Day25
Day25
12月25日
クリスマス
ボクは、ちっとも嬉しくない。
そう、ボクの誕生日だ。
クリスマスと誕生日が一緒になる。
前日のクリスマスイブの方が華やかな感じ。
クリスマスはイエスの誕生日らしいが、ホントは太陽神とごちゃまぜになった日だと知ってる。
とにかく25日は終わった感が半端ないのだ。
ボクは今、後輩と仕事で外に出ている。
街はクリスマス一色だ。
「先輩、きれいですねー!」
そう後輩の一条みのりは気さくな笑顔でボクに話しかけてくる。
「そうだね、もう今年も終わりに近付いた証拠だね」と、ボクはしみじみ言ってしまった。
「先輩!」こちらをみる一条。
「まだ、2週間あります!ファイトです!」となんだか励まされたようだ。
周りに木々も風に揺られ、呼応したようにみえる。
「お、おぅ‥、というか、一条さん。その、先輩ってのはやめてくれないかな?」
一条はきょとんとした顔をしている。
「は、恥ずかしいというか、むず痒いというか‥」ボクはちょっとあたふたしてしまった。
「わかりました!では、二宮先輩と呼びますね!」
「え⁉︎」そう、ボクの名前は二宮。
二宮聖
一条さん、そう言う問題ではないんです!
会社に戻り仕事を再開する。
あれから、一条さんは二宮先輩からニノセンパイという呼び方になっていた。
まあ、二宮ならその流れはわからなくもない。
でも、まだ先輩呼びはやめてくれない。
正直恥ずかしいのだが、一条さんの呼び方に癒されている自分もいた。
そんなある日のこと。
「ニノセンパーイ!」といいながら、会社に向かうボクの後ろから聞こえる声とともに、慌ただしい足音を伴い近付いてくる一条さんがきた。
「どうしたの?一条さん」と優しく声を掛けるボク。
先輩というワードを意識しているのだろうか?
「どうしたも何も、ニノセンパイ誕生日嫌いなんですか?」と、単刀直入に聞いてきた一条さん。
「あ、誕生会でないからか‥」
ボクはそう、サラッと言った。
うちの会社は必ず誕生会なるものをやるのだが、強制ではない。
社長が、「一年無事に過ごせたことと、来る一年両方に感謝するためなんだよ」と言っていたのを思い出す。
誕生会とは言っても、そんな豪華なものではなく、みんな集まってお昼を食べるみたいな感じだ。
たまに仕事後になったりするが、お昼の場合、午後の仕事はなくなる。
ボクはそっちの方が嬉しいのが本音だ。
月の前半と後半でやるわけだが、ボクは後半組。
しかも、12月は忘年会とはまた別だ。
改めて、社長の人柄に感動する。
と、言っておいて、誕生会に出席しないと決めていたボク。
誰かが、一条さんに言ってしまったのだろう。
とりあえず、一条さんに説明する。
「一応、最初の挨拶にはでるけど、その後はでないってことなんだけど‥」
一条さんは頬を膨らませている。
「わかりました!では、ニノセンパイのシン誕生会やりましょう!」
「え?」ボクは激しく動揺した。
‥ボクの誕生日、25日って知っているのかな?‥
12月の会社の誕生会も無事終わり、会社としては忘年会のみとなった。
その前に、5日後に控えているボクの誕生日がある。
「えー!二宮さんにそんなこと言ったの?」
「うん。いったよ?」と、喫茶店のみのりたちの席が騒がしくなる。
みのりの友人たちは一様に頭を抱える。
「みのり、それって‥」
「うん?」
「やっぱりこの子、ど天然だね!」
「間違いない」
「信じられないくらいね」
3人の友人が連呼していく。
誕生日とクリスマスという説明を受けても、かわらない一条みのりがそこにいた。
「と、いうわけで、ニノセンパイの誕生日、よろしくお願いします!」と、一条さんに会社で、朝、いきなり頭を下げられた。
「一条さん‥」といいながら、ボクはおでこに手を当てて下を向いてしまった。
そんなジェスチャーも、一条さんにはボクが喜んでいるように見えていたらしい。
24日。
クリスマスイブというよりは、恋人たちの日ではないかと思う。
当然、ボクは明日は一条さんと誕生会をすることになっている。
一条さんは、彼氏いないのだろうか?と気にはするも、ボクの口からそんなことは聞けない。
あれだけ明るくていい子だ、いないはずはない。
それなのに、ボクのことを気遣ってくれるなんて‥と、一人感動してしまった。
でも、朝から待ち合わせは早くないか?
そうなのである。一条さんとの待ち合わせが9時半なのである。
待ち合わせ場所に少し早めにいく。
30分前は早すぎるかな?っと独り言を言いながら歩く。
と、視界に人影を発見。
一条さんだ!
こんな寒い中、待ち合わせより早いのに待っていてくれる。
ボクはなんだか視界が揺らいだが、リセットし一条さんの元へ歩きだす。
「あっ!ニノセンパイ!」ととびきりの笑顔がこちらを照らす。
「まだ、集合時間には早いですよ?」と首を傾げる姿が愛らしい。
「そんなことより‥ニノセンパイ‥」
「誕生日おめでとーございます!」
そう一条さんから言われた時、もうこれ以上の誕生日プレゼントはいらないなっと思う自分がいた。
「わたしからの誕生日プレゼントは、ニノセンパイと一日中いることです!」と言われた時はびっくりした。
「誕生日は楽しいものです!」とも言われた。
ボクが楽しそうにしていなかったからか、気にしてくれたみたいだ。
一条さんの彼氏は幸せなんだろうなーっと、ふと思う自分がいた。
普段仕事を共にするとはいえ、仕事での話。
プライベートまでは踏み込めない。
踏み込むつもりもないのだけれども、そうは言ってもいい子だとは思う。
一人の女性として魅力がないわけではない。ただ、そういう目で見ないようにする自分は確かにいた。
一応先輩でもあるわけだし。
ここまで色々気遣ってくれて、いい子であれば、流石にボクでも気にはなる。
自分の感情のコントロールができるのか、不安だ。
そんな思いを知ってか知らずか、一条さんの誕生日プレゼント計画は進んでいく。
何度も何度も、愛くるしい笑顔や笑い声、ちょっとふてくされたり、その一喜一憂のようなものに、ボクは癒されていた。
彼女がいたらこんな感じなんだろうなーっと思ってしまった。
誕生日がこんなに楽しいなんて‥
ボクは一条の誕生日計画の終わりを思い、少し寂しさを感じた。
辺りも暗くなり、イルミネーションかがより一層目立つようになる。
そんなイルミネーションより、一条さんが、どれだけ眩しく見えるか、もはや言葉にするまでもなかった。
一条さんが予約してくれていたお店で、暖をとりながらゆっくりと過ごす。
誕生日ケーキも用意していてくれたらしく、心も暖まった。
こんな楽しくて、幸せな気分になるなんて‥そう考えていたボクの顔をみて察したのか一条さんがこちらを見て笑顔でこう言った。
「来年も、誕生会しましょうね!聖さん!」
-おしまい-
短編読み切りお読みいただいてありがとうございます。
どうだったでしょうか?
二宮と一条の関係も気になりますよね!
冬の短編ということで、クリスマスをテーマにお話をつくりました。
誕生日とクリスマスを一緒にすることが悪いというわけではありません。
そう思う方もいるだろうな‥と思ったわけです。
今回は、二宮と一条の話となりましたが、好きとか嫌いとか、恋愛とかを全面に押し出す感じだけはさけて、話を進めました。
楽しんでいただけたら、幸いです。