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 ドM疑惑の勇者、ドSの聖女、引きこもり気味の賢者に拘束されるのが趣味の聖騎士。これで斥候がとんでもない奴だったら救いがなかったのだが、どうやら最悪の事態は避けられたらしい。


『魔王様』

『キュバリル、どうした?』

『そのアリアスという斥候ですが、おそらく殺人狂のアリアスではないかと』


 え?何それ。


『どういうことだ?』

『何度か見たことがあるのですが、狂気の笑みを浮かべながらヘッドショットを連発し、その数で悦に入るという、殺人狂です』

『おい勇者』

『えーと、腕がいいのは確かだ。罠とかみつけるのもうまいが、設置はもっとうまい』

『うまい?あんなエグい罠を仕掛けておきながら?』


 どんなエグい罠かは詳しくは聞かないでおこう。


『そう言えば、戦いのあとはいつも歌ってたな』

『歌?』

『今日の眉間は何人で、昨日よりもちょっと少なかった~とか』


 魔族軍もアレな人物がいないとは言いきれないが、勇者パーティ、酷くね?




とりあえず勇者に「次にお前の仲間が来たときはもう少し何とかしろ」と言っておいた翌日、娘が大きな声で「やった!やった!」と部屋に飛び込んできた。


「志帆、壊さないでね。それ三百円もしたんだから」

「大丈夫よ」

「そう?」


 はて、「三百えん」とは何だろうか?

 何となく、「えん」というのが通貨単位で、あの両手で抱えている箱の代金ではないかと思うが、確証はない。三百というのは金貨の枚数か?それにしては箱が小さいように見えるが……

 とりあえず気にしても仕方ないかと、グレモロクとの魔法陣論議に戻る。見えないように、聞こえないようにしていればこの部屋の主である娘がいたところで特に支障はない。念話とは実に便利だと思う。


『ほう?魔王がいるのか?』


 ん?


『魔王だけでなく、三人の配下も。ククク……探す手間が省けたか』

『何者だ?』

『ククク……そうか、しっかりと名乗ったことは無かったな』

『アリアス!お前もこっち(・・・)に来ていたのか?!』

『ん?勇者エイクか?』


 勇者パーティ最後の一人、優秀な斥候にして人族では頭一つどころか三つほど飛び抜けた弓の才能の持ち主、アリアスは……なんだかとても精巧で、武器とおぼしき物を構えた人形の姿をしていた。


『魔王様』

『うむ……あの人形の加工精度、やはりこの辺りの人族は我々が知る以上の技術を有しているな』

『そしてその人形に惨殺者アリアスが転生している、と言うことですね』


 全く、転生の秘術ってのは使い方を間違えるとこうなるんだな。


『とりあえず勇者!』

『なんだよ』

『あいつを黙らせろ』

『へ?』

『アレはお前の管轄だろう?』

『管轄って』

『勇者パーティのメンバーだろ?ならリーダーのお前の管轄だ』

『待て、何の話をしている?』

『あー、えーと、アリアスだっけ?お前の処遇についてだよ』

『処遇?』

『もう少し具体的に言うと、この家の住人に悪影響を及ぼさない配慮について』

『この家の住人に、悪影響?魔王の分際で何を言う』

『えーと』


 俺は確かに魔王だが、少なくともこの状況を脱するまではこの家の住人に何かするつもりは無い。それどころか、魔王とその配下の将がいることを隠し通した事への協力に感謝して、魔王としての完全な復活を果たした暁にはこの家の住人だけは魔族領で丁重に扱ってもいいとすら思っている。


『フン……そんなことか』

『え?』

『平民の小娘など、魔王討伐という大義の前には塵芥(ちりあくた)に等しい!』

『ちょ!勇者!早くアレを何とかしろ』

『何とかしろったって……』


 何かすごく不穏なことを言い出してるじゃないか。本当にあいつ、勇者パーティの一員なのか?


『キュバリル、アレが本当に勇者パーティにいたのか?俺たち以上に人族の敵っぽい感じがするんだが』

『魔王様、今のアリアスには枷が無いようです』

『枷?』

『ああ、そう言えば、血の戒めとかいうのをはめてたっけ』


 何だその物騒な名前のブツは?


『俺も詳しいことは知らないんだが』と前置きして勇者が説明した、勇者パーティに合流する前のアリアスの話は「ひどい」のひと言だった。

 元々アリアスは優秀な冒険者で、斥候としての技術に弓の腕前で名を馳せており、各国の騎士団が是非にと引き入れようとしていたが、本人は「どこか一箇所にとどまると、他の地で困る者が出てしまう」と、実に聖人君子的な返答で断り続けていたという。

 何でも地平線すれすれの的にも命中させる上に一撃でドラゴンに致命傷を与える程の弓の腕前らしいから、そりゃあ大陸全土で引く手あまただろうし、その腕前で多くの魔物を討ち、人々の役に立ちたいという言葉を出されたらどこの国も引き下がるしか無いのだろう。

 だが、魔族との戦闘激化に伴い、勇者パーティへの合流を求める声も大きくなる。だが、戦闘激化ならばなおのこと、あちこちに出向いて人々を助けたいと断り続けたそうだ。


『全然殺人狂っぽく聞こえないんだが』

『魔王様、勇者の話に関しては我々で調べていた内容とほぼ一致しています』


 ほぼ、というのは一から十まで全部調べきれていたわけではないから把握していない情報もあると言う話で、勇者の話に嘘があるという意味では無いとのこと。とりあえず勇者に話の続きを促す。


『だが、ある日……魔物に襲われていた少女を助けようと放った矢が、少女に当たったんだ』


 矢を放つ直前に風向きが少しだけ変わり、アリアスの存在に気付いた魔物が少女を盾にしたらしい。アリアスの矢は正確に魔物の頭部を狙っており、勢いよく放たれていたこともあって、少女の喉元を引き裂いてから魔物の頭を吹き飛ばしたという。


『魔物を倒すことは出来たが、その矢で守るべき者も仕留めたのか』

『そうだ。そして、アリアスは狂った』

『狂った……まあ、そうだろうな。守ろうとした者を自分の手で殺めたのでは』

『そしてそれからだ、殺人狂とか殺戮者とかいう二つ名がついたのは』

『それがどうして勇者のパーティに?』

『言っておくが、俺が勧誘したわけじゃない。戦力として優秀だからと言う理由でダイアー王国から押し付けら……じゃない、推薦されたんだ』


 本音が漏れてるぞ。


『ん?ダイアー王国だと?』

『キュバリル、どうした?』

『魔王様、ダイアー王国はご存じですよね?』

『一応な。だいたいの位置しか知らんが』


 数年前に滅ぼしたからな。


『そう言えば王国軍が信じられないほど弱かったな』

『そうだろうな。アリアスの捕縛にかなりの兵を投入していたからな』

『はい?』


 アリアスの捕縛に兵を投入?


『アリアスはダイアー王国出身だ。んで、冒険者として活動している最中に狂った。具体的には街が一つ滅びかけるくらいに』

俺たち(魔族)以上に酷くね?』

『そこで、その首に賞金がかけられたんだが、いざ討伐と兵を出した直後、正教会が神託とかいうのを発表したんだよ』

『ああ、お前たちが勇者で魔王()を倒す存在だ、とか言う奴だな』

『そう。そしてその中にアリアスがいた』

『へえ……ん?と言うことはぶっ殺しに行ったが、殺すわけに行かなくなって?』

『そう。かなりの被害を出しながらようやく捕縛。奴隷化の首輪、それも最上級の奴をはめてようやく言うことを聞かせられるようになって勇者パーティに入れたんだ』


 元殺人狂の奴隷かよ。


『斥候としては優秀だったんだよ。少し言動に問題はあったけど、首輪の力で従わせることが出来たからな』

『ん?首輪?』

『してませんね』

『『『……』』』


 転生と同時に外れた結果がアレ、か?

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