目にうつるもの
シェルヴは小さな部屋の一室に帰宅した。
部屋には特に物はなく、人が生活しているとは到底思えないほど殺伐としている。
男はキッチンに立って湯を沸かすと、ホットジンジャーを作って子どもに渡した。子どもは両手で受け取り、少し男を見ると、そのままゴクゴク飲み始めた。シェルヴは自分の分も入れて一緒に飲んだ。
2人は特に話すこともなく、ただ飲んで、ぼーっとして、風呂に入って寝た。男は自分の布団を貸して子どもを寝かせ、自分は床を布団にしたが、しばらくして子どもはシェルヴの所へ歩いてきた。結局2人はそのまま一緒に眠った。
それから2人は、朝が来たら共に起き、散歩に行き、一緒に食べて、一つのベッドで眠った。
*
天使には、真実が見える。
悪魔にも、真実が見える。
子どもは、隣で眠る男の美しい顔を眺めた。
男はゆっくりと目を開き、真っ赤な瞳で射抜くように天使を見つめた。
「久しいな」
天使は無邪気な顔で悪魔を見つめた。
「俺も、昔はお前だった。」
「俺も、昔はお前のように純白の羽を持っていた。美しい瞳、透き通るような透明な心、風の香りにさえ心躍らせ、この世界の全てが美しかった。そうだ…見るもの全てが…」
悪魔は泣いていた。
すると子どもが何か言いながら、そのおぼつかない3本指でそっと悪魔の涙を拭うように頬をポンポンと触った。
「ゔーぅー あー。あー。」
天使の瞳は透き通っていたが、その中に静かな炎があるのを、悪魔は確かに見た。
それから2人は、近隣が投げつけたゴミなどでボロボロになりつつある家の玄関を何とかしようと話し合った。
*
誰かが子守唄を歌っている。
温かく、哀しく、しかし力強い声。
女神は、優しく天使を抱き上げ、語りかける。
「あなたは悪魔の子ですって。
皆、きっと天使を知らないのね。
赤い目の何が悪いの?
あなたの目は、とても綺麗よ。
誰がどう思うかなんて、部屋の隅の埃だわ。
気にしなければ、無いのと同じ。
人生を決めるのは神でも他人でも母さんでも
ない、あなた自身。
世界を作る神はあなたの中にあるのよ。
シェルヴ、図太く生きなさい。」