タイムバック
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それから半年。
俺たちの乗ったピア・オデッセイ号は無事地球に戻ってきた。
宇宙港での初めてのタイムバックは一瞬の無重力感にちょっと目眩がしたくらいで、俺は大した実感もないまま4年前の地球に回帰した。
東さんを除いた船員68名は、本社での健康チェックと聞き取りの後、いくらかの書類仕事を済ませてほぼ全員が定時で帰宅した。
一人暮らしの自宅の玄関ドアを開けると、見覚えのある廊下と扉が見えた。
「家はあんま変わってないか。こっちじゃまだあれから70日ちょいしか経ってないもんな」
俺にとって4年ぶりの自宅は、家具に少し埃が積もった程度の変化しかなかった。
俺は初期化しておいたVRゴーグルをネットワークに繋ぐと、ロボワをインストールさせながら、荷解きと掃除を済ませて、コンビニで買った夕食をかっ込む。
あとは寝るまでロボワの時間だ!!
おっと、もうピアリスはいないんだし、うっかり深夜までやり過ぎないように寝る時間にアラームが鳴るようセットしておくか。
……これでよし、と。
「行くぞ! ラグくないロボワの世界へ!!」
俺は気合いと共に早速VRゴーグルをかぶる。
ロボワのタイトルから、ログインしてローディングに入る。
今までならここからホーム画面までに数分から45分ほどかかっていたが、地球では3秒と待たずにホーム画面が表示された。
「おっ、すっげぇ早ぇ!!」
こんな時、今までなら隣でピアリスが「良かったですね、長尾様」と声をかけてくれてたな。なんて頭の隅で思う。
後半の2年はほとんど俺とピアリスの二人きりだったからな。
気づけばいつも、ピアリスは俺の隣にいた。
おそらく話し相手のいなくなった俺のために、ピアリスはなるべく俺の側にいてくれたんだろう。
そのせいだろうか、つい独り言を口にする癖がついちまったな。
一人の部屋が少し寂しく感じないこともないが、部屋の外から聞こえる都会の喧騒に、この地に生きる人々の気配を感じて、俺は地球にいることを再確認する。
ピアリスはあの船の専用ガイドだから、またあの船に乗るときには会えるだろう。
俺は、ホーム画面から更新情報や不具合情報の確認をする。
これだって、今まではそう簡単に覗けなかった画面だが、今なら気軽にチェックできるな。
ミッション報酬の受け取りも都度できるし、ショップもいくらでも覗き放題だ。
俺が無意味にショップ内のページをめくっていると、ポンとメッセージ通知が来た。
『先輩お帰りなさいっス! 今回はお疲れ様っス!』
お。芦谷か。
職場の後輩の芦谷は、今月1日のサービス初日からロボワを始めたのはもちろん、リリース前の先行登録もしていたくらい俺と同じくロボ好きで、このゲームを楽しみにしていた奴だ。
だがこいつは3周年くらいの頃から、ロボワにログインしなくなるんだよな。
俺はゲーム内チャットもオンライン表示も制限されてたから、理由を聞くことはできなかったが、飽きたのか、それとももっと他に面白いロボゲーを見つけたのか……。
今回のピア・オデッセイ号の事故は一般社員には知らされてないので、発言には気をつけないとな。
『おう、ただいま。お前は元気にしてたか?』
『もっちろんっ! 風邪ひとつひいてないっス! 今通話大丈夫っスか?』
『ああ』
相変わらず元気だな、なんて苦笑しながら芦谷善人……ゲーム内ニックネーム『ゼン』のプロフィールを開くと、プレイヤーレベルは20になっていた。
コール音に応えると、サイドディスプレイにゼンとの通話画面が表示される。
「そっちは随分レベルが上がってるな、羨ましいぜ」
残念なことに、リリースから15日経った今日の時点で、俺のレベルはまだ7だ。
「しょーがないっスよ、先輩は今日までずっと宇宙だったんスから」
ゼンはそういって励ましてくれるが、それでも、本当に俺がこの日に地球へ帰ってきていたなら、帰路では地球との距離も徐々に近付いて、もう少しレベルも上がってたはずなんだよな。
俺のデータは帰還予定日まで火星の辺りから地道に少しずつ初心者ミッションを進めていた頃の状態に戻っていた。
機体やアイテムの一覧には、今まで俺がピア・オデッセイ号でコツコツ4年間改造を繰り返してきた愛機も、集めた資材も残っていない。
いや、ここにはそんなもの最初から存在しないんだよな。
とはいえ、ここは残念がるとこじゃない。
俺は、今日から地球でロボワを始めるんだ!!
「じゃあ俺はひとまず初心者ミッションを終わらせてくるよ」
「あ、先輩はまだ初心者ミッション中なんスね。終わったら声かけてほしいっス、オレ先輩のレベル上げ手伝うっスよ!」
「ああ、ありがとな、また後でな」
そう言って通話を切った俺は「っしゃぁッ!!」と思わずガッツポーズする。
4年間ずっと憧れて、でもずっとできなかったPTプレイが早速できる!!
何気に通話もロボワでは初めてだったしな!
こんなに興奮したら、船だとピアリスがすっ飛んできて血圧がどうのとか言ってたな。なんて思いながら、俺はしっかり頭に叩き込んだ『最高の機体を組み上げるまでのロードマップ』を脳内で広げると、スタート地点を確認する。
「待ってろよ、すぐに追いつくからな!」
俺は手早く機体メニューを開くとベース機体を変更して、セッティングを精一杯の水中装備に変更する。
すぐにステージメニューから、残りのミッションを達成しつつ目当てのアイテムを拾える海底ステージを選択して出撃ボタンを押した。
8秒ほどのローディングの後、俺の目の前には限りなく広がる海が現れた。




