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 と言うことで、魔族領から海に出るのはあまり現実的でない一方、人族の住む海側は波も穏やかで魔物も少ない上に比較的小型。と言うことで、沖合に出て漁をしたり、海の向こうまで渡っての交易が行われているらしい。

 今俺たちがいるこの場所がそうした海を越えた場所だったとしたら、ここがどこなのか見当もつかないのは道理だし、様々な技術の発展度合いが違うのも納得出来る。


『とりあえず、ここがどこかという議論は置いておこう。現時点ではなんとも言えないというのが結論だ』

『そうですな』

『憶測で物を言っても始まりませんし』

『で、だ。この部屋の窓にはガラスがはまっているのは気付いているよな?』

『もちろんです』

『と言っても、信じがたい大きさですので、本当にガラスか?と疑っておりますが』

『その気持ちはわかる。だが、外の様子が見えるという時点でガラスと言っていいだろうな』


 ガラス以外の何か、と言う可能性もあるが、詳しく調べることが出来ないからな。


『いきなりガラスの話をしてしまったが、まずは今から話すことをまず聞いて欲しい。一旦ざっくりとした話をするから、詳しいところは質問に答える形にした方が早そうだ』

『わかりました』


 と言うことで、話を始める。

 人族の国にあったような子供の遊び場になりそうな広場があったこと。

 道路が土のままでなく、かと言って石を敷き詰めたわけでもない何かできれいに覆われていたこと。

 その道を、馬を使うでも無く、魔力が使われている様子も無さそうに見える、不思議な乗り物が走っていたこと。便宜的に魔道車と呼ぶことにしたこと。

 魔道車には色々な大きさがあるようで、荷物を運ぶ用、人を運ぶ用、と言った具合に構造が違うらしいと言うこと。ただし、荷物を運ぶためと思われる魔道車をしっかり確認出来ていないからここは推測だが。

 それから魔道車にもガラスがふんだんに使われており、外の様子がよく見えること。また、馬車とは比べものにならない速さでガタガタと揺れたりもしないこと。

 暗くなると道沿いに明かりが灯されること。ただ、何かの燃料を燃やしているわけでもなく、魔力的な何かでもなさそうだと言うこと。便宜的に魔道灯と呼ぶことにしたこと。

 魔道灯は魔道車にもつけられており、進行方向を明るく照らしていたこと。

 少女が体調を崩し、魔力を感じない治療を受けていたこと。ただし、治療の詳細は良くわからないとも付け加えておいた。気絶していて見てないからな。

 そして、この家にも魔道車があるらしいこと。執事ではなく、父親と思しき人物が操る魔道車に乗って帰ってきたこと。

 その道すがらで見た街並みのこと。この家も貴族と思われるがそれほど大きな屋敷ではないこと。


『ざっとこんなところだな。細かいところを言い忘れていると思うが……なんでも聞いてくれ。見た限り、覚えている限りで答えよう』

『魔王様、僭越ながら申し上げます』

『うむ』

『このキュバリル、これまでも、そしてこれからも魔王様に絶対の忠義を尽くす所存ですし、魔王様が偽りを述べるなど微塵も思っておりませんが……(にわか)には信じがたいことばかりです』

『だろうな。俺がキュバリルの立場だったら、『そんな馬鹿な!』と叫んでいるかも知れん。実際、俺も目の前の出来事が幻覚魔法ではないかと何度も疑ったのだが、そんな様子は無かった』

『フム……馬を使わずに走る車、ですか』

『そうだ』

『少し前に、ゴーレム技術を応用した車の開発を行いましたが』

『あれか』


 ゴーレムというのは簡単に言えば、魔力で動く人形だ。体を何で作るか、ゴーレムの核にする材料をどうするか、といった材料から、その目的に合った形状を構成して、魔法陣を組み込んで……と言う具合に色々やって作り上げるもので、魔王軍でも戦線に投入していた。と言っても、馬車を引く馬の代わりに馬の形をしたゴーレムにしたとか、とにかく巨大な物を作り、その巨体で町を破壊して回ったとかの使い方が一般的だ。それは人族の方でも似たような物だが、ゴーレム研究では人族の方が一歩先んじていたようで、比較的小型――と言っても、身長三メートルほどだったが――の人型ゴーレムを戦線に投入していたな。小柄な兵にとっては脅威となる相手だったが、同程度の体格の兵にとってはウォーミングアップにもならない程度でしかなかったと記憶しているが。

 人族も多分研究していたと思うが、魔族側で研究していたのがゴーレム技術を応用した馬を必要としない馬車だ。馬を必要としない時点で馬車ではないので車としか予備用がないのだが、まあ、そこは置いておく。で、このゴーレム馬車というかゴーレム車だが、一応は完成した。したのだが……実戦投入は見送られた。

 そもそもゴーレムの馬がひく馬車とゴーレム車では何が違うのかというと、御者の存在だ。ゴーレムの馬がひく馬車では馬に指示を出すための御者が御者台に座っていなければならず、弓や魔法で狙われたらおしまいという意味では普通の馬車と変わらない。まあ、馬が死なないというか、死ににくいというのは大きいけどな。

 で、ゴーレム車は何がいいのかというと、この御者が頑丈な車の中にいるという点。攻撃されても簡単に傷ついたり死んだりしないので、戦地のど真ん中に兵を送り込んだり、全線ギリギリまで物資を輸送したりというのが実現出来そうだったのだが……断念した。

 ゴーレム馬もそうなのだが、ゴーレム車はとにかく重かった。いや、重くても自走するからそこは別にいいのだが……沈むんだよ、地盤が緩いと。だから雨が降ったあとなんかはすぐにぬかるみにはまり込んでしまって動けなくなる。普通の馬車なら兵たちが協力すれば持ち上がるからいいし、ゴーレム馬は足が膝くらいまで埋まっても自力脱出出来るが、ゴーレム車はそうは行かない。

 結局、『足を生やした方がいいんじゃないか?』となって、巨大な足を生やした四つ足ゴーレムも作ってみたが、揺れがひどくて乗っていられない。物資運搬専用でもいいのだが、試しに歩かせてみた結果、中に入れた物はグチャグチャになっていた。頑丈な箱や樽につめても、一キロも歩いたら箱も樽も完全に粉砕されてしまうので物資運搬としても断念。

 極めつけは製造コスト。ゴーレム馬を作るのにかかる費用が馬を二十頭、使えるようになるまで育て上げるくらいかかる。そしてゴーレム車は……試作段階で既に量産したら国家予算を傾かせかねないレベルと判明。現状では特に困らないと言うことで研究は中止された。


『俺が見た限り、魔道車は十台とか二十台なんて数ではなかった。おそらく……数百、数千という台数がこの近隣で使われている』

『それほどの数となると』

『相当優秀な魔道士がいるのか』

『あるいは戦争に備えて準備を進めている最中なのか』

『いや、戦争に向けての準備という様子は無かったな』

『魔王様、どういうことでしょうか?』


 戦争というのは兵と物資をいかに効率よく輸送出来るかが鍵となる。魔王軍もそのための軍馬の育成、馬車の生産を怠っていなかったのだが、戦争直前ともなると軍馬の訓練も最終段階、馬車も一通り組み上がって慣らし運転を兼ねて前線へ向けて運び始める。つまりだいたいの場合、馬車の向かう方向は決まっているのだが、俺が乗った魔道車はどちらも、結構あちこちに道を曲がっていたような気がする。と言うか、この家に来るときに乗った魔道車が敷地内に停められている時点で、この家の所有物である可能性が非常に高い。もちろん、この家の主が軍人で、いよいよ出撃が迫ったために、と言う可能性も否定出来ないが、軍支給の物を私的に使っている、と言う雰囲気ではなかったんだよな。

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