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祈りより現れしもの

# 第一話:祈りより現れしもの


 それは、偶然の発見だった。

 1923年、東京帝国大学を卒業したばかりの青年学者、宮崎哲也博士は、フィールドワークの一環として訪れた九州の霧島山中で、不思議な現象に遭遇した。山間の古社に立ち寄った折、地元の老巫女が古代から伝わる“祈り”を舞った。博士がその場に持ち込んでいた測定機器は、突如として異常な数値を記録し、周囲の空気が歪むような感覚を示した。


 “何かがある”──宮崎博士は直感した。それは、物理法則を逸脱するような“力”だった。


 以降、彼は学界の常識を離れ、秘かに独自の研究を始めた。陰陽五行思想や神道の儀式、民間伝承の中に潜む法則性を探りながら、再現性のある“力”を体系化しようと試みた。やがて彼はこの未知のエネルギー現象に「魔導まどう」という仮称を与えた。


 1932年、陸軍技術本部の若き軍人、石田誠一中尉は偶然、宮崎博士の論文草稿の一部を目にする。科学技術の限界と戦争の未来を憂いていた石田は、これを国家の安全保障の鍵となる「新兵器の芽」と確信。博士に接触し、内密に陸軍の支援を受けさせる道を整えた。


 こうして、国家規模の魔導研究が始まった。

 正式な名は「陸軍魔導研究所」。その存在は、長らく軍内部のごく一部の者しか知らぬ機密事項とされた。予算は表向き科学技術研究費として計上され、場所は古都・京都の山間部に極秘裏に建てられた研究施設だった。古来より“霊脈”と呼ばれる見えざるエネルギーの流れが集中する地──それが、京都を選んだ理由だった。


 1930年代後半、日本はすでに大陸への進出を本格化していた。だが魔導研究はまだ初期段階にあり、実戦投入には至っていなかった。唯一、1939年の中国戦線において、ごく小規模な魔導効果が実験的に使用されたとされるが、それもあくまで限定的かつ補助的な範囲に留まった。


 むしろ魔導研究の主眼は、“祈り”という非合理な要素をいかに理論化し、軍事的な戦力として再現性をもたせるかにあった。その難解な性質ゆえ、育成には時間がかかり、適性を持つ人間も極めて限られていた。


 そして1940年、陸軍魔導研究所内に「魔導育成過程」が正式に設立される。全国から選抜された適性者候補が送り込まれ、初期教育課程に臨んだ。試行錯誤の末、残ったのはわずか数名──その中で、最も強い共鳴反応を示したのが、少年・神崎真であった。


 彼は、第一期生として入所した時点で、ほとんど訓練を受けずとも“祈り”に強く呼応し、周囲の霊子を動かす資質を示した。その異能はやがて軍内部で「戦略魔導適正者」として分類され、最も危険かつ最も重要な戦力候補として注視されるようになる。


 神崎は研究所で育った。

 学問ではなく、信仰でもなく、“力”を扱う術としての魔導を叩き込まれた。彼の“祈り”には純粋な想念が宿っていた。誰かを守りたい、失わせたくないという感情。それは、軍が求める攻撃力とは真逆のものであったが、だからこそ安定性と強度が際立っていた。


 ヒノカグツチ──その名を持つ戦略魔導は、神崎の能力を応用しようとする一大計画の中で生まれた。だが、その発動には幾重にも制約があり、未だ実戦での使用は試みられていなかった。


 そして1944年春、運命の東京防衛戦が訪れる。

 その時、神崎は初めて“実戦”に立った。だが、使われたのはヒノカグツチではない。彼が発動したのは、極大の防御結界。攻撃ではない、“祈り”による護りだった。


 それは、歴史を変えた。

 日本の空に張られた“見えざる盾”は、米軍の爆撃を無力化し、敵味方を問わず全世界に衝撃を与えた。


 だが、それは始まりにすぎなかった。

 国家が“祈り”を戦争の道具に使おうとした瞬間、神崎と速水たちの葛藤が始まることとなる。



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