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ここはシンプルにいくのがいいだろうな。
念話は意識すれば声色が変えられる。音があるわけでもないのに声色とはこれ如何にという感じだし、かなり集中し続けなければならないので、長時間は無理だ。だが、この小娘の声色を真似て『助けて!』とシンプルにやるくらいなら何とかなる。幼女性愛者を引き寄せる可能性も高いが、比較的善良な者なら、何事かと様子を見に来てくれるだろう……多分。
人族にその程度の良心があることを期待したい。
では飛ばす先は?
充分な実験をしたわけではないが、恐らく百メートル程度なら飛ばせるだろうと思うので……方角……うーん。
念話を飛ばした先に誰もいないと意味が無い。そして、今のこの姿勢――特に視界が雪で塞がれているのが一番痛い――では、周囲の状況はほぼ把握できない。
遠距離へ念話を飛ばすのはそれなりに魔力を使う。こっちがダメならこっちに、等と手当たり次第にというのは難しい。多分、二回か三回、頑張って四回がせいぜいだろうから、確実に誰かがいるところを狙わねば。
この公園らしい場所はそこそこ広く、人が隠れていそうな場所も無かったと思うから必然的にその外。この小娘が歩いてきた道は……夜間故に人通りは減っているだろうと考えるとダメだろうな。
では他の方角は?何があるかさっぱりわからんからなかなか難しい。建物のようなものがあったような気もするが、建物だからと言って誰かがいるとは限らない。
となると、やはり魔道車の走る音がする辺りか。
はっきりと確認できたわけではないが、あの魔道車は操る者が乗っていなければ動かないらしい。どういう原理かはわからないが、走っている魔道車には必ず誰かが乗って操っている。つまり、魔道車の行き交う辺り、少々広めの範囲になるので魔力消費が大きくなってしまうが、音がしているときに念話で叫び声を送れば、確実に誰かは聞くだろう。
それで足――というか魔道車だな――を止めてくれれば御の字。もう一回叫べば、『こっちで何かあったのか?』と寄ってきてくれるだろう。
そうと決まれば善は急げ。じっと耳を澄ます。
どういう理屈なのかはわからないが、魔道車の行き交う音は定期的に止むんだよな。どんなに栄えている街でも、常に人通りが多くて密集していると言うことはなくて、時折ぽっかりと人通りが途切れることはある。理由はさまざまだからどうでも良いのだが、それと同じことがあの魔道車にもあると考えれば、行き交う量に波があるのは別に不思議なことではない。
「はあっ……ふうっ……」
小娘の息づかいが荒い。急がねばという思いと、確実性を求めるべきだという慎重さのせめぎ合い。魔道車の音が大きくなった。今だ。
『助けて!』
方角ヨシ、距離ヨシ、大きさヨシ。うまく届いたと思う。
直後、何か大きなものをぶつけてぶちまけたような音が響いてきたが、どこの誰だ?俺の念話が届きにくくなるだろ、気をつけてくれよ。
しばらくすると、念話を飛ばした辺りから大勢の人の声が聞こえてきた。どうやら気付いたらしく、どこから聞こえてきたのかを探しているのだろう。
魔力は……まだいけるな。
念話の方向を調整。こちら側から発していると気付くように……クソ、こういう微調整をすると魔力を余分に消耗するな……ヨシ。
『助けて!ここです!助けて!』
ちょっと遠いし、何かワンワンとうるさい音もし出したのでわかりづらいが、人族の声がチラホラ聞こえる。『どっちだ?』『こっちか?』といった感じっぽい。
耳を澄ますとガサガサと植え込みをさらうような音。恐らくここの周囲に生えている植え込みの中からしたのでは?と考えたのだろうか。方向性は悪くないが、もう少し……クソ、意識が飛びそうだ。
方角調整、距離調整、音の指向性を調整……声色を……行くぞ!
『助けて!助けて!』
僅か数秒。
「誰か倒れてるぞ!」
「どこだ?」
「こっちだ!」
そんな声が聞こえてきたところで、俺は気絶した。
ここは、どこだ?
気付いたところは、これまた何とも表現のしづらい場所だった。
全体的に白っぽい部屋で、少女がベッドに寝かされているのだが、何だか細い棒?で枠を作ったようなベッド。周囲を布で囲まれているので外がどうなっているのかはわからない。俺の角度からかろうじて見える床は材質不明。布の外側のどこかに明かりがあるらしく、室内はそれほど暗くは無いが、眠っている少女をそっとしておく程度には暗い。
俺はそんなベッドのそばにある棚の上に置かれているらしく、角度的に少女の様子はよく見えないが、呼吸も落ち着いているようだ。どうやら俺の賭けは成功し、誰かに助けられたようだ。やれやれ。あとはどうにかして三将が待っているあの部屋に戻ればいいのだが、どうやれば戻れるのだろうか?
と思ったら、ドタバタと布の向こう側で人が走る足音が聞こえ、バタンと扉の開く音、そしてシャッと引かれる布、飛び込んでくる男女二人。
「志帆ちゃん!」
「志帆!」
女の方は確か……最初に俺を捕まえた小娘の母親だったか。男の方は父親かな。
そしてその後ろから白衣を着た数名がついてきて、
「今は眠っていますので、お静かに」
「志帆は?!大丈「大丈夫です、こちらへ」
そのまま外へ出て行った。多分あの白衣を着てる連中は治癒術師か、薬師か、そんなところだろうな。
それからしばらくして、小娘が目を覚まし、両親が大騒ぎして、治癒術師が諫め、と言うやりとりの後、治療院を出ることに。
例の魔道車に乗り込むと父親が操作をするらしく、手許で忙しなく何かをした後に走り出した。
ううむ……これはなんとも。走る魔道車の中で状況整理をしようか。
昨夜、道を走っている魔道車を見たときに、色々な大きさの物が走っているのは確認した。それらが人を運ぶ用、荷物を運ぶ用といった具合に目的用途別の形状をしているのだろうというのも、多分当たりだろう。
実際、少女と共に乗った魔道車には結構な数の人間が乗っていて、荷物を乗せるスペースはほとんど無かったように思う。アレは乗合馬車のような物だと考えれば合点がいくので、そこまではよい。魔王の城下町でも乗合馬車は運行されていて、庶民の足として活躍していた。城下町は広いからな。
では、今乗っているコレは?
外から見た限り、これが魔道車であることは間違いない。馬も繋がれていないのに自走する時点で確定だ。
ではこれは乗り合い馬車のような物?違うだろう。どう見てもあの男がこの魔道車を操っている。と言うことは……あの男、父親かと思ったが違うようだな。
貴族や裕福な商人などが自分たち専用の馬車を持つのは決して珍しいことではない。が、その御者を務めるのは専属の御者か、執事といった使用人で、一家の主たる者が御者をすると言うことはほぼ無い。
余程の緊急時、つまり魔王軍が攻めてきたので逃げ出すとか、借金で夜逃げするとか、そう言う事態なら話は別だが。
もちろん、今ここに魔王がいるのだから緊急事態と言えば緊急事態かも知れんが、今のところ俺がいきなりこの家族を害する予定はない。何年か経って力を取り戻したら真っ先に引き裂いてやるつもりだがな。
つまりどういうことなのかというと、やはり俺の予想したとおり、この少女の家は人族の中でも相当な金持ちか、貴族のどちらかだと言うことが確定したと言うこと。
これは……俺が魔王であることを知られた場合には厄介だが、隠し通すことが出来ればまたとない好機だ。この国が大陸のどの辺りにある国なのかは依然として不明だが、この技術力、人族の国の中でも影響力は小さくないはず。それどころかむしろ、魔族にその情報を決して漏らしてはならぬと徹底的に隠し通しているほどの国だろう。




