第15話
「空中で脚パーツを交換したのかい? そんなことができるなんて、知らなかったよ」
こいつ、話しかけてくるタイプか!
強い奴なんて大抵おかしな奴だし、あんま関わりたくねぇんだよな……。
スタン弾のリロードまで、俺は3秒おきにスタン弾を撃ち続ける。
おそらく相手は俺の5秒のリロードより早く動き出すだろう。
「ポンポンで毒が撃てるなんてのも、初耳だし」
っ! 毒が消された!
俺はもう一度刺胞弾を放つ。が、そこに相手は居なかった。
くそっ、4秒持たないか!
どこだ!?
熱源反応は……俺の真後ろ!!
「キミ、トリッキーで面白かったよ」
ザグン、と鉄を切り裂く音は、不快な衝撃と共に伝わった。
ディスプレイの端に映る、大きな刃。
あの男が背負っていた太刀の刃先だけが、俺の前に見えてるって、ことは……。
思わず全身に鳥肌が立つ。
計器が一斉に悲鳴を上げる。
俺の機体は、背後から太刀に刺し貫かれていた。
もし俺が本当にこの機体に乗っていたなら、今頃コックピットと共にこの身を裂かれていただろう。
動力炉の損傷率が一気に80%を超える。
くそっ、ここまでか!!
「また遊ぼうね、クマちゃん♪」
背後から囁かれた言葉に反応を返す間もなく、俺の機体は爆散した。
画面を埋め尽くす光の奔流。
それが音もなくおさまると、[敗北]と書かれたウィンドウが表示される。
「うあーーーーっ! 負けた!! 完敗だった!!!」
こんなに手も足も出ないような奴が、上のランクにはうじゃうじゃいるんだろうな。
「だいたいクマちゃんってなんだ、クマちゃんて! そんなファンシーな見た目してねーだろ!」
叫びながらも、俺の口元は緩んでいた。
こんな強い奴と、こんな風に戦える事が嬉しい。
4年間ずっと憧れ続けた、画面の向こうにしかなかったPvPに、今俺は参加してるんだ。
しかし、なんか若そうな男の声だったな、プレイヤー名はなんだったんだ?
『ザンク・ロウ』
!?
こいつ、しばらくロボワのサムライとか言われてた奴じゃないか!
リボルバー全盛期の頃からPvPランキング上位勢で、リボルバーがいなくなってからはそこそこ一位も取ってたけど、高火力広範囲武器の実装に伴ってランキングから徐々に消えてった奴だ。
多分、リボルバーと同じく武器種にこだわりがあるんだろうな。
刀系武器しか使わない。的な。
とはいえ、まだしばらくは太刀スタイルが廃れることはない。
あれほどのやつならゴールドはすぐ駆け抜けてしまうだろうし、今月のうちに再戦することはないだろうが、俺のランクが上がってゆけば、また会えるだろう。
今回は、あのスピードと正確さに翻弄されるばかりだったが、相手の戦法が分かれば対策だってできるはずだ。
……次は負けないからな!!
俺は強く拳を握る。
ホームに戻ると、メッセージが届いていた。
ああ、PvPも対戦中はメッセージの通知音は鳴らないんだな。
アサギからか……。
俺はそこそこ億劫な気持ちでメッセージを開いた。
『先程はすみませんでした。僕の浅慮な発言でクマさんが……』
つらつらと、詫びと以後気をつける的な文章が綴られているが、何だこれは、反省文か?
つーかお前、リボルバーに関してだけは反省したとこでマシになんないよな?
アサギはなぁ……。
リボルバーさえ絡まなきゃいい奴だし、ゼンともよく遊んでくれるからなぁ。
ここは俺の方が学習するしかないか。
とにかく、お前には今後リボルバーの話は振らない。
良かれと思っても。だな。
んで、次は何なんだ?
アサギからのメッセージは2通来ていた。
『僕もゴールドランクに上がれました。リボルバーはもうすぐプラチナだそうです
』
へえ。やっぱりすごいなリボルバーは。
ちゃんとアサギに進行状況を報告してるのも偉い。
『おめでとう。俺は早速ゴールドで負けたとこだ。しばらくはゴールドに居ることになりそうだな』
送信っと。
んじゃ俺も、ゼンが帰るまで戦ってくるか!
出撃ボタン、準備完了ボタンを順に押す。
そろそろこの手順にも慣れてきたな。
一瞬のローディング画面の後、マッチングの待機画面に移行する。
真っ黒な画面に【マッチングを行なっています】の文字がゆっくり明滅している。
『ザンク・ロウ』みたいに名の知れた相手とマッチングすることもあるわけだから、こっからは対戦前に相手の名前くらい確認しとくか……。
[マッチングに成功しました。ステージに入場します]
つーか、この画面が一瞬なのが悪いんだよな。
なになに、アサギ……?
アサギか!?
暗い画面が速度のある演出でザアッと開けると、目の前には雪原が広がっていた。
雪原か……。
逆関節機には不利なステージだが、アサギは俺と同じ逆関節機、条件は同じだ。
それならまだステージをよく知る俺の方が多少は有利か。
俺はバフをかけつつ、素早く接地パーツをスパイクパーツへ換装する。
雪はまだ降ってないな。視界が塞がれる前に池のない方向へ……。
――……いや待てよ、まだアサギはゴールドに上がったばっかだって言ってたよな?
もしかして、このステージに入るのは初めてなんじゃないか?
「クマさん、早速対戦できて光栄です」
マイクオンか。……仕方ない。こっちも入れるか。
俺は右側のパネルからマイクのミュートを外す。
「アサギ、お手柔らかに頼むな。雪原ステージは初めてか?」
「クマさんを相手に手加減なんかしたら、僕がやられてしまいますよ」
クスクスと笑う余裕はあるようだが、俺の質問に返事はない。
ゼンならうっかり答えるとこなのに、さすがアサギと言うところか。
だが、初見の可能性は高そうだ。
まだレーダーでも目視でも確認はできないが、あいつの機体の色は知っている。
名前通りの浅葱色……、爽やかな青緑色だ。
俺は周囲への警戒を続けながら、池の方向へ向かった。
雪に足が沈んで、思ったよりも速度が出ないな。
バフは移動力に5%か、リロードが終わり次第かけ直す。
今度は7%か。相変わらず運はイマイチだな。
パキ、と地面が音を立てる。
そろそろ氷上ゾーンだ。
俺は速度を落として慎重に移動する。
一度でも俺が滑ってしまえば、アサギに勘付かれる。
ピピッと熱源反応音が鳴る。
背後!?
回り込んできたか!
急旋回に弱い逆関節機の一番嫌な方向から来るってのが、アサギらしい。
それでこそ、レーザー砲を逆向きにつけてた甲斐があるってもんだ。
俺は背後に向かってレーザーを低く広く放つ。
「ぅわ!?」
アサギが跳んで避ける。
その隙に俺は慎重に方向転換する。
一緒に可愛いレーザー砲の向きも転換する。
よし、アサギ機の足元はノーマルパーツだ。雪用装備じゃない。
「相変わらずクマさんは僕の予想の斜め上をいきますねっ」
アサギ機からライフル弾が飛来する。避けるのは無理か!
俺は左腕の盾パーツで弾を受けると、アサギの着地寸前にもう一度低く広くレーザーを放った。
レーザーは地面を撫でるように焼き払う。
現れたのは土ではなく、レーザーに溶かされてツルッツルに磨かれた一面の氷だった。
レーザーを少しでも避けようと、再度飛び上がろうとしたアサギ機が氷に足を取られ派手に転倒する。
「うわぁっ!?」
オート姿勢制御が入っていれば、姿勢を崩しても転倒まではしないんだが、お前がそれをオフにしてるのは知ってるからな。
俺は思い切り高く飛ぶ。
上昇する間にレーザーの範囲を調節して、盾をマシンガンに持ち替えて撃つ。
マシンガンの弾の雨で隠すようにして、俺は細く長いレーザーでアサギの周りの氷ををぐるりと焼き切った。
ついでに左肩のカニバサミで刺胞弾も入れておくか。
「くっ」
やっと姿勢を立て直したアサギが防御姿勢をとりつつ毒を素早く消す。
毒消しが早いな。
俺のマシンガンじゃアサギに大したダメージは入らない。
カニバサミをスタン弾に変えるか?
いや、バフが切れる方が早いか。
ドンッ!!!
と、俺が着地した振動でアサギの乗っていた氷が完全に陸地から外れた。
池に浮かんだ板氷は、アサギの乗っている側にゆっくりと傾く。
「え!? な、何がッ!?」
慌てるアサギ機に、俺は追加で毒を撒く。
バシャン!!
と大きな水音と共に、丸い板氷がひっくり返った。
俺はこの隙にバフをかけ直す。
アサギは間一髪で傾いた氷から跳び離れていた。
何だよ、落ちないのかよ。
寒中水泳してこいよ。
「おーおー、斜めジャンプがしっかり身についてんじゃねーか」
「ええ、おかげさまで、とても重宝していますよ」
返事こそ余裕だが、アサギ機にそこまで余裕は無いよな?
俺はマシンガンを撃ち込みつつ、レーザーで追い討ちをかける。
アサギもライフルと散弾で応戦してくるが、アサギのエイムはジャンプの度に揺れている。滑る足場に苦戦してるな。
毒も回復される度に繰り返し撃ち込む。
何せポンポンの刺胞弾はローコストだからな、連射はできないが弾はいくらでも撃てる。1撃のダメージは大したことないが、その都度回復作業をする相手は、その分どうしても動きが鈍る。
アサギは、俺の近くで散々毒ダメージで死ぬ敵を見てきたからな。
そう気軽には毒状態を放置できないだろう。
「っ、しつこいですよっ!?」
ま、俺も流石にこんな地道な攻防を最後まで続けるつもりはない。
そろそろ仕上げといこうか。
盾を構えて大きく飛び上がった俺を、好機とばかりにアサギが狙い撃つ。
上から見るとハッキリ分かるな。
アサギ機の周りの氷がどれだけ砕けているのかが。
俺はありったけの全装備を空から叩き込んだ。
「どこを狙って……っ、まさか!?」
さすがアサギ、理解が早いな。
崩れる足場から慌てて飛び上がったアサギ機に、カニバサミの放った投石がメシャッと決まった。
アサギ機は石に押し込まれて水中に沈む。
ドボンッという音に続いて、勢いよく水柱が上がり、飛沫が舞う。
俺は平たい半球状の盾を片足に引っ掛けると、水中のアサギ機をレーダーで確認しながら毒とスタン弾を撃ち込む。
あとは俺が、水に落ちずにいられるか、だな。
何せ、今度はアサギが水没を避けきれないようにと池の氷をほとんど割ってしまった。
当然、俺の着地地点にも足場はない。
水中戦になってしまうと、俺の可愛いレーザー砲は攻撃力が30%も下がるからな。ライフルを使うアサギの方が有利になる。
緊張に汗が滲む。
俺はレーザーを水面に撃ってなるべく減速しつつ、盾の上に着地した。
ぐらり。と傾いた盾から、斜めジャンプで陸地へ跳ぶ。
ズシャッと雪を裂いて着地する。
よしッ!
成功だ!!
俺は方向転換して池にショットガンを構える。
弾はもちろんスタン弾だ。
カニバサミはポンポンで毒の用意。
あとは楽しいモグラ叩きだ。
「さあ来い、アサギ」
俺の口端が自然と上がった。




