降臨
その日は新月だった。
「この子は月が好きなのか」
シスターがそう思うほど、天使はいつも月を眺めて、観察の絵日記を書いていた。(文字は書けないので、それなりに上手いと言える絵だけがある)
だが、この日は輝く月はどこにもない。
空はただ闇に包まれていた。
子どもたちも、動物も、草花も、全てのものが暗闇に怯え、月の光を静かに待ち望んでいた。
次の日の朝、珍しく天使は外に出たがった。
この日は曇りで、雨が降りそうだったので、シスターは子どもたちを制止した。
「今日は雨が降るかもしれません。
みんな風邪をひかないように、お部屋の中で遊びましょうね。」
皆がトボトボ中へ戻る時、1人の子が裸足のまま外に飛び出した。
「あっ!」
幸いにも、天使は足元が濡れただけで済んだ。
青年が傘をさして中に入れてくれたからだった。
青年は20歳前後にも、30代くらいにも見えた。
見る角度や声で、印象が変わりそうな感じだった。
青年は少し天使を見ると、すぐにシスターの方に向き直り、少し低い、しかし穏やかな声で告げた。
「この子を引き取ります。」
男の瞳は静かに燃える炎のようだった。
決して熱く煌めくような、あからさまに情熱的なものではない。ただ音もなく、妖しくうごめいている。
シスターは、門に飾った柊のリースを見つめ、十字架を潰れるほど握りしめた。
「…中へどうぞ。」