紅炎
1人
独り
ひとり
人離
俺はいつだって独りだった。
母さんだけが、俺を人間扱いしてくれた。
でも、その人はもういない。
俺はまた、この世界でたった1人
異郷に放り込まれたようにただ孤独に
人を恐れ、外界に震えながら
それでも生きるため、アザミのように棘を纏って、世界を突っぱねてきた。
きっと、コイツもそうだ。
けど、俺には母さんがいた。
コイツは親にさえ捨てられた。
…なら、もし親が醜いとコイツを投げ捨てたのなら、俺はコイツと生きていこう。
視線という名の空気と常識という呪いで塗りたくられた この世界で、図太く、のうのうと生きてやろう。
母が美しいと言ってくれた目
通行人が眉間に皺を寄せる目
隣人が後ろから向けてくる目
司教が「悪魔だ」と破門した目
この呪われた、美しく尊い、真紅の目
*
シェルヴは、黒煙の臭いで目を覚ました。
彼は地獄にいた。空気の全てが害悪な煙に覆われ、景色の全ては嵐のような炎に包まれていた。シェルヴは咳き込みながら、混乱する頭を必死に冷まして天使を呼んだ。
「あぁぁあー! あー!」
天使は布団にくるまって恐怖に泣き叫んでいた。
シェルヴは少しの火傷を感じることもなく、炎の中を跳ね飛びながら、子どもの元へ向かった。
炎は部屋全体を覆い尽くし、シェルヴは逃げ場を探して血眼になった。煙の中で目を開け続けていたせいで、彼の右目は充血して、虹彩も白眼も全てが真っ赤に染まった。シェルヴは死に物狂いで窓辺へ走り、ガラスを蹴り割り、子どもを投げ落とした。子どもはカフェの布製の屋根の上に寝ながら泣き続ける。
そして、全てが炎と化した。
*
シェルヴは炎の中で寝ぼけていた。
熱さも、苦しさも、痛みも、何も感じなかった。
全身が焼けているはずなのに、まるで綿に包まれているかのように心地よく、目を少し開けて、ぼんやりとしていた。
かなり経ってから、シェルヴは自分が崩れて洞窟のようになった壁の中にいることを知った。
どんどん正気に戻り、彼は泣いた。
自分が生きていることが分かったからだった。
しかしすぐにまた血の気が引いた。
アイツがいない
(どこだ?どこだ?
いない!いない!いない!いない!)
彼は手を傷つけながら、乱暴に瓦礫を押し除けていった。全身を火傷していたが、その痛みはこの時、無いも同じだった。シェルヴは潰れかけた喉で叫んだ。
「ヌームテェェェ!!」