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 この状況を引き起こしたのが転生の秘術であることは疑う余地がない。だが、何が起こったのかが今ひとつはっきりしない。そこで、改めて転生の秘術で何が引き起こされたのか、正確に言うと、転生の秘術は何を引き起こす魔法だったのかを確認しようとなった。

 どうやってやるのかというと、転生の秘術を発動させる魔法陣に書かれた内容を解析してみる以外になさそう、となった。

 転生の秘術の魔法陣は、あちこちに書物が散逸していたせいもあって完全な物としてきちんと描かれた物は一つも無かった。俺は人族の領地を攻め落とすときに、いわば禁書扱いになっているそれらをかき集め、重ね合わせて完全な形の魔法陣をどうにか構築することに成功した。

 だが、それはあくまでも序章でしかなく、その後がまた大変だった。

 転生の秘術は特殊な材料で作った道具などを使い、術者本人が魔法陣を描く必要がある。つまり、俺が転生の秘術を使う以上、俺自身が描かねばならない。そこで、必死に……何度も何度も書き損じた物を捨てながら魔法陣を描き続けた。

 そんなに書き損じをするのかよと思うかも知れないが、縦横数センチ四方の中にらせんを綺麗に描き、その線に百文字程度を書き込んでいき、さらにいくつかの記号を描いていかなければならないと聞けば、その難しさがわかるだろうか。

 らせんを綺麗に描くだけでも随分大変で、すぐに線が(ゆが)む。また、そこに書き連ねていく百文字ほども、現代には伝わっていない古代の文字が多く、書き写していくのはとても苦労した。

 と言うことで、だいたい三ヶ月ほどの間、毎日描き続けていたので、どんなことを書き込んだかは良く覚えている。

 そこでそれをできる範囲で読み解き、転生の秘術の正体を探ろう、となったのである。

 もっと前にやっておけよと言われるかも知れないが、当時は俺が前線に出ていないだけで、毎日のように人族の国を攻めていた時期だったので、グレモロク程に魔法陣の解析が出来る者がいなかったのだ。

 そして今は逆にどこかに攻め込むと言うことができないので、じっくり時間をかけられるという状況になったのでこうなったのだ。


『ううむ……グレモロク、そろそろ』

『畏まりました。明日までにこの部分の解読を進めておきます』

『頼むぞ』


 俺の魔力がほぼ空。グレモロクは見た内容を思い起こしながら、手元で魔法陣のかけらを再現し、という感じで魔力を消費する訓練に切り替えた。器用な奴だな。

 キュバリルとフォラトゥは今までやっていたものをそのまま継続。今のところ、四人とも魔力が順調に増えてきているので、いずれはこの家を乗っ取るどころか吹き飛ばすのも簡単にできるようになるだろう。


『おい!魔王!おい!』

『うるさいな……少しばかり瞑想に入るから黙ってろ』


 実際には気絶だがな。




 こうして三日ほどかけて転生の秘術の魔法陣に書かれていた文字を全てグレモロクに伝えた。

 その結果はだいたい予想通りだったが、全ての解読は不可能という物だった。元々が禁術という事もあって、使われている文字は何らかの理由により何百年、何千年前の頃に使用が禁止された文字が多く、グレモロクも見たことがない文字だらけ。と言うわけで書いてある内容の大半が理解できない物だった。

 魔法陣に文字を書いていくときにはだいたい次の三つを記述しておく。

 一つ目は魔法発動のエネルギー源。通常は術者の魔力か、魔道具に仕込んだ魔石、またはそれらを補助する薬等が指定される。転生の秘術の場合、術者――つまり俺――の生命力を魔力に転換する回路が一緒に組み込まれており、それを使用するように書かれていた。これは問題ない。と言うのも、見つけ出した文献ではその辺りの記述が結構いい加減で『魔力だけじゃ足りないだろうから生命力も使っちまえ。どうせ死ぬんだし』みたいに書かれていた。何しろ転生の秘術はかなりのエネルギーを使用すると書かれていたから、魔王たる俺の魔力でも足りるのか不安だったので、生命力も魔力に変換するようにしたのだ。

 どうせ死ぬときに発動させる魔法。死へ向かって一気に消えていく生命力を全て魔力に変換したところで問題はない。

 二つ目が魔法の効果。俺がさんざん練習してきたそよ風の魔法の場合、風を吹かす、つまり空気を動かすと言うことが書かれている。が、この書き方が非常に面倒。とにかく回りくどくて七面倒くさい書き方をしなければならないため、そよ風を吹かすだけでも声に出して読み上げると数秒かかるくらいの長さが必要。

 そして転生の秘術の場合、文字通り(?)何を書いてあるのかさっぱりである。グレモロクによると、『命』とか『魂』とかそう言う単語が見て取れるので、内容は問題ないだろう、とのこと。


『研究室に集めるのに精一杯でまだ手をつけられていない資料を読み解けば、書かれているかも知れませんが』


 あの資料の山、というか壁だろアレは。まあいい。ここで出来ないことを言っても始まらん。

 最後がその術の効果をもたらす対象。攻撃魔法なら攻撃対象、防御魔法なら防御する物を記述する。


『ここに若干の疑問がございます』

『何だ?』

『ここです』

『えーと、これだと「術者」って意味だよな?』


 魔法陣魔法の場合、術者には二種類ある。一つは実際に魔法陣を使って魔力を注ぎ込んでいる本人。もう一つは魔法陣を書いただけの人。

 呪文詠唱の場合は『術者』は本人なのでそのままなのだが、魔法陣の場合はえーと、たしか……


『しゅーしょご、だっけか?』

『修飾語ですわ、魔王様』

『そうだった』


 その修飾語できちんと誰なのかを明確にする必要がある。


『この場合、魔法陣に魔力を供給している者、つまり俺だよな?』

『そうなのですが……』

『あ』


 キュバリルが何かに気付いたようだが?


『魔王様、最後の一文字が!』

『え?……あ!』


 最後の一文字の形が少し歪んでいるような気がする。


『むむむ……』

『魔王様?』

『記憶通り、確かにこの形で魔法陣を作っている』

『つまり』

『俺のミスだな……この形だとどういう意味になる?』

『申し訳ありません。このキュバリルには見当もつきません』

『そうか。グレモロクは?』

『この形ですと文字になりませんが、その前の文字と組み合わせると古代の文献に確か記述がありました』

『どういう意味になる?』

『対象を術者の周囲にせよ、となります』


 やっちまったか。


『つまり……転生の秘術の魔法陣に組み込んだ内容としては、だ』


 改めて俺が整理する。


『魔法の効果そのものは解読不能だが、転生するという記述がされていたことは間違いないだろう』

『そうですな』

『私たちがここにいるのが何よりの証拠』

『そして、魔法のエネルギー源は魔王たる俺自身、そして対象は……俺を中心に発動』

『ここからは私の推測ですが……おそらく魔王様から供給される魔力のある限り、範囲が広がっていったのではないかと』


 そうなると……とんでもないことになるよな。

 そもそも転生の秘術自体が禁忌とされていたこともあって、ロクに記録が残っていないし、なにより術の発動と同時に術者が死ぬので、残っている記録だって本当に転生の秘術を行使した結果かどうか怪しいものだらけ。

 それでも信憑性の高いものを集めてみた結果、秘術が発動したと思われるものは術者自身がそれなりに名の知られた者で、豊富な魔力を活かして発動したと思われた。

 一方、発動しなかったらしい者は、大した技能もないくせに魔法を行使しようとした結果、瞬時に魔力を吸われて、発動するより前に干からびて死んだような者ばかり。

 だから俺は魔力を豊富に供給できるような仕組みを組み込んでみたのだが、こんな所のミスのせいで、俺の生命エネルギーをつぎ込んで、周囲も巻き込んだ転生をしたという訳か。


『まあ、その……何だ。スマン』

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