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超楽しみにしてたロボゲーが、地球に戻る前にサ終したので、過去に戻ってやり直す!  作者: 弓屋 晶都


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第4話

俺の右隣で、俺やゼンと同じ逆関節タイプに乗っているこの男。

ニックネームはアサギ。大学生だ。


練習場で声をかけてきたアサギに「キョーミあるんなら、オレと一緒にやってみるっスか?」と気安く誘ったのはゼンだった。


3日前、俺がボスダコをソロ討伐した話を聞いたゼンが「俺もやってみたいっス!」と言い出したので、俺とゼンは練習場に来ていた。

ここは武器の試し撃ちや技の試し撃ちができる場所で、弾は練習用ターゲット以外の機体に当たってもダメージが発生しない。完全な安全地帯だ。

オープンサーバーのため、数少ない他ユーザーと直接交流ができる場所でもある。

俺1人で使う時はいつも自分専用のインスタンスを作って1人だけでやるんだが、ゼンは「もしかしたら友達が増えるかもしれないじゃないっスか」と元気にオープンサーバーに入場した。

……ので、俺も仕方なく入ってきたところだ。


ゼンは逆関節タイプに乗るのも、姿勢のオート制御を外すのも初めてだと言うので、少し練習をさせようと思ったわけだが……。

後方ジャンプが成功せず、ひたすら仰向けに転んでばっかりのゼンを見て、声をかけてきたのがこのアサギだった。


「こんにちは、つかぬことをお伺いしますが、お二人は一体何をなさってるんですか?」

声は若いが丁寧で率直なアサギの質問に、高笑いを上げたのはゼンだ。

「ふははははは、よくぞ聞いてくれた!」

何でだよ。そこは「こんにちは」か「こんばんは」じゃねーのかよ。

「オレ達は秘密の特訓をしていたのだ!!」

オープンサーバーに入ってすぐ見えるような場所で、どこが「秘密」なんだよ。


「おや、秘密だったんですか、これは失礼しました」

クスクスと笑い声を漏らしながらも、アサギは爽やかな青緑色の逆関節機体で一礼して立ち去ろうとする。

へえ。逆関節機でこんな動きができるなんて、なかなか器用なやつだ。

「あっ、待ってくださいっス! 全然秘密じゃないっス!!」

ゼンが慌てて後を追う。


そんなやりとりで、ゼンとアサギはあっという間に仲良くなり、なぜか俺は2人に後方ジャンプを教えることになっていた。


俺が二人の前で跳んで見せると「「おおー」」と声が上がる。

いや、ゼンにはさっきも見せただろ。

何でまた驚いてんだよ。

「やっぱ先輩はすごいっス!」



「なるほど、姿勢のオート制御が外せるのは知っていましたが、こんな技が……」


技ってほどでもないけどな。


「外してみたらやたらと転ぶので、すぐオートに戻してしまった自分が恥ずかしいですね。もっと色々試してみればよかったです」

そう言いながら器用に後方へ跳んだアサギが、着地でバランスを崩す。

その隣に、ゼンが背中からズドンと着地……いや、落下した。


いやまあ、このやり方が一般的になるのはもうちょい後だからな。

「自分で試しただけ偉いよ」

俺が言うと、アサギは小さく笑って「ありがとうございます」と返事した。

大学2年生って事は、20歳くらいだよな? ゼンの3歳下のはずだが、落ち着いた雰囲気からかゼンよりずっと大人に見えるな。


「おわわわわっ!」

ゼンがまたもや背中で着地した。

俺なんかはついつい角度が十分つくより前にジャンプしがちだったが、ゼンはしっかり斜めになってから跳ぼうとするのか、さっきから機体が床を引きずってばっかだな。

「お前はもうちょい早めに跳んだらどうだ。それと、飛んだら着地までに頭を前に出せよ」

「わかったっス!」


元気に答えて立ち上がったゼンが、ふと気づいたような様子で言う。

「あ、先輩はデイリーミッションとか行ってくれてて大丈夫っスよ、オレまだちょっと、もうしばらくかかりそうっス」

もうしばらく……って、お前、まさか今日中に習得する気なのか?

俺は、それが完璧にできるようになるまで2週間かかったんだが??

「僕もまだ少しかかりそうですね。でもやり方はわかりました。どうぞ、僕達に構わずクマさんのお時間を有効に活用してください」


「……いいのか?」

「はい」「っス!」


……まあ、2人がそう言うなら、昨日行きそびれた曜日ステージに行ってくるか。


「じゃあ、ちょっと行ってくるな。終わったら戻る。ありがとうな」


「行ってらっしゃいっス!」「お気をつけて」

二人の声は、カメラ機能のついていない俺のゴーグルでも笑顔で言ってくれたのだと分かるような温かい声だった。


***


昨日稼いだ資材で、今できる限りの強化を済ませて、曜日ステージを開く。

ああ懐かしいな、この画面。

曜日ステージは周年ごとに新ステージが追加されていったので、4年前に戻る前の俺が毎日回ってたのはこれより3つ上位のステージだった。

初期の曜日ステージなぁ、どんなんだったっけ?


初級、中級、上級のうち、少し迷ってから中級を選ぶ。

初級なら間違いなくクリアできるはずだが、中級も……ちょい頑張ればいけるんじゃないか?


首を傾げながら『灯花の丘ステージ・中級』に入った俺の目の前には燃え盛る花畑が広がっていた。

「あー、そうだ。こんなんだったな」

パチパチと音を立てて弾ける火花。

機体の温度が足元からどんどん上がってゆく。

俺は冷却スイッチを強に切り替えて、丘を目指して跳ぶ。

確か、丘の上に乗っているでかい岩、あれをひっくり返して地面を確保して……。

いや、そもそもあの岩何キロだ?

俺の軽装備で持ち上がるのか?

待てよ、なんか小ワザがあったよな。


ピーピーと鳴り出したのは、脚部が耐熱温度を超えているという警告音だ。

次いでガクンと移動速度が下がる。

くそっ、脚部パーツが熱で変形したか。

逆関節タイプは着地時にどうしても脚部パーツに衝撃がかかるからな。


ディスプレイに敵機との遭遇を示す『接敵』の警告が出る。


マズイ、まだ足場が確保できてないぞ!

俺はスパナを取り出すと、脚部パーツを取り外す。

歪んだ装甲で速度が落ちるくらいなら、外して身軽に動くほうがマシだ。

こんなことなら、予備パーツも積んでくるんだった!


出現地点をぐるりと取り囲むように現れたのは、ハチドリのような細長い嘴を持った、燃える翼の小型の鳥型ロボだった。

確か、この丘一面に咲いた燃える花の蜜を吸うって設定なんだっけな。

花自体が大きいからか、ハチドリロボもそれなりの大きさだ。


俺は出現地点から大分移動してたので囲まれこそしなかったが、ハチドリたちはすぐ俺に気付いて向きを変えた。


くそっ、なんとか足場を確保しないと!

ここで応戦したら、戦ってる間に機体が熱にやられる!

咄嗟に、外した脚部パーツをカニバサミで掴んで足元に生える灯花を土ごと削り取る。


ガツン、と脚部パーツが何か硬いものにぶつかった。


何だ?

それを確認するより早く、ハチドリロボから弾丸が飛んでくる。

その場で大きく跳ぶ。

意図せず機体が傾いた。


そうか、脚部パーツを剥がしてバランスが崩れてるのか!

大ジャンプはマズかった!


ぐんぐん空に上がった機体がゆるりと落下を始める。

姿勢は戻せそうにない。


くそっ、引き戻せないなら仕方ない!

このままカニバサミを大きく振って、一回転!

落下までに……っ、間に合え!!


ズドン!!


よし、何とか着地できた!!

損傷はいくつだ!?

脚部の損傷を示す数値が18%なのを横目で確認しながら、迫るハチドリロボに攻撃する。

1、2、3機撃墜、敵は全部で15機くらいか。

また攻撃が来る。

燃える花の上に避けると脚部がまた熱でやられる。

けど中ジャンプ程度では当たりそうだ。

俺は思い切ってもう一度大きく跳んだ。

今度は少し角度をつけて、後方、丘の方へ。


やっぱり!

角度がある方が軽い脚部が上がりにくいな!!


跳びながら、ライフルをわざと高めに掲げて攻撃する。

よし、この程度ならジャンプ中もバランスを崩さず撃てるな。

4機目の撃墜と、5機目の残りHPを確認しながら、着地と同時にもう一度跳ぶ。


予定より遅くなったが、大岩のある丘に着いたぞ!

あとは岩を……っ、やっぱり俺の機体じゃ動かせそうにないか。

俺は、外した脚部パーツと、さっき土地の中から引っ張り出してきた長い棒を手早く組んだ。

この棒が、さっき地中で脚部パーツとぶつかって音を立てた物の正体だ。


このマップにはところどころにロボットの残骸が埋まっている。

この棒も、そんなロボットの残骸の一つだろう。


ハチドリロボが迫る。

俺は真上に跳んだ。


ハチドリロボが攻撃姿勢を取る。

「これでも食らえ!」

俺は、大岩の下に差し込んだ棒の端を目掛けて飛び降りた。


どでかい大岩が、テコの原理で持ち上がり、一瞬宙に浮く。

俺はカニバサミで小さな岩を投げつけた。


ガツン!


ぐらり。と向こうに傾いだ大岩がハチドリロボ達を押しつぶす。


ボムッ! ボムッ! ボムンッ!

3機が潰れた音がする。


俺は大岩のあった場所に立つ。脚部の損傷率は80%に近い。

もうこれ以上のジャンプは難しいだろうが、安全な足場さえ確保すれば、ハチドリロボの単純な攻撃など恐るるに足らず、だ。


ハチドリロボは残り8機、全ての敵機が俺の視界の内にいることを確認しながら順に撃墜していく。

向こうからの攻撃も、これだけ場所があれば十分避け切れる。


ここまでピーピーピーピー鳴りっぱなしだった耐熱温度超えの警告音も、腕、胴、と順に静かになってきた。


「お前で最後だな!」


15機目のハチドリロボを撃墜すると、ステージクリアメッセージが表示された。

次いでリザルト画面が表示される。プレイヤーレベルも1つ上がったな。


ん? 戦闘中にメッセージが来てたのか、気づかなかった。戦闘中の通知音ってオフなのか?

メッセージはゼンからだ。

『センパーイ! まだできてないんすけど、ちょっと来てもらっていいスか?』


なんだ? 躓いてんのか? 行ってみるか。


オープンサーバーの練習場に入ると、何やら人だかりができていた。

ゼンたちはどこだ……?

いや待てよ、あいつらが練習してたのって、あの辺りだったよな……?


「あ、センパーイっ! こっちっス!」

人の輪の中から、ゼンがぴょんぴょんと飛び跳ねて俺に手を振る。


マジかよ……。


何でそんなに人が集まってんだよ。

あんな人の多いとこ行きたくないんだが……。

……俺もう帰っていいか?


思わず後退った俺が、退出ボタンのあるサーバーメニューを開いたとき、人の輪から抜け出したらしいアサギが駆け寄ってくる。

「クマさんすみません、いつの間にかこんなにギャラリーが増えてしまいました」

「ギャラリーって……」

「皆さん、斜めジャンプに興味津々みたいで、ゼンさんが皆さんにもやり方を説明してしまったんですが、良かったでしょうか」


良かったか、と聞かれると、正直なところあまり良くはない。

技術を独占したいなんて言うつもりはないが、本来ロボワでこれが広まるのはもっと後のはずだからだ。

些細な事ではあるだろうが、これでは、俺が……、歴史を変えてしまった事になるんじゃないか……?


「クマさん……?」


アサギの心配そうな声に、ハッと我に返る。

しかし、なんて言えばいいもんか……。

「ああいや……、ちょっと事情があって、まだ今はあまり広めないでほしいんだが……」

俺の言葉を最後まで聞いて、アサギは「分かりました」と返事をした。


「僕がインスタンスを作りますね。招待を送りますので、先にフレンド登録をお願いします」

言うが早いか、ポンとフレンド申請の通知が届く。

ゲーム内のフレンドなんてゼン以外に作るつもりもなかったが、ここで俺が断ると余計面倒になるか……。

俺は一瞬だけ躊躇ってから『承諾』ボタンを押した。


「ありがとうございます」と言ったアサギがすぐに消える。

今、練習場のインスタンスサーバを立ててるんだろう。


人の輪の中からは時々ドンと落下音が聞こえてくる。ゼンか誰かが今もジャンプの練習をしているようだ。

俺はその場で高く跳んだ。見る間に地面が遠ざかる。

今日ここで斜めジャンプを知った人の数は全部でどのくらいだろうか。ゼンの周囲に集まる機体は17、18、19、20……21機か。手遅れじゃなきゃいいけどな……。


ポンとアサギからサーバー招待の通知が来る。

俺は着地を待たずに『移動』ボタンを押した。


アサギが秘密特訓場と名付けたらしい練習場のインスタンスサーバーに入る。

アサギは、入ってすぐ見えるあたりで斜めジャンプの自主練をしていた。


「わざわざ悪いな、助かったよ」

そう言う俺の後ろから、ゼンも入ってきた。

「2人して移動して、どうしたんスか?」

俺は2人に12月中頃までは斜めジャンプは人目につかないところで練習してもらえないか、と頼む。

「よくわかんないけどわかったっス! しばらくは、俺達だけの秘密の技って事っスね!」

「ああ、悪いな」

「期限が決まっているのはなぜですか?」

「その頃には自然と広まってるからな」

「ふむ、なるほど……、分かりました」

アサギの機体がコクリと頷く。こいつは何かと芸が細かいな。


「それはそうと、さっき集まってた人達は放って来て大丈夫だったのか?」

何か断りを入れたにしては、ゼンの移動はあまりに早い。

まさか何も言わずに消えたんだろうか。

「大丈夫っスよ。呼ばれたから行ってくるってちゃんと言ったっス!」

「……それだけでいいのか……?」

「何の約束もない見物人でしたから、それで十分でしょう」


コミュ強達は強いな……。

俺だったら、なんて言って抜け出そうかと考えるだけでしばらく時間がかかりそうだ。


「お二人は、お時間何時頃まで大丈夫ですか?」

尋ねられて、サイドディスプレイの端にある時計を見る。

もうこんな時間か、そろそろ切り上げた方がいいな。

「わっ! オレまだ風呂入ってないっス!! 今日のとこは落ちるっス! アサギくん、また明日一緒に練習しようっスーーっっっ!!!」

ゼンが、一息で喋って消えた。

俺も風呂に入って寝るとするか。ゼンに付き合って帰宅するなり繋いだからな。

そういやゼンの奴アサギの予定を何も聞かずに落ちてったが、前もって約束してあったのか?

「アサギは明日の予定は大丈夫なのか? 無理して付き合わなくてもいいんだぞ?」

「20時半以降なら入れると思います。明日中には斜めジャンプをマスターしたいところですね。完成したらぜひ見てください!」

ガシャンとアサギの機体がガッツポーズを取る。

迷惑どころか、やる気満々のようだ。

「分かった。じゃあ俺もそろそろ落ちるな。俺達のログインは21時過ぎるかも知れないが、入ったら連絡するよ」

「お待ちしています!」


爽やかな声に見送られて、俺は練習場を後にした。


***


そんなこんなで、たった2日で斜めジャンプをマスターしたアサギと、アサギよりはかかったが俺よりずっと早い3日で斜めジャンプできるようになったゼンを連れて、俺は海底ステージに来ていた。


目の前に広がるのは、薄暗い海の底。


「おわ、ちょ、真っ暗なんスけどっ」

慌てるゼンの声。

「さっき言ったろ、上部ハッチを開けて、トグルスイッチのフラットレバーを倒せ」

「あ、コレっスね!」

言葉と同時に俺の左隣に明るい光が生まれた。

ゼンの機体はジタバタと暴れたのかひっくり返っている。

「着地までに体勢整えとけよ」

「ういっス」

ゼンは気安い返事で両腕をぶん回し、機体を立て直した。

あれだけ傾いて、斧まで背負ってるのに、うまいな。


クスクスと小さな笑い声を漏らしているのは、俺の右隣のアサギだ。

アサギは俺と同じかそれより早くライトもつけていたし、今も全く姿勢を崩していない。


アサギは、海底ステージは今までに何度か行ったと言ってはいたが、オートの姿勢制御がないと、じっとしているだけでも波に合わせて機体が動くから姿勢制御だけでもそこそこ難しい。

さすが、普段から細かいポーズまで機体にさせているだけのことはあるな。


「そろそろ着地だ。自信ないやつは腕を広げておけよ」

そうすれば、少々よろけても立て直しやすいからな。

俺の言葉にゼンが腕を広げる。慎重なのはいいことだ。

アサギは……まあ、自信があるのもいい事だな。

アサギは、俺とそう変わらない姿勢でグラつくことなく着地した。


着地と同時に、ディスプレイに敵機との遭遇を示す『接敵』の警告が出る。

ぞろり、と岩陰からカニ型のロボットが何体も姿を見せる。

「準備はいいな?」

「はい!」「ういっス!」


「よし、行け!」


俺の言葉を合図に、ゼンとアサギが左右に跳んだ。



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