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皇宮戦闘と大和帰還

#第16話 皇宮戦闘と大和帰還


東京の空が鈍い灰色に染まり始めた頃、巨大な艦影が横須賀港にゆっくりと入港した。波間を切り裂くように進むその艦影こそ、かの超弩級戦艦「大和」である。魔導兵器「ヒノカグツチ」を搭載しながら、それを再び使うことなく、艦は静かに故郷へと帰還した。

艦橋に立つ神崎真は、艦が着岸する瞬間まで緊張を解かないままでいた。傍らには、気を取り戻したばかりの白石綾華が立っていた。顔色こそ優れないものの、その瞳にはもはや迷いはなかった。

「……本当に、戻ってきたんですね」

「ここが終着点じゃない。俺たちはこれから、東京を救いに行かなければならない。それより体調は大丈夫か?」

「大丈夫。あと、この前は助けてありがとう。真すごくカッコ良かった」

「…ありがとう。名字で呼ばないのか?」

「やっぱりダメかな?あなたのことをもっと知りたいし、少しでも貴方の側でこの国を守りたい」

「いいよ。俺も綾華と共にこの国を守りたい」

神崎はそう言って、艦内の魔導部隊と共に桟橋を駆け下りた。速やかに用意されていた陸軍の車両に乗り込むと、東京方面へと急行する。大和艦内に残った者たちは、海軍融和派の将兵と共に次の指示を待機することになっていた。


その頃、皇居の周囲では激しい戦闘が続いていた。

正門前では近衛歩兵第二連隊が、重機関銃と小銃を持って陣を張り、坂下門に向かって進軍してくる陸軍魔導連隊の主力を迎え撃っていた。魔導師の詠唱が轟き、空間が震える。防御結界と砲火が交差し、皇居の敷地外にまで光と爆発が広がる。

「奴ら、ここを力で破壊する気か!」

叫ぶ近衛士官の声。皇居を守るために散っていく兵士。前進を続ける第一師団や魔導連隊の兵たちの眼には狂気にも似た光が宿っていることを確認した近衛連隊はいっそう抵抗を強める。皇室の保護こそが彼らの真の存在意義なのだから。

一方、半蔵門側は警戒が薄く、遊撃隊の増援も間に合っていなかった。そこを突くかのように、陸軍魔導連隊の別動隊が展開を開始していた。

「別動隊、接近中! 戦闘魔導師多数確認! 門が破られる!」

近衛兵が叫び、応戦するが――魔導の力の前には成すすべもなく、門扉が砕け散る。突入してきたのは、闇を纏う魔導兵たち。圧倒的な魔力の奔流が、門内の守備兵を吹き飛ばしていった。

「天皇陛下が危ない!」

連絡を受けた地下通信所が緊急警報を発信。皇居内の護衛官に最優先で「緊急避難」を通達する。

――その刹那。

地下通路から、怒号と共に突入してくる影があった。

「遅れて申し訳ありません、速水中佐、到着しました!」

鋭い声と共に現れたのは、速水中佐率いる義勇遊撃隊。海軍や陸軍の有志及び京都陸軍魔導研究所所属の彼らは、即座に半蔵門前にいた敵兵を蹴散らした。

速水は鞘から軍刀を引き抜くと、隊員たちに振り返った。

「いいか、ここを抜かれるな。陛下を守るために敵兵を一歩も通させてはならない」



――天皇陛下を、絶対に奪わせてはならない。

速水中佐は、憔悴の色が濃い顔を上げ、肩で息をしながら半蔵門の瓦礫を越えた。背後では、近衛歩兵連隊の将兵が負傷者を担ぎ、再び防衛線の再構築を急いでいる。憲兵隊も加わり、銃口と結界を交差させながら、突入の機を狙う陸軍魔導連隊の残党を押し返していた。

――時間を稼げ。

速水は、地形図と現地の状況を頭の中で擦り合わせながら、陛下が避難している地下通路へ魔導を用いて目を向ける。そこには数人の近衛兵が立ち、周囲を警戒している。皇居の地下には、元来より緊急時用の避難壕が設けられている。すでに天皇はそこへ向かったという報告を受けているが――

「敵、別動隊を確認! 九段下側乾門の防衛線が突破された模様。既に穴は陸軍情報部の長岡准将率いる部隊が埋めた模様」

一人の近衛兵が叫んだ。速水の表情が引き締まる。今しがた撃退した半蔵門側とは別に、乾門をかすめて九段坂方面から回り込む形で、別働の小規模部隊が接近しているというのだ。

「魔導反応は……複数確認!構成は不明!」

憲兵の一人が魔導感知装置を見つめながら報告する。

――まずい、このままでは挟撃される。

すでに皇居外郭の各門は戦場と化し、兵力は限界に近い。だが、奪われてはならない。陛下の安全が、この国の国体そのものに直結するのだ。

「私が行く」

速水は、止めようとする部下を手で制しながら、肩から下げた懐中通信機を掴んだ。

「速水中佐、どこへ!?」

「地下へ向かう!陛下の護衛に加わる!あの連中が向かっているのは……恐らく、直接の確保だ」

その言葉に、周囲の近衛兵や憲兵が一瞬言葉を失う。敵は、命を奪うのではなく“捕らえる”つもりである――つまり、天皇を交渉の材料として使うつもりだということだ。

「援護する!」

近衛兵数名が後に続いた。

速水は先頭を駆け抜けながら、既に手に結印を始めていた。血と硝煙のにおいの漂う通路に、結界術式が浮かび上がる。

――火よ、我が前に在れ。

速水の足元を中心に、火の魔導式が展開される。爆発ではない。対象を焦がすのではなく、“進入できぬ”領域を作るための儀式魔導だ。

「敵だ。足止めせよ」

陛下を確保しようする陸軍魔導兵数名が、暗い廊下の奥に姿を現す。彼らの手には黒い刃と術式が宿る。

闇の魔導か――。

対峙した速水は、咄嗟に盾の魔導を発動し、敵の先制術式を受け流す。火花と煙が交差する中で、至近距離での白兵戦が始まる。

「くっ……!」

速水の肩を一閃が掠める。痛みに眉を寄せながらも、拳に火の術式を帯びさせ、相手の胸元に叩き込む。炎をまとった拳が術式を砕き、敵兵は呻き声を上げて後退する。

「中佐、早く!こちらで支えます!」

近衛兵の一人が叫び、速水に替わって前へ出る。速水は足を止めず、通路を抜けていく。息が切れる。視界がかすむ。

だが――。

階下、避難壕へと続く扉の前で、数人の敵が既に突入を試みていた。

速水は、最後の気力を振り絞り、炎の刃を形成する。

「――陛下に、指一本触れさせるな!!」

叫びと同時に炎が奔り、敵の前衛をなぎ払った。焼け焦げた術衣が舞い、扉の前で敵の動きが止まる。

その一瞬の隙を突き、速水は自らの身体を盾にして扉の前に立ちふさがった。

「くっ……!」

敵の術式が速水の腹部を抉る。返す拳で敵を打ち倒すも、彼の身体は膝をついた。

血が滲む。それでも、速水は倒れない。片膝をついたまま、なおも周囲に睨みを利かせる。

「陛下は……この国の象徴だ。貴様らごときに、指一本、触れさせはしない……」

敵は、その気迫にたじろぎ、わずかに後退する。その隙を逃さず、近衛兵が再び突入、速水を守るように周囲を固めた。しかし浸透してきた敵はさらに多く増えてくる。ここが正念場だった。



――持ちこたえられない。

20分以上戦い続けた彼らの中にはそんな言葉が、冷たく現実味を帯びて迫っていた。

「くそっ、まだか――!」

近衛兵の一人が血まみれの銃を握りしめ、額から滴る汗を拭う間もなく、次なる突撃に備える。地下通路は、すでに無数の爆発と魔導術式の焦熱によって崩れかけ、煙と土埃で満ちていた。

その最奥、厚い鋼鉄の扉の前に、速水中佐とわずかな近衛兵、応援でさらに駆けつけた憲兵隊が陣取っていた。速水は、深手を負いながらも立ち続けている。腰を壁に預け、結界術を展開し続けながら、魔導連隊の波状攻撃に対抗していた。

――ここを抜かれれば、陛下が奪われる。

その一点だけで、速水たちは限界を超えて戦い続けていた。

「第三波、来ます!」

「正面、魔導反応三!――否、五!」

狭い通路の奥、暗闇の先から幾重もの術式が点灯する。黒い雷のような魔力が這い回り、闇の中に潜む敵の姿をわずかに浮かび上がらせた。陸軍魔導連隊――闇を操る特殊な術者たち。彼らは爆発よりも静かな侵入を好む。影からの襲撃。深夜の暗殺。そういった任務の専門家だった。

「来いよ……例え魔導があろうとも俺たちがここで食い止める!」

憲兵の一人が叫び、残った手榴弾を通路に投げ込む。爆風が轟き、土砂が宙を舞った。しかし、すぐさま魔導術の光がそれを切り裂いて突撃してくる。

――数が足りないし、戦線が持ちこたえられない。

速水は額の汗を拭うこともせず、懐から短剣を抜いた。これ以上術式を発動すれば、命がもたないと分かっている。それでも、踏みとどまらねばならない。

彼の背後では、天皇を護る近衛兵たちが静かに姿勢を正している。もはや後がない。

「……お前たちは、よくやっている。ここで俺たちが終わったとしても、俺たちの“誇り”だけは、後世に残る」

近衛兵の誰かが、小さくうなずいた。

そのとき――。


内閣官邸・作戦室

「……皇居で交戦が続いている?」

重光外相の報告に、小磯國昭首相の顔が凍り付いた。数分前、皇居方面での大規模な戦闘が始まったという第一報が入ったばかりだ。通信は途切れがちで、現場の詳細は分からない。

「天皇陛下は?」

「……地下避難壕に向かわれているようですが、防衛線が限界だとのことです」

会議室の空気が重く沈んだ。陸軍参謀本部からの報告はない。つまり、このクーデターには上層部が加担している。もはや、正規の統制は消え失せていた。

「……腹を括るか」

小磯は立ち上がると、拳を震わせながら命じた。

「内務省に命じて警視庁と内務省の精鋭部隊を直ちに動員。皇居正門を除く全ての出入口を封鎖、近衛に協力し武装蜂起に加担する者を排除せよ!」

官邸の空気が一変した。戦時中とはいえ、警察が動員令を受けるのは異例中の異例。だが、小磯にはもはや躊躇はなかった。軍の反乱因子が暴走するなら、国家として“正義”を示すのは、政府と天皇である。

「……この国を、守るのだ」

彼の言葉に、重光と数名の閣僚が黙ってうなずいた。


皇居・地下通路

「総員、後退線を維持せよ!砲火止むまで戦線を崩すな――!」

速水が怒声を張り上げるが、その声も血に染まり、かすれていた。彼の足元には既に数人の近衛兵が倒れている。満身創痍である軍人達はもはや立っている者が半数に満たなかった。もちろん敵も多くが倒れている。

――味方の増援がないと耐えきれん

そう、速水は思っていた。

――まだ、あと少しで――。

そのとき、頭上の瓦礫の間から、雷鳴のような音が響いた。

「っ……!?」

天井が破砕され、舞い落ちる瓦礫の中から一陣の閃光が駆け抜ける。赤い結界が一瞬、空間を包み、その直後、焼けるような熱とともに火の魔導が通路をなぎ払った。

「間に合ったか――!!」

聞き慣れた声が響いた。

速水が顔を上げる。土煙の中から現れたのは、軍服を乱しながらも瞳に強い光を宿す青年――神崎真だった。

その傍らには、白石綾華と、海軍の魔導小隊が陣形を整えていた。

「遅れてすみません、速水中佐」

「……いいや、ちょうどいい」

速水は微笑んだ。そして、ふらりと膝をついた。

神崎は、その姿を見つめながら、静かに言った。

「ここからは、俺たちが引き継ぎます」

火と水の魔導が交錯し、地鳴りのような魔力が皇居を包んだ。

――まだ、日本は、終わっていない。


ストックがちょうどあと1話なので投稿ペースが落ちます。

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