第11話
ボスネズミの突進をリボルバーが引き付けつつ華麗に避ける。
リボルバーの動きを追うボスネズミの眉間を、アサギのライフルが正確に撃ち抜く。
もちろん、リボルバーは避けながらもボスネズミの耳や眉間に弾を撃ち込み続けている。
ボスネズミは今のとこ範囲攻撃を放つ様子もないし、2人に任せておけば良さそうだ。
迷宮ボスだし段階的に攻撃パターンを変えてくる可能性もあるが、ひとまず俺はネズミ達の掃除だ。
そこらじゅうの壁が崩れて、広くなったしな!
俺はここまで味方機に当たりそうでなかなか使えなかった散弾銃と、広範囲設定に戻したレーザーを撒き散らしながら、ネズミ達をかき集めるように跳ね回る。
1周、2周と全体に満遍なくダメージを撒き散らせば、3周目にはほとんどのネズミたちが一斉に爆散する。
あーーーーっ気持ちいいなっ!!
これぞ、範・囲・攻・撃!!
リボルバーの超絶コントロールによる一撃必殺はもちろんかっこいいけど、俺はやっぱりゲームならではの広範囲武器、なかでも長距離範囲レーザー砲が最っ高に好きだ!!
まだ今の俺のレーザー砲では大した距離も威力も出せないが、いつの日か最高出力の超範囲攻撃を放つ巨大レーザー砲に育て上げてみせるからな!
俺は決意と共に、可愛いレーザー砲を撫でる。
ま、有効活用するには味方を巻き込まない広めの場所と、密集した大勢の敵の二つが必要だが、今回はちょうど条件が合った。
おっと、マズイ。
広範囲レーザーに惚れ惚れしてたら、もうあと少しで2人のバフが切れそうだ。
俺は、撃ち漏らしたネズミロボを掃討しながら、ボスとの戦いを続ける2人に駆け寄る。
ネズミロボ達が2人の邪魔をしないよう、結構距離をとってたからな……。
俺は自分にバフをかけ直しつつ、2人に叫んだ。
「悪い! バフが切れる! ちょい耐えてくれよ!」
ガクン。と、目に見えてスピードが落ちたのは機動力に10%アップのバフが付いてたアサギだ。
リボルバーを追いかけていた王様ネズミが、アサギの減速に気づいて標的を変える。
避け切れない!
アサギも気づいてライフルを構えるが、放つ前に突進を食らう。
派手な音を立てて、アサギ機が吹き飛んだ。
リボルバーの射撃はずっと入り続けているが、王様ネズミの巨体が動きを止めるほどのダメージではない。
あいつの動きを止めるには大ダメージかスタン……。
俺の手持ちのスタン弾はDランク弾だ。
ボスだし状態異常抵抗で無駄撃ちかも知んねーけど、ダメ元で撃ち込んでみるか!
俺は走りながらショットガンを散弾からスタン弾に入れ替えて、王様の巨体目掛けて撃てるだけ撃つ。
1発で何秒スタンが効くかわからねぇが、数投げりゃいくらか止まるだろ!?
ちょっとでいい、止まってくれ!
スタン弾を浴びたボスネズミが叫びを上げてスタンする。
よしっ! 効いたか!!
すれ違いざまに王様ネズミに毒を打ち込んで、リボルバーにバフをかけて、アサギの吹っ飛んだ場所に向かう。
「アサギ! 動けるか!?」
瓦礫に突っ込んだアサギ機の機影はまだ見えない。
ポンポンの効果範囲まであと少し……!!
カニバサミを操る左手をアサギに向けて振る。
バフがかかったってことはまだ退場してないな。
砂煙の向こうにアサギ機が霞んで見える。
アサギ機は腰から脚部まで大破していた。
「駆動系をやられました! すみません、僕はここまでです!」
俺はサイドウィンドウからアサギ機の詳細を確認する。
やられたのは下だけで、上はまだ動きそうだ。
「僕はいいので、クマさんは……っリボルバーのサポートをお願いします!」
アサギの声には悔しさが滲んでいた。
ウィンドウを見る限り、リボルバー機は残弾がやばそうではあるが、機体全体の損傷はほとんどない。
元々王様ネズミの攻撃は、リボルバーには届いてなかったからな。
ただボスのHPがそろそろ30%を切る。ここらで攻撃パターンが変わってもおかしくないな……。
「お前だけ休もうったって、そうはいかないからな」
「えぇっ!?」
俺は鉄板にローラーを無理やり装着すると、アサギ機を乗せ固定してライフルの射程ギリギリまで運ぶ。
「え、ぇええええっ!?」
迷宮の床が平らでよかったな。
フィールドマップじゃ流石に車輪がわりのベアリングローラーじゃ転がらなかっただろうからな。
「長距離ライフルはあるか?」
「ライフルはありますけど、弾が……」
「ほれ。俺のスタン弾、それで全部だ。様子見て撃て。5発以上入れれば少しは止まりそうだったな。スタン係を頼む」
「は、はい」
俺からのトレード要請に、アサギが『受け取り』ボタンを押す。
「悪いがここに置いてくから、範囲攻撃がきたら諦めてくれよ」
「はい、それは大丈夫です」
「彼女のこと、最後まで見といてやれよ」
言って、俺はボスネズミに向き直る。
「はい!」
俺の背に、アサギの力強い答えが返る。
つっても、実際のとこリボルバーに俺たちの手助けがいるかっていうと……。
バフさえかけときゃこのまま勝つんじゃねーかってとこだけどな。
この迷宮ステージの一番ハードなとこは、ボス面前のネズミラッシュだろ。
ボスと一緒に山ほど湧くネズミ達は、流石に1人じゃ手が足りない物量だからな。
俺が諦めた所以でもある。
しかし、それも手分けして処理できた以上、あとはボスのHPが0になるまでリボルバーが弾を叩き込めば終わるんじゃないか?
右肩に背負った可愛いレーザー砲の範囲を絞って距離を伸ばす。
アサギ機への攻撃は、出来る限り俺が弾く。
アサギが大破したのは俺のバフ管理ミスだし、安全圏にいたアサギを敵の前まで連れて来たのも俺だ。
ここは大人として責任取んねーとな……。
突然、リボルバー機がボスから飛び離れた。
ボスの目がギラリと光るとともに、周囲にネズミ型の小型ロケットが浮かぶ。
飛び道具も使うのかよ!?
8発のロケットは、ひらりと避けたリボルバーの後ろで反転するとリボルバーの背に照準を合わせる。
「追尾弾だ!」
アサギが叫ぶ。
リボルバーが機体を反転させる。
俺のレーザーが大きく外へと旋回したロケット3つを撃ち落とす。
リボルバーの銃声は4つ。ロケットの爆破音も4つ。
あと1つは……っ!
ドオンと派手な爆発音はロケットが何かに命中した音だ。
ギィィィィィィッ!?
派手な悲鳴を上げたのはボスネズミだった。
って、自分の出したロケット弾喰らってんのかよ!
どんだけ華麗に避けたんだリボルバー……。
毒ダメもあって、そろそろボスも倒せそうだな。
リボルバーが射撃を続ける後ろから、俺もレーザーを最短リロードで連射する。
もう倒せる。そう思った瞬間、ボスの目が激しく輝いた。
また小型ロケットか!!
リボルバーがさっきより一瞬遅れて飛び退く。
ロケットの位置を確認しようと見まわした途端、ボスが爆散する。
毒ダメージか!
ボス撃破の激しい爆散演出で画面が白く染まる。
俺の位置でこれなら、リボルバーは完全に真っ白だ!!
「くっ」
リボルバーも流石に焦るよな!?
ステージクリア表示はまだか!
あのロケットが8つ当たればリボルバー機は即死だぞ!?
リボルバー機が一度は避けたと仮定してさっきと同じ位置にレーザーを撃つか?
それでリボルバー機に当たった日には足手纏いもいいとこだろ!
迷う俺の横を数発のライフル弾が通り抜ける。
「当たったらごめん!」
ドン! ガン! ドガン!!
と立て続けに鳴る爆発音の上から、ステージクリア画面が表示された。
サイドウィンドウでは、リボルバー機の損傷率は60%を超えていた。
やっぱ流石に何発か喰らったな。
「……は。なんだ。律に助けられてしまったな」
ホッとしたような、がっかりしたような、感情の読めないリボルバーの声。
律ってのはアサギの本名か? 聞かなかったことにしとこう。
「役に立ったなら良かったよ」
一方のアサギは素直に安堵を見せている。
俺はウィンドウからアサギの装備を確認した。
やっぱり、暗視スコープを装備してたのか。
確かに迷宮は暗かったしな。
ボスの爆散はあくまで演出だ。スコープには熱源としては映らなかっただろう。
アサギは闇雲に撃ったわけじゃなかった。
それを確認して、俺は妙にホッとした。
「ほう……、これはいいな。特に特別報酬枠が期待以上だ」
「特別報酬? 本当だ。リボルバーにぴったりだね。クマさんはどうでしたか?」
2人の声に「今見る」と答えて、俺もリザルト画面を開く。
そういやネズミをものすごい数倒したからな。
金色の光も5つ6つは出てたよな。
お。レベルも一気に2上がったか。
……普通に考えて俺のレベルで来れるような場所じゃないよな。
《ミッション達成:迷宮ステージをクリアする》
《ミッション達成:迷宮ステージのボスステージをクリアする》
ああ、途中のウィンドウのとこまでで一応クリア判定か。
そんで、ボスを倒すと完全クリアって事だな。
うん? 画面に次々と開封されてゆくドロップアイテムに、金枠が2つある。
「俺んとこSSRが2つ出てるぞ、分けるか?」
「我のとこには4つある。施しなどいらん」
おお、流石はリボルバー。
PTでステージに出撃した場合、ドロップアイテムは基本的に戦績に応じて分配される。
それをそのまま受け取るか、全部集めて各員の需要に応じて再分配するかはPTの方針次第だ。
「僕のとこは1つですが、貴重な経験をさせてもらったので、十分です」
アサギは明るい声で答えた。
いいのかそれで。
最後、お前が撃たなかったらリボルバーは墜ちてたんだぞ?
……ああ、お前にはそれがSSR以上に嬉しかったんだな。
「んじゃ、ありがたく2つ貰っとくな。ねずみの歯とロケットパーツだから、欲しけりゃ言えよ」
「はい」と答えるアサギと「いらん」と答えるリボルバー。
ほんとよくこんな正反対の2人が付き合ってるよな。
一体どこでどんな出会いをしたんだ……?
普段、他人のプライベートに首を突っ込む事のない俺でも、この2人の馴れ初めは流石に気になる。
……が、それはまたの機会があれば、だな。
「そろそろ時間なんじゃないか?」
俺が尋ねれば、リボルバーが「そうだな」と答えた。
20時まではもうあと10分ほどだ。
別れ際は2人にしてやる方がいいか?
「んじゃ、俺は先に落ちるな。あんま役に立てなくて悪かったが、楽しかったよ。また誘ってくれ」
リボルバーが「おう」と答える。
アサギが慌てて「そんなことありません!」とフォローしてくれていたが、俺はログアウトボタンを押していたので途中で途切れてしまった。悪いな。
ゴーグルを下ろす。
もう20時か。長丁場だったな。
早いとこ夕飯にしないとゼンが帰ってくるぞ。なんか買いにいくか。
スマホを手に取ると、ロボワの更新情報メールが来ていた。
お。PvP用のピックアップガチャのお知らせか。
いよいよ来週からPvPが始まるもんな。
何々、ピックアップUR武器は5種か。
追尾ミサイルランチャー……、さっき見たばっかだな。まあエイム不要で初心者でも当てやすいし威力もデカいからな。
レーザーガトリング……は、連射性能高いし弾速も速いし誰が使っても強いよな。
グレネードランチャー……遮蔽物貫通と範囲攻撃だな。
おっ、プラズマキャノン! 俺が欲しいのはこれだな!! 高威力に長射程、弾速も速いし狙いやすいから初心者にもいいよな。遠距離から安全に高火力が出せるから、装甲が紙でもこれさえあれば相手によっては勝てそうだしな。
んん? アネモネ…………ってポンポンじゃないか。
ああ、思い出してきたぞ。
俺も前はこのピックアップでここにポンポンが来たのが不思議だったんだよな。
攻略サイトでも完全にポンポンはハズレ扱いされてたが、今ならわかる。
カニバサミと合わせた時の高いバフと、一発入れればあとは逃げ回るだけで確実に倒せる毒ダメージは、ここに並んでもおかしくない性能だよな。
毒ダメージは相手が解毒キットを持ってりゃすぐに回復可能だが、それでもいくらか削れるだろうし、状態異常を無効にするタイプの装備はもうしばらく後にならなきゃ出ないはずだからな。現時点でのポンポンはかなりの強武器だ。
俺はスマホのスクロールを少し戻す。
プラズマキャノンはこのプラズマチャンバー……プラズマ弾を生み出す爪の部分がいいよな。この収束する形が美しいんだよな。
あー……。
いいなぁプラズマキャノン……。
手持ちのダイヤで10連は引けるだろ、さっきのミッション報酬も全部受け取れば5000ダイヤは超えるか。
うーん……あと1000ダイヤあれば、20連……。
まだ今ならミッションが結構残ってるからな。
ちまちまミッション開けてけば、一週間くらいであと1000ダイヤいけるか……?
***
一週間後。
必死で集めた俺の3000ダイヤを突っ込んだガチャ。
画面にはキラキラと金色に輝く格納コンテナが映し出されていた。
またSSR確定かよっっ!
そろそろURの確定演出が来てもいいじゃないか!!
一週間前に引いたピックアップガチャもSSRが2つで終わったんだぞ!?
いやいや、一旦落ち着こう。
ポンポンが出た時は、SSRからのURだったわけだからな。
諦めるには、まだ早い。
俺は、ひとまず深呼吸でもしようかと息を吸い込む。
ん? 今なんか人の声がしなかったか?
俺はゴーグルの音量を下げる。
「長尾さん、呼吸と脈拍が乱れていますが大丈夫ですか?」
「ピアリス!? もうそんな時間か!」
朝からちょっとガチャを引くだけのつもりが、ついつい身についたデイリー周回を先にこなしてしまったせいで、もう9時を過ぎてしまったらしい。
昨夜のロボワは2900ダイヤで終わったが、今日には30日ログインボーナスとして100ダイヤが受け取れた。それでピッタリ俺の所持ダイヤは3000になった。
……が、今そのダイヤは儚く消えようとしている……。
いやまあ、SSRも使えるのはたくさんあるしな。
SRもそこそこ使えるのはある。
RとNだって素材になる。
無駄な物なんて、この世にないはずだ。
「長尾さん、メディカルチェックのお時間ですが……。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと待っててくれな」
「はい……」
何だか心配そうな声してるな。
俺は、ピアリスの気分を変えるつもりで声をかけた。
「今ちょうどガチャ引くとこだったんだよ」
「ガチャ……船でよく長尾さんが血圧を上げ下げしていた、運試し要素ですね」
う、まあ、そうなんだけどな。
運試しか……。
金を積んでガンガン回せる奴は別だが、俺みたいに1つのガチャを数回しか回せない奴にとったらガチャは運試し。神に祈るしかないよな。
「ああ、だからピアリスも祈ってくれよ」
「私も……ですか?」
「俺に、いい武器が……URがたくさん出ますようにって」
「URがたくさん、ですね。分かりました」
ピアリスが小さく笑った気がした。
「んじゃ、引くぞ」
俺もつられてほんの少し笑う。
そのまま、気負うことなくボタンを押した。
まさか、こんな結果になるなんて思いもせずに――。




