第8話
【装備条件達成】
[カニバサミに装着されている間、アネモネは刺胞弾を発射できます]
[カニバサミに装着されている間、アネモネの特性《応援》のランクが2段階上がります]
は……?
[《刺胞弾》被弾対象に攻撃力130%の追加ダメージと毒状態を付与する。毒を受けた対象は10秒ごとにHPを5%ずつ消耗]
は………………?
何だそれ!?
ポンポンにこんな隠れ性能があるなんて、4年後だって知られてなかったぞ!?
「先輩……?」
「……あ」
「どうかしたっスか?」
「いや……」
俺はポンポンの武器詳細を確認する。
《応援A》(効果時間:60秒)
対象機のHP、攻撃力、防御力、命中、機動力がそれぞれランダムに5〜10%上がる。
応援のランクがCからAになって、効果時間が伸びてる!
しかも5ステータスが全部上がる上に、ランダムとはいえ必ず5%以上だなんてとんでもないな!!
「いくぞ、ゼン! しっかり叩けよ!」
俺はゼンに向けてポンポンを振った。
「え? おぉ? はいぃいっ???」
ゼンがわかりやすく慌ててるな。
サイドウィンドウでPTメンバーの機体情報を確認すると、HPと防御力に5%、機動力と命中に7%、攻撃力には10%の能力上昇がついている。
おお、いい感じについたじゃないか。
「ほら、効果時間切れる前に頑張れよ!」
俺の言葉に、ゼンが慌てて射撃を始める。
「クマさん、これは……!?」
アサギもゼン機のステータスを見たのか、驚きの声を漏らしている。
「アサギにも、ほれ」
俺はアサギに応援をかける。自分にもかけとくか。
いや待てよ? こんな強力なバフがホイホイ使えていいのか?
そうか。これはバフの主流であるプレイヤースキルじゃなくて、武器の特性だからSPを消費することなく使えるのか。
……いやいや、これはかなり……チート級のバフ武器なんじゃないか?
バフのかかったアサギのライフルは、2発で敵を沈めている。
「うわ、これは凄いですねクマさんっ」
攻撃と命中に10%か、凄いのはお前の運だろ。
俺はゼンの後方でゼンが倒し損ねた敵を狙う。
遠距離で狙えそうな敵にはレーザーもぶち込んでおく。
ゼンも頑張ってはいるが、まだ1人で1機沈めるのは難しそうだ。
ああ、刺胞弾も撃ってみるか。
射程が短めではあるが、投石よりはマシってとこだな。
「ぅあーっ、多めに残っちゃったっス!」
ゼンが悔しげに叫ぶ。
ちょうどいいな、あれで試そう。
はたしてこの敵達は、ステージにいつまで存在してるのか……。
俺の隣を通り過ぎる敵に向かって、すれ違いざまにポンポンを振る。
ってこれ照準合わせづらいな。投石ですらターゲットが出るのにこれは何の目印も出ないのかよ。勘に近いだろ。
ポンポンから8〜10個ほどの弾が放射状に飛び出した。
何とか1つは当たったな。紫色のエフェクト。毒効果発動だ。
リロードが長く連射できる武器ではないが、とりあえず『当てる』だけなら何とかなりそうだな。
俺は、紫色になった敵を視界の隅で見送ると、遠方の敵にレーザーを、前方の敵にマシンガンを撃ち込む。
ゼンも慣れてきたのか、少しずつ1人で削れるダメージ量が増えてきたな。
だがステージが中盤に差し掛かれば、現れる敵の数もグッと増える。
強制スクロールステージは、手付かずのまま通してしまう敵機がもったいないなと、俺も前から思ってたんだよな……。
23、24、25、26……。
俺は心の中でカウントを続ける。
あの敵の残りHPは12%だった。
ステージからすっかり姿を消した敵でも、10秒で5%ずつ敵のHPを削る毒がまだ効いているなら……。
30、と同時に、戦闘ログに『怪鳥シルビルを撃破しました』と表示が出た。
丁度、ゼンもアサギも敵を倒してないタイミングで。
これは使えるな!
思いもよらなかったポンポンの真価。
誰だよ、ポンポンがゴミだなんて言ったのは!
「クマさん? 今のは一体……」
お。アサギは気づいたのか、よく周囲を見てるな。
「毒のスリップダメージで死んだみたいだな」
「毒!? 毒武器をお持ちなんですか!?」
現時点で知られている毒武器は毒爆弾と呼ばれるUR武器のポイズンランチャーだけだ。
グレネードランチャー状の武器だが、回転弾倉式で6発までは連射できる。まあ、その後のリロードには15秒かかるけどな。
けど俺の装備を見る限り、そんな物は装備してないので驚いたんだろう。
俺はマシンガンを放ちながら答える。
「詳しい話は後でな。まずはしっかり倒すぞ」
あと5秒でゼンのバフが切れるな。
毒ダメの効果もはっきりしたし、ここからはレーザーと毒攻撃の組み合わせでいくか。
俺はマシンガンを上げると、通り過ぎる敵に刺胞弾を放つ。
んで、ゼンにはこっちな。
俺はポンポンの効果を切り替えると、ゼン、アサギ、そして自分にバフをかける。
これ、いちいち戦闘中に手動で切り替えるのは手間だな。
あとでショートカット登録しておくか。
マシンガンは手数を増やして少しでもダメージを稼ぎたいこんな時には向いてるが、弾代が結構かかるんだよな。
刺胞弾は必要なのが燃料だけっぽいし、資金の面でも助かりそうだ。
まあ、襲ってくるタイプの敵相手じゃ、こんな悠長に毒が効くまで待ってはいられないだろうけどな。
強制スクロールステージと相性が良さそうな武器だ。
「やったーっ! 10%が2つ来たっス!」
「よかったな」
「僕は下がっちゃいました……」
「お前は十分倒せるだろ」
俺が突っ込むと、アサギは笑って「そうですね」と答える。
「そろそろ敵増えてくるからな、気合い入れろよ」
と言ってしまってから、俺はこのステージは今日が初見のはずだった。と気づく。
「よくご存知ですね」
「動画で予習したんスか?」
動画か、その手が……って、これでもしどこにも上がってなかったら余計怪しいよな。
「いや、このパターンならそろそろかと思ってさ」
俺はなるべく安全な方へ舵を切る。
俺に応えるように、敵影が遠目にも増えてくる。
「あっ、先輩の予想通り、いっぱい来たっス!」
「撃ち漏らさずいくぞ!」
「はい!」「ういっス!」
その日のPT出撃は1度だけだったが、大量の強化素材を手に入れて、ゼンは満足そうにログアウトした。
よかったな、ゼン。
明日はしっかり寝て、疲れを癒すんだぞ。
「さて、俺も寝るかな」
メディカルピアリスが来てから、俺はまた規則正しい生活が送れている。
土日はピアリスは出てこないとはいえ、せっかくのリズムを崩さないようにしておかないとな。
「クマさん。少しお尋ねしたいんですが」
「ん、なんだ?」
ポンポンについては、もうステージクリア後に2人には見せたし、そうじゃないならなんだ……?
「クマさんはしばらくお仕事はお休みなんですか?」
「ああ、2月の中頃までは休みだな」
「それは……長いですね……」
「いや別に、病気だとか失業中だとか、そんなんじゃないから心配しなくていいぞ?」
「はい、それは先ほどの会話で分かりました」
「そうか」
うーん、アサギはやっぱり頭がいいよな。地頭がある上に、教養がしっかりあるというか、品が良いというか……。
ああ、これが育ちが良いってやつか。
「もしクマさんが良ければ、これからは日中も一緒に遊んでもらえませんか?」
「そりゃいいけど……?」
そんなの、わざわざ断りを入れるようなことか?
「それで、その際、僕の友達……というかその……」
うん? こんな風に歯切れの悪いアサギは珍しいな。
「僕の……彼女も、一緒でも良いでしょうか」
「彼女!?」
俺の言葉に、アサギの機体が、どこか申し訳なさそうに俯いた。
「……はい」
俺は慌てて口を開く。
「いやいや、彼女がいるのは良いことだし、一緒にゲームするほど仲が良いのはさらに良いことだけど……」
彼女と遊ぶなら2人きりで遊べばいいだろう。
カップルに俺が1人混ざるってどういうことだよ。
アサギは、じっと俺の言葉の終わりを待っている。
……違うか。
2人で遊ぶ方が良いならわざわざ頼まないよな。
アサギが申し訳なさそうなのは、俺が気まずいだろうから、か。
「……2人じゃ難しいステージに行きたいって事か?」
「はい……」
「アサギで厳しいステージなら、俺じゃもっと厳しいだろ」
「すみません……」
そこまで分かってて、それでも連れてってやりたいって事か。
彼女に見せたいような景色の綺麗なステージで、高難易度といえば、この時期だとレインボーエクスデスステージか?
さっきのステージのゴールに設定されていた空中都市から2つ先のステージで、虹に囲まれた空中神殿だ。
ただボスステージでもあり、天使長が乗っているとされる規格外サイズの大天使ロボがめちゃくちゃ強い。
初期からあったボスステージの中でも長いこと高難易度ステージのランク10に入り続けてたステージだよな。
今の俺の機体じゃ流石に無理だ。行くならあと2ヶ月ほどは準備期間が欲しい……。
俺が脳内でレインボーエクスデスステージの攻略情報をかき回していると、アサギが言った。
「彼女がどうしても、地下下水の迷宮ステージを完全攻略したいらしくて」
「は!?」
下水ステージなんて、暗いし狭いしネズミロボばっかりで、良い素材もレアドロップもほとんどないって場所だぞ?
初心者がチュートリアルで初めてのレベル上げに使う場所で、レベルが2桁になる頃には皆卒業する。
そんなとこで………………。
ん?
「……迷宮ステージ?」
『迷宮ステージ』なんて単語がロボワに出てくるのはギルド機能が実装されてしばらくしてからじゃなかったか……?
俺は目を閉じて記憶をたどる。
下水の……迷宮ステージ…………確かにあったよな。
リリースから2年後だかもっと後だかにそんな投稿を見て、一応攻略情報は見た……はずなんだが、貰えるアイテムは当時の俺には必要なかったし、攻略に人数がいるタイプのステージで当時のソロプレイオンリーな俺には無理そうだったんだよな。
それでも、二周目攻略が決まった後で一度ステージクリアを検討した記憶があるので、迷宮ステッカーと呼ばれる迷宮ステージを完全クリアした際にもらえる報酬パーツはそこそこ良かったはずなんだよな。
なんだったっけな……。えーと……。
「下水ステージをクリアした時に条件を達成していると現れる隠しステージのようで、中が入り組んだ迷路のようになっているステージです」
黙ってしまった俺に、アサギが説明してくれる。
「最初はランダムマップなのかとも思ったのですが、どうやら迷宮自体は固定マップみたいで……。先週彼女が発見して、昨日今日は僕も攻略に付き合ったんですが、まだマッピングが終わってないんです」
いや……大学生カップルが彼女と2人でわざわざマッピングが必要な迷宮に潜るもんか……?
「ちなみに、このゲームを僕に強引に勧めてきたのは彼女です」
『強引に』という部分を強調して、アサギが小さく苦笑する。
ああ、アサギの趣味に付き合ってくれる彼女っていう俺のイメージがそもそも間違いなんだな。
実際は、彼女の趣味に付き合っているのがアサギなわけだ。
「まあ、今では僕も楽しく遊ばせてもらってますけどね」
そう言ってアサギが笑う。
「そりゃよかった。んじゃ迷宮ステージには明日ゼンも誘って4人で行くか?」
行くなら、人数は多い方がいいだろう。
「それが、彼女は平日の16時以降20時までがログインできる時間帯なんです。火曜と木曜は授業によっては昼から出来ることもありますが……」
ああ、日中にって最初に言ってたもんな。
「けど、人数がいるステージなら3人じゃ辛いだろ。他に呼べそうな奴はいないのか?」
「他に……ですか。学友に声をかければ数は集められると思うのですが、その……彼女は喜ばないと思うので……」
……?
人見知りか……?
いやそれならわざわざ俺を呼ばないよな……?
よくわからんが、とりあえず俺は月曜にアサギ達と下水迷宮に行く約束をした。
***
月曜日、アサギの招待を受けて練習場のインスタンスサーバに入った俺に、アサギの彼女は開口一番こう言った。
「お前は、リボルバーが好きか」
――何でだよ!?




