第19話
チャプっと慎重に水上へ姿を現したのは、オネエ自慢のレーザー盾だった。
やっぱりな!!
俺は盾の向きを確認すると反対側へ跳ぶ。
機体が顔を出した瞬間、フォトンブラスターを放った。
「盾の最大の短所は、向けてる方にしか効果がねえ事だ!」
「そんなの分かってるわよぅ」
途端、盾がグルンと半回転する。
「へ?」
ワザと逆向きに盾を構えて出てきたのかよ!!
くそっ、引っかかった!!
俺はショットガンでスタン弾を撃つ。
盾がフォトンブラスターのレーザーを逸らす。
かと思いきや、俺のレーザーは格子状に広がってオネエ機を包んだ。
「なぁにこれ!?」
俺のレーザーネットを振り切ろうと、オネエ機は水中に潜ろうとする。
くそっ、引き込まれる!!
水に浸かってるレーザーは30%のパワーダウンとはいえ、どんだけパワーのある機体だよ!!
オネエがミサイルを放つ。
スタン弾がオネエ機にヒットする。
引っ張り出してから撃ちたかったが、しゃーねーな!!
俺は網を切り離すと同時に、巨大プラズマ弾を撃ち込んだ。
結果を確認する間もなく、襲いくるミサイルに追われ空へ逃げる。
フォトンブラスターのリロードはまだか!
カニバサミで投石しつつ、ショットガンで撃ち落とす。散弾に変える間もなくスタン弾のままだ。
くそっ、数が……っ!!
ようやくリロードしたブラスターで残りのミサイルをなんとかギリギリ包みこんだ。
っ、はー……。
間一髪だったな……。
足元ではオネエ機がまだ俺の美しいプラズマ弾に焼かれていた。
そうか、盾も一緒に包んだせいで前面からのダメージが通らないんだな。
それでも、機体は背面からバチバチと焼き続けられてる。
「ちょっ……これいつになったら終わるのぉ!?」
「獲物が力尽きるまで」
というのは嘘だが。本当は15秒だ。
「ぇぇえええっ!?」
着地して、オネエ機にスタン弾を追加する。
これ以上暴れられても面倒だ。
プラズマキャノンも構えなおして、現在次のプラズマ弾を生成中だ。
「しっかし、本当にすげぇ盾だな」
言いながら、俺はショットガンとサブマシンガンでしっかり追撃する。
「ああん、盾には自信あったのにぃ!」
悔しげなオネエに俺は苦笑して言う。
「いや、俺のプラズマキャノン相手によくこれだけもったよ」
実際、ご自慢の盾はレーザーにはびくともしていない。が、盾の反対側から機体にはプラズマ弾の攻撃が入りまくっている。
そこへもうひとつ、俺は出来立てのプラズマ弾をプレゼントした。
「ああああんっ、もうもたないわぁん!」
叫びとともに、オネエの機体は爆散した。
[勝利]
と書かれた画面を見つめる。
思いがけず、手強い相手だった……。
防御力を極めるとあそこまで耐えるもんなんだな。
最後は毒のスリップダメージだったみたいだ。
実はもうレーザーネットは消えかけていたので、一瞬後にはスタンのかかったオネエ機は水中に沈み込むところだった。
そうなると、また体勢を立て直してきただろうな……。
ボイチャが通じてたのをいいことに、思わずブラフをかけちまった。
15秒で消えるなんて知ったら、まだ粘りそうだったからな、あのオネエ。
なにやら底知れぬ粘り強さを感じるタンク(盾役)だったな。
俺は対戦結果のウィンドウから相手の名前を再確認する。
タテさん。か。
確かに、盾役にはぴったりの名前と性格だ。
PvPでは火力不足で苦戦しそうではあるが、今後チーム戦が始まれば……。欲しいよな。ああいうタンク役が。
チーム戦かぁ……。
そりゃもちろんやりたいが、友達の少ない俺に4人のチームメイトが集められるかというと……、正直自信がない。
リボルバーとゼンのログイン時間帯のずれを考えると、あと最低でも2人は同じ時間にログインできる仲間が欲しいよな。
人には向き不向きがある。
こういうことは俺よりも、アサギかゼンに任せる方が良さそうだよな。
あいつらなら、チーム戦が始まると知ればあっという間に仲間を集めそうだ。
俺はその時、チームメイトに選んでもらえるように、しっかり戦力を上げておこう。
ここまでの戦いでフォトンブラスターに求められるレーザーのパターンがいくつかはっきりしてきたし、これからは広範囲に浅く撒くレーザーと、細く長いレーザー、ネットタイプの変則レーザーと、標準レーザーの4つはスイッチ1つで切り替えられるような装置を作った方がいいかも知れないな。
俺は頭の中でアタッチメントの設計をああでもないこうでもないと考えながら、格納庫へ向かった。
***
土曜日は、11月らしい秋空の晴天だった。
俺は被っていたキャップのツバをグイとあげて空を見上げる。
秋風が吹く度に、構内の木々は赤や黄色の葉を落としている。
俺とゼンは、アサギの大学に来ていた。
待ち合わせ時間より5分ほど早く着いた俺達が、初めて入った某有名大学の中庭を眺めながら話していると、向こうからいかにも爽やかそうな好青年が小走りで駆けてくる。
「お、あれアサギっぽいな」
「あーっ、ぽいっスねーっ」
ゼンは今、俺の隣で機体と同じオレンジ色のチェックシャツを羽織って、白い大きなウサギの耳をぴょこぴょこ揺らしていた。
背の低いゼンのウサ耳は、ちょうど俺の目の前で揺れている。
昨日ゼンはグループ通話に「これなら絶対分かるっス」と言ってウサ耳のカチューシャを被った自身の写真を送っていた。
アサギらしき青年は、そんなゼンのウサ耳を見つめて駆け寄ってきた。
「お疲れ様ですっ。ゼンさんですね、アサギです。リアルでは初めまして」
「お初っスーっ! いやー、アサギくん爽やかっスねーっっ」
アサギは柔らかそうな前髪を揺らして、あははと笑って返す。
アサギのサックスブルーの生地に白で細いストライプが入ったシャツも、機体カラーに近いな。
「クマさんも、来てくださってありがとうございます」
「ああ、今日はよろしくな」
「クマさんって……メカクレキャラだったんですね」
「そーなんスよ! 先輩ってばいつも前髪長いしマスクだし、表情以前に顔見えないんスよね」
「ちょっと意外でした……」
「服はフツーにオシャレなのに、なんか残念なんスよねー。先輩髪切った方がいいんじゃないスか?」
「俺は残念でいいんだよ」
ん? アサギが駆けてきた方向からマイペースに歩いてくる黒髪ロングの背の高い女性がいるが、なんか……纏う空気にボスっぽい威厳を感じるんだが……。まさかあれは……。
「よく来たな」と掛けられた声は、女性には珍しいほどの低音ボイスだった。
「リボルバーか」
「おう」
「美人!!!!」と叫んだのはゼンだった。
そうか……?
んー……まあそうだな。背は俺と並ぶほどに高いが、全体でみればバランスの取れた体格と顔立ちではあるか。
アサギが、ニコニコしながらゼンにリボルバーを紹介する。
「こちらは僕の彼女の……、……えーと、彼女です」
おいアサギ、彼女をなんて紹介するかくらい考えてから口を開けよ?
流石に、自分の大学のキャンパスで『リボルバー』と紹介しづらかったってのはわかるけどな……。
リボルバーはゼンをジロリと見下ろすと、尋ねた。
「お前は、リボルバーが好きか」
……お前それ、リアルでもやるのかよ。
アサギが慌てて「初対面の人にはまず挨拶からって言ったじゃないか」と訴えるが、リボルバーは瞬きもせずにゼンを見据えている。
「リボルバーっスか!? いいっスよねーーっっ!! あのシリンダーがガチャッて回る瞬間、ドキッとするっスね!! アサギくんの彼女さんもリボルバー好きなんスか? 分かってる人なんスねーっっ!」
ゼンは、物怖じしないいつもの明るさとテンションでペラペラと答えた。
「ふむ。……この頭の弱そうな奴が、お前が前に言ってた後輩か?」
リボルバーが俺に尋ねる。
「あー……。まあな」
俺は僅かに居た堪れなくなって、被っていたキャップのツバを下げる。
「毒舌!!!」とゼンが叫んだ。
アサギの案内で人の少ない展示をいくつか見てから、俺たちはまた元の中庭に戻っていた。ステージや屋台の並ぶ大学の表側は人でごった返していたが、いくつかある中庭のうち俺達が最初に待ち合わせに使ったこの中庭は人も少なく、表の喧騒や放送や音楽がなければ学園祭の最中だとは思えないくらいの様子だった。
まあそれでもよく見れば、あちこちにポツポツと座っている学生達が屋台の食べ物を食べていたりはするが。
「腹が減ったな」というリボルバーの声に、アサギが「買ってくるね、待ってて夏……リボルバーっ」と去っていったのはついさっきのことだ。
結局アサギはあの後『リボルバーと呼べ』と彼女に強要され、大人しく従っている。
「あっ、オレも行くっスー!」と後を追ったゼンが、俺に「先輩も欲しいものあったらメッセージ送っといてほしいっス!」と言ってくれたので、俺は今メッセージを打っていた。
ゼンがなるべく買いやすいように、応用が効きそうな文章を作って送信する。
「お前、プラズマキャノンを手に入れたらしいな」
リボルバーは俺がスマホを下ろした途端に話しかけてきた。
……メッセージを送り終わるまで待ってたのか?
「ああ、アサギから聞いたのか?」
「完全覚醒らしいな?」
「まあな」
「……課金か」
「まあ一応、社会人だからな」
「くそ、金の力か……」
おい、女子大生がクソとか言うな。
「リボルバーは無課金なのか?」
「今のところはな」
ふむ。完全無課金勢ってわけではないのか。
「今はまだ、その時ではないだけだ」
「ああ、リボルバーの実装待ちなのか」
「………………、くると思うか?」
ん? なんかちょっと新鮮だな、いつも自信満々なリボルバーの、ちょい不安そうな顔。
「そうだなぁ、ロボワはリアル寄りの武器もあるが、創作武器っぽいのが多いもんな……」
俺の言葉にリボルバーの表情が暗くなる。
おっと、言い過ぎたか?
「けどまあ、来るとは思うぞ」
「本当か!」
顔を上げたリボルバーは、期待に満ちた瞳をしている。
そりゃそうか。自分の名前にするほど好きな武器なんだもんな。
「ファンの多い武器だからな。そのうち来るだろう」
「実装されるとすれば、いつ頃だろうな」
「そうだな……」
リボルバーは確か0.5周年で実装されるはずだから……。
「来年の春頃にはくるんじゃないか?」
「そうか、春か……。そうかも知れないな。リボルバーのシンプルで古風かつ洗練された美しさや物語性は、春という季節にピッタリだからな」
いや別に、俺はそうは言ってないが……。
「春は冬を越えた生命の芽吹きや、新たなスタートを象徴する季節だからな。そうした瑞々しさや純粋さ、新しさと、リボルバーの「原点回帰」や「潔さ」は実にマッチする。そう、リボルバーこそが季節の全ての始まりである春を背負うにふさわしい武器だと。……そういうことだな?」
……そういうことではない。
ではないが、そういうことにしておいてやろう。
俺は「まあな」と頷いた。
リボルバーは満足そうに「そうか。春か……」と遠くを眺めて頷いている。
まあ、幸せそうだしこれでいいか。
「お待たせしました!」と叫んだアサギの声にそちらを見ると、アサギはまだかなり離れたところにいた。
「アサギくーん、そんな走るとこぼれるっスよー」
後ろからゼンがトトトと早足で追いかけてくる。
……いや、だから、俺と2人きりにしたくないなら置いて行くなよ。
まあ、アサギが行った後でゼンが追いかけてったからなぁ……。
人混みに入りたくない2人が留守番になったのは必然ではあったが。
「そんな慌てんでも、お前が心配するような会話は一切ないぞー」
俺はせめてもの気持ちで、早めに声をかけてやる。
そもそも、ここまでもずっと、俺達4人は基本ロボワの話しかしてないからな。
俺の言葉に、アサギが一瞬ホッとしたような顔をして、それから青ざめる。
視線を辿れば、リボルバーがアサギをギロリと睨んでいた。
俺はリボルバーに思わず声をかける。
「お前も苦労するな。アサギは大学でもずっとこうなのか?」
話によれば、2人は同じ大学に通っているらしい。
つまり今日は、リボルバーの大学の学園祭でもあったわけだ。
それでリボルバーもここ最近はログイン時間が短めだったんだな。
「大学どころか、こいつは高校の頃からずっとこうだ。いくら言っても全く治らん」
「へえ、お前ら付き合い長いんだな」
「まあそうだな。こいつがオムツの頃から見知ってはいる」
「ちょっ、夏……っ、リボルバーっ」
「幼馴染ってやつか?」
「家が近かっただけだな」
そこへゼンが辿り着く。
「先輩これ買ってきたっス!」
「おう、買い物ありがとな。助かったよ」
「えへへーっ。お安い御用っスよ!」
ゼンが嬉しそうにニカッと笑う。
こんな時のゼンには、頭を撫で回してやりたくなるような愛らしさがあるよな。
言うなれば、飼い主が投げたフリスビーを取ってきた大型犬が、尻尾を振って撫で待ちをしているような、そんな気配を感じるんだよな。
ゼンに小銭を渡していると、俺の横からリボルバーがゼンの頭をグリグリと撫でる。
「え? ええ? 俺なんで撫でられてんスか?」
「撫でて欲しそうだったから、撫でてやったまでだ」
リボルバーに無表情に見下ろされて、ゼンがさらに混乱する。
「僕だって、買い物してきたよ!?」
アサギが必死にリボルバーに訴える。いやお前はもうちょい落ち着け。
「なんだ、お前も撫でて欲しいのか?」
「もちろん!」
面倒臭そうな半眼のリボルバーにグリグリ撫でられて、幸せそうな笑みを浮かべるアサギの様子に、ゼンが俺の隣で呟く。
「アサギくんって……もしかして、彼女の前だとダメなんスか?」
俺は「まあな」と答えながら、ゼンの買ってきてくれた炭酸のボトルを開けた。
「それで、クマさんはリボルバーと何の話をしてたんですか?」
俺たちが適当に座って飯を食い始めたところで、アサギが尋ねた。
お前……、そういうとこだぞ……?
案の定、リボルバーに圧を込めて睨まれたらしいアサギが小さな悲鳴をあげる。
「リボルバー……ああ、武器のな。リボルバーがロボワに来るかどうかって話と、課金の話かな」
俺が答えると、アサギが助かったとばかりに食いついた。
「課金ですか、僕は今のところ無課金ですねー。リボルバーも無課金勢ですから」
アサギの言葉に、リボルバーがさらりと答える。
「我は必要とあらばいくらでも注ぎ込むぞ。リボルバーが実装されればな」
「そうなの!?」と驚くアサギ。
お前達、もうちょい意思の疎通を頑張った方がいいんじゃないか?
「オレは微課金ってやつっスね。毎月のやつに入ってるっス」
「お? そうだったのか」
ゼンが課金してたなんて、知らなかったな。
「だって皆に置いてかれたくねーっスから!」
ゼンは焼きそばを口に入れてから、箸をぐっと握って拳を作った。
そうだよな。
焦るなって言ったところで、焦んないでいられるわけないよな。
「オレ、もっとスピードが欲しいんスよね……」
呟いて、ゼンが焼きそばを口へ運ぶ。
「スピードって、移動速度か?」
「移動も、回避も、もっとビュンビュン動けるようになりたいっス」
「ビュンビュンなぁ……。そんならやっぱり、保留にしてる『空の迷宮ステージ』に行くしかないか」
俺の呟きに反応したのはリボルバーだった。
「空の迷宮ステージ……? 初耳だな」
「なんだアサギ、話してないのか?」
「あ、えーと……ここ最近バタバタしてたので……」
「迷宮ということは、完全クリアでステッカーがもらえるわけだな?」
「移動速度2%アップのな」
「「移動速度2%アップ!?」っスか!?」ゼンとアサギの声が重なる。
「それはいいな」とリボルバーが口端を上げる。
「けど、このメンバーじゃちょっとクリアは難しいんだよな……」
このメンツじゃ、4人で行ったところで一斉掃射に誰1人耐えきれないよな……。
「そうなのか」「そうなんですか」「そうなんスか?」と聞き返す3人に俺は「”空の迷宮ステージ”で検索してみろ」と返す。
俺もちょうど昨日、動画があがってるのに気づいて確認がてら見たところだ。
「ありました、これですね」
動画を再生し始めたアサギのスマホを、両脇からゼンとリボルバーが覗き込む。
「わぁ」「おお」「広いステージっスねー」と瞳を輝かせる3人が、苦虫でも噛み潰したような顔になったのは開始から3分のあたりだった。




