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 だが、安心は出来ない。

 これはあくまでも何の根拠も無い俺の推測でしかない。それこそ、実はこの近くに魔道車の生産工場があって、そこらを走り回っているのは各種タイプの走行テスト中。ある程度の性能確認が出来たら一気に戦線へ投入するための量産体制を整えつつある、とかだったら?うーん、考察するための材料が少なすぎてなんとも言えんな。


「あ、バス来た」


 突然、トトトッと少女が走り出し、明るく輝く柱のそばへ。するとそこへ大きな魔道車がやって来て止まると、プシューッと言う音と共に壁の一部が開いた。そしてその開いたところに少女が入っていき、どこから取り出したのか小さな板を四角い枠にあてると、ピッという音が鳴る。何が起きたのかさっぱりな中、少女が中に並んでいた椅子に座ると、ファン!と言う音がして魔道車が動き出した。まさか魔道車に乗れるとは思わなかった。

 ゴソゴソと座る位置を整えた少女が俺をぐいと持ち上げて顔を外に向けてくれた。


「シロちゃん、見える?」


 シロちゃんというのが俺の呼び名か?不本意だが、変えてくれというのを伝えるわけにも行かないし、と何が見えるのかと意識を向け、もう何度目になるかわからないくらいの驚きがそこにあった。

 ガラスだ。わずかに俺の姿が反射しているが、外の様子が見えるガラス。この子供の部屋にもガラスはあったが間近で見るのはこれが初めて。オマケにとんでもなくでかいし、表面の滑らかさと来たら、どうだ。

 魔王軍の補給部隊に、どんなところでもすぐに兵の休憩所や作業小屋を建てる者達がいて重宝していた。そんな彼らのまとめ役がなかなかの腕前で、カンナがけをシュッとしただけで板の表面が滑らかになるのを見て感心したものだが、それと同等、イヤひょっとしたらそれ以上かも知れない滑らかさ。ガラスでこの滑らかさはすごいの一言だ。

 これだけの技術力があるならばと、色々と恐ろしいことばかり想像してしまう。ガラス、謎の街灯、魔道車……どれもこれも軍事転用したらどのような兵器が生まれるかわかったものではない技術ばかりだ。

 そんな恐ろしい想像をしていたら結構な時間が経っていたらしく、外もさらに暗くなってきたようだが、外の街灯、魔道車の先頭にある明かりのせいで外はあまり暗く見えず、魔道車の中も明かりがあるおかげで全く暗さを感じない。


「そろそろ降りなきゃ」


 少女がそう言って近くの壁にある何かに触れると、ピンポーンと言う音がしてほのかに赤く光る。音と光りか……これまた俺の知識にない技術だなと感心していたら魔道車が止まり、プシューという音と共に魔道車の前方の壁が開き、少女が降りていく。

 乗り降りに使う扉の開閉も自動か。扉を自動開閉する技術は魔族領でも取り組んでいたが、大がかりな機構を組み込まねばならない上に、あんな速さで開閉など出来なかった。

 改めて恐ろしい技術の一端を見せられたと思っていたら、少女が立ち止まり、ベンチへ座った。

 先ほどまでいたところとは違う公園のようだが、時間帯的な意味でも人気はない。


「はあ……寒い」


 ブルッと震えて俺をギュッと抱きしめるが、ぬいぐるみだからな。体温とかないからな。と言うか、本来なら魔王に人間が抱きつくなど許されない行為だからな。半径五メートル以内に近づいた時点で爪で引き裂かれるのが普通だからな。今だけ特別だぞ。




「……なんだよお、ホントおかしいよね?」


 何の話だかさっぱりわからんことをこの少女は俺に語り続ける。俺の両脇を持って真正面に据えて話しているから、仕方なく聞いているけど話している内容のほとんどが意味不明。聞いたこともない単語だらけなんだよ。しょーがっこーって何?さんすー?しゅくだい?ぷりんと?全くわからない。

 話しっぷりから判断すると、人間社会固有の何かの制度のようだが、こんな年端もいかないような子供が不満を覚える制度とは……ロクな制度じゃないのだろう。せいぜい為政者の無能っぷりを嘆きながら時間をかけて同志を募り、国王やら貴族を打ち倒すクーデターでも起こすしか解決手段はない。

 年齢的なことを考慮すると最低でも十年は準備にかかりそうだが、成し遂げれば国の英雄、失敗すれば縛り首。人生の目標にするにはちょっと壮大だが、やりがいのある目標だと思うぞ。そうやって転覆した国家がこの凄まじいほどの技術を継承するかというと微妙なライン。魔王としてもそうやってクーデターが起きて新しく興された国というのは潰しやすくて助かるので、是非とも頑張って欲しい。

 気をつけなければならないのは、国家転覆の混乱に乗じて、これらの技術を有した人材が他国に流れることくらいか。とは言え、これだけの技術だ。ある程度の職人が流れたとしても、元通りの生産能力を有するには十年やそこらではない年数が必要なはず。

 新たな技術の流入に沸き立ち、とりあえず少し導入してみましたなんて軍は、相当な練度でも無い限り浮き足立つことも多い。そんなところに諜報部隊を潜り込ませて技術を盗み出しつつ、内部崩壊を誘うという策をとってもいいな。


「ふわああ……寒っ」


 欠伸をしてブルッと震えているが、寒いならさっさと帰ればいいのにな。

 俺としては色々と手に入れた情報を三将と共有し、今後について検討を進めておきたいし、魔力の訓練もしたい。

 ズビ、と鼻をすすったところで、少女がうつらうつらとし出し、俺はストンと地面に落とされた。

 魔王の扱い、ひどくね?

 慌てて拾い上げられたが、そのままぎゅうと抱きしめられ……気付くと少女はそのままベンチに横になって寝息を立てていた。俺は抱きつかれたままあお向けで空を見ている姿勢。周囲の明かりのせいか、星はあまり見えない夜空……いや、結構雲が出ているみたいだな。

 すぐ横の規則正しい音を聞きながら、情報の整理にかかる。いきなり外に出るのは想定外だったが、想像以上に色々な情報を得られたので、自分の中で整理しないと三将に話すときにも支離滅裂になりそうだ。あいつらも魔道車とかの話を聞いたら、相当驚いて騒ぎ、俺もそれに引っ張られそうだからな。

 魔道車の材質は恐らく鉄……何だが、魔力を通しやすくするために銀か魔銀を混ぜているかもな。あとは車輪だが、見た目ではその材質は全くわからなかったな。出来れば触れて確認したかったが。

 かれこれ一時間かそこらは経っただろうか。こうして改めて整理すると、情報量の割に革新できる情報が少ないことに気付く。自由に調べることが出来なかったから仕方ないとしつつ、機会があれば探るべき情報は何だろうかを整理する。

 と、空から白いものが舞ってきた。ほう、この辺りは雪が降るのか。

 魔族領は南の砂漠地帯、西の火山地帯、北の豪雪地帯というふうに極端な土地だった一方で、人族の方は比較的穏やかな土地が多かったと思う。

 砂漠や火山もあったが、魔族領のそれに比べればドラゴンとトカゲほどの差があったと記憶している。

 そして、人族の土地で雪が降る地帯はかなり限られていたはず。ここに雪が降ってきたと言うことは、恐らく北部の方で……うーむ、限られてるとは言え、結構な数の国があったはず。魔族領から遠い国も多く、間諜を送り込んでいないというかまだ送り込めるほどになっていない国も多かったから、ここがどこなのか特定するのはまだ無理だな。

 そんなことを考えているうちに降ってくる雪の量は増えてきて、俺の視界が白く塞がれていく。仕方ないよね。手足が動かせないから顔の上に降り積もった雪を払うことも出来ないんだし。

 さて、視界が真っ白になってしまったので、周囲の観察をやめて……と思ったら、少女の寝息が苦しげに変わってきた。

 はて……?

 もしかして、コイツ、体調を崩したのか?

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