第6話
「最後の質問です」
ん? まだあるのか?
「ピアリスとまた会えて嬉しいと感じる」
……何だそれは。
ピアリスは神妙な顔で俺を見つめている。
俺は苦笑しながら「もちろん、1だよ」と答えた。
ピアリスがぱあっと破顔する。
「私もです、長尾様」
「ああ、その長尾『様』ってのは流石に、家で呼ばれるには堅苦しすぎるから、ちょっと変えてもらうかな」
俺の言葉に、ピアリスは一瞬驚いた顔をして、それからにっこり微笑んだ。
「はい、何とお呼びいたしましょう」
なんか、ピアリスが妙に期待に満ちた顔してないか……?
船に乗っていた船員は、皆特定の呼び方を指定することができたから、やたら親しげなあだ名で呼ばせたり、王様だとか神様だとか呼ばせて遊んでる奴もいたが、別にそういうんじゃないんだよな……。
「『様』の部分を『さん』に変更してくれ」
「え」
ん? 聞きとれなかったか?
「敬称の『様』を『さん』に変更してほしい」
「……かしこまりました。長尾さん」
よしよし、ちゃんと変更できたな。
「それじゃ、朝のメディカルチェックはここまでだな?」
「はい」
「ピアリス……つーかメディカルピアリスは毎日の起動時間に制限ってあるのか?」
「勤務時間は平日9時から17時までとなっております。その間に2回のメディカルチェックを実行できれば、そのほかの時間はスタンバイでもスリープでも構いません」
ん? なんかピアリスしょんぼりしてないか?
「んじゃ、俺はちょっと下のコンビニで飯買ってくるから、この後飯付き合ってもらっていいか? 1人じゃ味気なくてさ」
途端、ピアリスが笑顔になった。
「はいっ。とても心の健康に良い選択ですっ」
さっきのは俺の気のせいだったみたいだな。
まあ俺の預かってるような携帯型ホログラムデバイスでは、船内ほど高解像度では出力できないだろうし、あんま細かいことは気にしない方が良さそうだ。
「お帰りをお待ちしています。どうぞお気をつけて、長尾さん」
俺は顔と歯だけ磨くと、パジャマがわりのスウェットにジャケットだけ引っ掛けて外に出た。
10月も終わりに近づいてるってのに、まだまだあったかいな。
日差しが目にくるのは、寝不足のせいか……。
コンビニに入ると、聞き覚えのある曲が流れていた。
思わず足が止まる。
「っ……」
手足が冷えてゆくような感覚に気づかないふりをして、俺は無理矢理足を進めた。
「この曲懐かしー」
「うちの子も好きだったわー、ライブにも付き合わされてね、10回も行ったんだから」
俺の親とそう変わらないくらいのおばさん達が、おにぎりの棚の前で話している。
「あらいいじゃない親子で一緒に楽しめるなんて」
「違うのよ、中学生1人じゃ会場に入れないから保護者がいるのよー」
俺はそんな会話をなるべく耳に入れないようにしながら、飲み物を取りに行く。
今日と、明日の分まで買っておくか。
カップラーメンに、缶詰、パンを手にとって、一度通り過ぎた冷凍の棚に戻る。
こんな肉と炭水化物ばっかじゃピアリスが文句言うからな。せめて冷凍の野菜だけでも買ってくか。
そうこうしてるうちに、店内に流れていた曲はCMへと変わった。
幾分かホッとした気持ちで、俺はおにぎりの棚に向かう。
そこにはまださっきのおばさん達がいた。
「そーそーっ、翔真くん可愛かったわよねーっ」
「本っっ当に、最初の頃は本当に初々しくてねーっっ」
よりによってこのタイミングでアイツの話してんのかよ……。
俺は内心でため息を一つ吐くと、横から腕を伸ばしておにぎりを3つ掴んでレジに向かった。
***
うー……やっぱ眠いな……。頭がぐらぐらする。
ロボワの暗い格納庫でポチポチポチポチ地味な武器強化作業をしていると、時々意識が飛びそうになる。
こんなぐらんぐらんで作業するよりは、ちょっと昼寝するほうがマシか……?
そんな昼下がりにポンと届いたメッセージは、アサギからだった。
『クマさん、お知らせはご覧になりましたか?』
お知らせ?
ホーム画面に戻ると、新着のお知らせが上がっていた。
更新時刻は13時、まだほんの5分ほど前じゃないか。
内容は、来月10日からランダム対戦のポイント式PvPリーグ戦『ポイントリーグ』が10日間開催されるという、新機能実装の告知だ。
そうか、来月からはPvPが始まるのか。
俺の脳裏に、繰り返す接続エラーで毎月参加賞を取るので精一杯だった過去のPvPが蘇る。
だが、今の俺なら、参加賞じゃないもっと上の報酬だって狙えるはずだ。
俺は告知の詳細ページを開いて、各リーグの受取報酬を確認した。
『ポイントリーグ』はポイントごとにランクが上がっていくようになっている。
ブロンズランク、シルバーランク、ゴールドランク、その上がプラチナ、ダイヤモンドだな。
まずはシルバーに入るのが最低目標ラインってとこかな。
ゴールドまで入れればかなり報酬が良くなる。できればそこまで狙いたいところではあるが、まだ俺の機体は完成度が低いからな……。
俺はホーム画面からガチャ画面を開く。
俺が今持っているダイヤは2730個。
ロボワではダイヤ300個ごとにガチャが1回引けて、3000ダイヤで10連を引けばSSRが最低1つは確定で出る。
やっぱ、10連まで……、せめてあと270個はダイヤを集めてから引きたいよなぁ……。
基本的にソシャゲにおけるガチャ石というのは、ほとんどのサービスで1〜2日で1回はガチャを引ける程度に配布されるものだが、ロボワその点がかなり渋かった。
毎日のデイリーミッションで手に入るダイヤは30個。
そこに初心者ミッションや期間限定ログインボーナスを加えて、ようやく週に2回引ける程度になる。
つまり、無課金では一ヶ月待っても10連が1度引けるか引けないかというところなんだよな……。
今までの俺のロボワは無課金縛りプレイだった。
けど、今回の俺にそんな縛りはない!!
俺はロボワを一度閉じて部屋を見回す。
スマホは机の上に乗っていた。
俺はスマホで今年作ったばかりのクレジットカードのアプリを起動する。
……なんか、ちょっと緊張するな……。
今まで他のソシャゲに課金したことのない俺にとっては、これが初のゲーム課金だ。
いや、別にいいよな。
俺が稼いだ金だし、そんな重課金するつもりもないし。
4年目のあの時、俺は自分の無力さを痛感した。
俺は、俺の4年間を支えてくれたこのゲームに、何の礼もできないままだったって。
次は少しずつでも課金して、もっとロボワに還元したいって、そう思ったんだ。
……少しずつ……って、そういやロボワには定期購入の課金プランもあったよな。
俺はロボワを開いて、定期課金プランのページを開く。
えーと……、毎月980円でダイヤ1500個と育成素材がもらえるプランに、毎月2000円でダイヤ3000個と育成素材……お、SR育成素材も入ってるのか。
次が毎月3000円でダイヤが4500個とSSRの育成素材だな。
5000円と10000円のプランは……俺にはまだちょっと敷居が高いか。
ダイヤを直に購入すると、一番少ない160円で140個、480円で430個、1000円で930個、1500円で1430個、3000円でようやく3000個になる。
つまり定期購入だと、普通にダイヤだけ購入するよりずっと得するようにできてるんだな。
ただしプランの特典は1プレイヤーあたり1月に1回のみで、複数のプランに入ることはできないって具合か。
ロボワ運営を応援したい俺には、ダイヤを直に買うより、毎月定期的に応援できるこっちがいいんじゃないか?
よし、じゃあ2000円の……いや、うーん……。
今の俺にはSR育成素材の入手が最優先事項ではある。が、後々余りだすSR素材より、その先で必要となるものの手に入りにくいSSR素材を今の内から少しずつでもためておくべきだろうな。
俺は意を決して、月々3000円プランのボタンを押す。
購入手続きをして……、認証を突破して……。
これで、完了だよな……?
俺、何もヘマしてないよな……?
途端、ポンと届いたメッセージに、俺は思わず小さく跳ねた。
うを……ビビった……。
アサギか。そういやメッセージの返事をしてなかったな。
『クマさんはPvPに参加されますか? 僕はもちろん参加するつもりです!』
あはは、こいつはこれが言いたかったのか。
俺はずっとオンラインだったのに、返事待たせちまって悪かったな。
『俺も参加するよ。お互い頑張ろうな』
と書いて送れば、間髪入れずに『ファイト!』のスタンプが返ってきた。
よし、そんじゃPvPで俺より強いアサギと肩を並べるためにも、まずはガチャを引くか。
プレゼントボックス……ログインボーナスアイテムや運営からの詫び石等を受け取る画面を開くと、さっき入ったばかりのプレミアムプランCの加入特典が届いていた。
受け取れば、俺の所持ダイヤ数は7230個になった。
ガチャの画面を開いたところで手を止める。
いや待てよ……?
ロボワでは毎月PvPの開催に合わせて、期間限定のピックアップガチャが来てたよな。
今あるガチャはリリース記念のチケットガチャとレアガチャという名の恒常ガチャだけだ。
今引くよりは、PvPガチャが来てからの方が良さそうだ。
7230個という数字を見ているとどうにもウズウズしてしまうが、俺は大人だからな。
こんなところで、こんな誘惑なんかに、俺が負けるわけ……――。
キラキラと金色に輝く格納コンテナ。
SSR確定演出だ。
……そりゃまあ、SSRは確定だからな。
くっそぉぉぉぉぉぉぉURは来ないのかっっっ!!!?
課金までした俺の3000ダイヤが!!
――っじゃないだろ!!
ガチャは来月のピックアップが来るまで待つんだったよな!?
何でもう引いてるんだよ俺は!!!
俺は、堪え性のない自分をなじりつつ、祈る気持ちでボタンを押した。
どうかUR武器が出ますように!!
できれば広範囲レーザー!
それがダメなら長距離レーザー!
この際ライフルでもいい!!
来てくれ! UR武器――……っっっ!!
4つ目のコンテナがゆっくり開く。
七色の光が溢れ出して、ディスプレイいっぱいに広がる。
UR演出だ!!!!
運は俺に味方したんだ!!!
光の中からシルエットが浮かび上がる。
……こ……これはまさか……!?




