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 どんな魔法なのかは想像がつかないが、下手をすると魔王軍の小隊くらいは一撃で吹き飛ばされてしまう程かも知れない。仮にそれほどの威力があるとして……やはり恐ろしい想像しか出来ない。

 転生の秘術を発動したとき、確かに勇者の聖剣で胸を貫かれてはいたが、勇者も満身創痍、かなりの深手を負わせていた。キュバリルとフォルトゥがここにいるというのがよくわからないが、それでもグレモロクは残っていたし、三将の配下も多数残っており、人間の軍勢よりも優勢だった。つまり、魔王を倒したと喜んだのも束の間、すぐに魔王軍がなだれ込んで勇者を害したのだろう。その結果、勇者が代替わりしたのだ、この少女に。分身を作り出し、その分身を魔法少女に変身させ、恐ろしい威力の魔法をポンポン放てるような、恐ろしい才能の持ち主に。

 転生し、勇者を、人族を滅ぼさんと誓うその矢先にコレである。全く前途多難だが、コレを乗り越えてこそ魔王なのだと、改めて気持ちを引き締める。




 しばらくすると、部屋の外から少女を呼んでいるらしい声が聞こえ、「はーい」と魔道具をベッドの上に放るとドアへ向かい、壁にある何かをパチンと操作した。同時に室内が暗くなる。


(な、何だっ……今のはっ?!)


 暗くなった部屋から少女が出て行き、ドアがパタンと閉じられたが、またしても何が何だか、と言う状況だ。


『ま、魔王様……今のはっ……』

『う……うむ……と、とりあえず少し待て。色々とありすぎて……な』

『そ、そうですね』

『わ、我も何が起こったのか少し考えたいところです』


 まず、少女がこの部屋に入ってきたときも壁に触れてパチン、と何かを動かしていたような気がする。そしてそれから一時間程度か。改めて見ると、窓の外はすっかり暗くなっている。少女が入ってきたときはあまり暗さを感じなかったので、この一時間程度で日が沈んだのだろう。そして、出るときに何かを操作したらその暗さに気付いたと言うことは、室内を明るくしていたと言うこと……まさかと思うが、室内を明るく照らす魔道具だと?

 照明の魔道具は比較的安価であるため、魔王場でも各所に設置していたが、安価と言ってもそれ一つで軽く金貨が積まれるレベルだ。そして、使うときにも所定の呪文を唱えて魔力を注ぐ必要があり、どの程度の明るさでどのくらい維持されるかは注いだ魔力によって変わる。

 室内の現在の暗さと先ほどまでの明るさから言って、魔道具に込められていた魔力は相当な量。おそらく魔王軍の魔術師隊に入った新人の全力くらいだろう。照明の魔道具を子供の部屋に気軽に設置するほどの財力と、その魔道具に気軽に大量の魔力を注ぎ込める才能。軽く目眩がするなんてレベルでは無い。しかも、何をどうしたかわからないが、一瞬でその明かりを消してみせるとは。


『むむむ……一つ一つ確認して行こう。まずは……』

『その魔力……もしや魔王様では?』

『え?』


 誰?どこ?


『魔王様、ここです』

『えーと……グレモロク、か?』

『はい。魔王様の忠実なる三将が一人、グレモロクにございます』


 何コレ、どうなってんの?ベッドの上から聞こえてくるんですけど。




『グレモロクで間違いないのだな?』

『はいっ。魔王様に生涯の忠誠を誓ったグレモロクにございます』

『その姿は……』

『その……自分の姿が見えないので何とも答えようが無いのですが……体を動かすことも出来ず、視界も真上を見ているだけでして』

『そうか……少し待て』

『はい』


 一体何が起きたらこうなるんだと……誰に問い詰めればいいんだ?念話の発信源は間違いなくあの少女の振り回していた魔道具。だが、その魔道具からグレモロクの声が聞こえる。俺とキュバリル、フォラトゥが縫いぐるみになっていると言うだけでもずいぶんな状況なのだが、グレモロクが謎の魔道具……


『何が何だかさっぱりわからんが、ここには俺とキュバリル、フォラトゥ、そしてグレモロクがいる』

『はっ』

『ここに』

『魔王様のために』

『ここは一体どこなのか……どの位時間が経過しているのか……うーむ……』

『『『……』』』


 よし。


『三人ともいいか?』

『はい』

『何なりと』

『魔王様の意のままに』

『現状についてだ。状況を正確に把握し、今後に向けて考えていかねばならぬのだが……まず、グレモロク』

『はっ』

『お前、俺と勇者が戦っていたとき、一番離れていたよな?』

『はい。申し訳ございません、私がもう少し近くで『良い。お前は魔術師で武器を振るう戦士では無いからな。後衛を務める者が前衛と距離を取ることに何の問題があるというのだ』

『勿体なきお言葉』

『それでだ。俺が転生の秘術を発動させたとき、多分お前は何かを見たのではないか?』

『ふむ……何かと申されましても……そうですな。見たままを申し上げます』

『うむ』


 いちいち回りくどい言い回しのグレモロクの話を簡潔にまとめるとこんな感じだった。

 俺が勇者の聖剣に胸を貫かれたあのとき、グレモロクはいち早く勇者に向けて攻撃魔法を放つべく杖を掲げた。そして、同時に俺が転生の秘術を発動させたことにも気付いていたが、それはそれとして攻撃すべく魔力を込めたのだが、俺の発動させた転生の秘術が理解しがたい動きをしたという。そもそも転生の秘術はその発動のための魔法陣を体内に構築する。いや、正確には事前に魔道具で魔法陣を構成し、体内に埋め込んでおくのだ。だからこそ死の淵にあっても魔法が発動出来るのだ。そして、その埋め込む魔法陣の構築にはグレモロクにも手伝ってもらっていたので、その魔法陣はよく覚えていたという。だが、俺の体内で発動したはずの魔法が、どういうわけか……辺り一帯を巻き込んで発動したという。


『一瞬、魔王様の体が輝き、その直後、どこまでの広さになるか判然としませんが、周囲の軍勢も全て巻き込むほどの大きさの魔法陣が地面に現れました』

『周囲を巻き込むとなると、直径数百メートルは下らないな』

『私の位置からは全容は見えませんでしたが、そのくらいはあったかと』


 そんな大きさの魔法陣となると、儀式魔法と呼ばれるような大規模な魔法となるのだが、転生の秘術はそんな大がかりな魔法では無い。実際、俺が探し求めた文献にも発動した際の記録は残っていて、術者が普通に死亡し、周囲に特に変化は見られなかったと記述されていた。もちろん、術者がどこの誰に転生したかは不明だが。

 それはさておき、俺の発動させた転生の秘術の場合だが、魔法陣の中心部から光の柱が立ち上がり、あっという間に広がって飲み込まれ、グレモロクの意識は混濁したという。


『その後、気付いたらゆらゆらと揺れていました』

『揺れていた?』

『はい。周囲には紐で吊されたよくわからない姿のものが並んでいまして』


 コレはまた違うパターンだな。

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