらなく愛しく感じたんだ」
だから、と言って続ける。
「俺は過去に恋をしているんじゃない、今の君に恋をしているんだ」
そこで再び花火が打ち上がる。
少しの沈黙を埋めるように花火の破裂音が鳴り響く。
「俺が愛した《《全ての結姫》》に伝えたいことがあります」
そこで俺たちは向き合って見つめ合う。
「夢咲結姫さん、好きです。付き合ってください」
そして花火は再び空高く打ち上がった——




