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(3)

(さて、ここはどこで、どういう状況なのだろうか)


 何かガサガサと音のうるさい袋――だろう、多分――に詰め込まれ、いずこかへ運ばれた。袋は光を通していたが全体に白っぽくて、中からは外の様子がほとんどわからなかったのでどこをどう運ばれたのかは全然わからん。そして視界が開けたと思ったらどこかの建物の中におり、どこかに座らされていた。部屋の広さは……自分の体のサイズがよくわからないので推測だが、多分かなり狭い。魔王の身の回りのことをさせていた者達が細々とした道具をしまっていた、納戸のような部屋が確かこれよりもやや広いくらいだっただろうか?室内には書き物の出来そうな机と椅子に人間が一人寝るには困らないであろうサイズのベッド。そして壁際には棚があり、色々と物が置かれているようだ。

 この部屋をザッと眺めて驚いた点が三つある。

 一つ目は窓だ。前世でももちろん建物、つまり部屋には窓がつけられていた。換気や明かり取りが目的だが、通常の窓は木の板を扉として取り付け、雨の日や風の強い日などには閉めてしまう。つまり、真っ暗になるのが普通だ。一方、この部屋の窓には透明なガラスがはめ込まれている。そう、ガラスだ、多分。近くで確認していないから断言はできないが、あの感じはガラスだろう。ガラスの窓なんて高価である故に魔王の居城ですら、謁見の間と魔王の私室に小さな物しか使われていなかったのに、この小さな部屋の窓にはそのガラスが取り付けられている。しかも、かなり大きい。アレ一枚で一体どれほどの金貨が動くだろうかと想像すると少し恐ろしくも感じる。

 二つ目は壁際の棚に机の上の物だ。距離が遠く、よくわからないが書物が置かれている。さらに、遠くてよく見えないのだが、机の上に筆記具の類いと(おぼ)しき細長いものがいくつか見える。魔族はもちろん、人間でも文字の読み書きが出来るのはごく限られた者だけ。貴族やそれに連なる者や学者などだけだ。

 そして三つ目が壁際に置かれているベッドだ。サイズはおそらく人間用としては一般的だろう。まあ、ベッドのサイズは使う者のサイズに合わせる一方で、子供のベッドでも大人のサイズで作ることもあるからそこは別にどうでもいい。問題はその上に置かれている寝具だ。この距離からではその詳細を知る術がないのだが、布の質感は絹ではなさそうだが、それに匹敵するほどのきめ細やかさが見てとれる。また、その膨らみ具合から察するに、かなり上等な綿が使われているに違いない。

 この三点だけ見ても、この部屋の住人は極めて裕福で、非常に高い教育を受けている者。簡単に言えば貴族階級か、かなり裕福な商人とか、そういった連中だろう。そう、王族だとしても驚かない程だ。

 そして、先ほどからの流れで言えば、この魔王の転生体を抱え上げていた人間がこの部屋をあてがわれているのだと断言できる。

 一方で、この部屋の狭さはおかしい。裕福なくせに狭すぎる。となると、あの人間、おそらく妾の子供だろうか。相当に地位の高い者の妾なら、このアンバランスさもあり得るだろうと、とりあえず納得しておく。情報の少ない現時点では憶測も程々にしておかないと名。

 それはそれとして、魔王ともあろう者が人間の子供にいとも簡単に抱え上げられてしまうとは情けない。だが、それも今しばらくの辛抱。この体が成長し、十分な力を得た暁には相応の報いを受けさせてやればいい。あの顔が恐怖に(ゆが)み、苦痛でのたうち回る様を想像し、少しばかりだが溜飲を下げた。

 さて、周囲の状況はこれ以上はどうにも確認出来ないので、続いて自身の現状把握をせねばなるまい。

 まず、満足に体が動かないが、これは産まれたばかりの赤子だからと断定する。思い返せば、前世でも部下の中には子を為す者もおり、幾度かその赤子を見たことがある。もちろん種族によってその姿は様々だが、ほとんどの者に共通していたのが、親が如何に強靱な肉体を持っていたとしても、赤子は小さくてひ弱で、満足に手足を動かすだけの筋力もなく、ただただされるがままの脆弱な生き物だ。はるか昔でおぼろげで記憶に定かではないが、この魔王とて赤子の頃はそうであったに違いない。そしてそれは転生したこの体でも(おおむ)ね正しいだろう。と言うことで、体が満足に動かないのは当然のこととして受け入れるしかない。

 少しだけだが動く首を巡らせるとわずかに下を向くことが出来た。そこには二本の白いモフモフとしたものが見える。体の感覚と照らし合わせてみても、これがどうやら自分の両腕らしいと推測する。

 前世の自身の肉体はその呼び名、白い魔王が示すとおり、全身が白い毛で覆われていた。もっともほとんどの場合、その身は人間共の返り血で真っ赤に染まっていることが多かったし、戦いが長く続いたあとなどはいくら洗っても落ちないほどだったが。

 さて、今世のこの体も前世の体の特徴を受け継いだのか白い毛皮に覆われているようである。だが、その両腕の先には鋭く(とが)り、鋼すらもまるでぼろきれのように引き裂いた爪は見られない。生まれたて故に生えていないのだろう。でなければ胎内から出るまでの間に母親を切り裂いて殺してしまいかねない。腕力と呼べそうな物が見られない細い腕もそうした理由があるのだろうと結論づけた。

 とりあえずこれ以上のことはわからない。では当面どうするかを考えるとしよう。

 まず、自身をここに連れてきた人間に関しては、現状では危険度は低いと推察する。と言うのも、この身が魔王の転生体であると知っていたならば、相応の対処、すなわち衛兵に突き出すなり何なりして討伐にかかるであろうが、そうした素振りは見られなかった。つまり、魔王が転生したなどとつゆほども知らず、ノホホンと自身の家屋に招き入れたと言うこと。自身の姿を見ることは出来ないが、赤子と言うことでおそらく前世の魔王の姿とは似ても似つかぬと言うか、かけ離れた容姿になっているために気付かないのだろう。つまり、ある程度成長し、力を身につけるまでの間、正体を隠し続けていれば、食事はもちろん寝所も提供され続けるだろう。

 では、早速これからどうするかというと……寝るより他にない。前世ではついぞ子を儲けることなく命を落としたが――断じて相手がいなかったわけではない。魔王故、()り取り見取りであったが、如何せん人間共が鬱陶しかったため、人間の殲滅を優先していたのだ――多くの者がこう口にしていた。


「赤ん坊は寝るのと泣くのが仕事」


 さらに言えば「寝る子は育つ」などと言う格言もあると聞いた。なんでも寝ている間に成長ホルムン?ホルマン?とかいう物質がどうのと言う話だったと思う。話半分に聞き流していたためあまり覚えていないが。

 いずれにせよ、寝る以外の選択肢はない。幸い腹は減っていないが、体が動かないのなら他にすることもない。そう考え、目を閉じて眠ることに決めた。再び目覚めたときにはせめてそこらの人間程度赤子の手を(・・・・・)捻るように(・・・・・)くびり殺せるほどに成長していることだろう。そう考えて目を閉じた。

基本、こんな感じで進む作品です。

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