孤児院
「下界に降りるにあたり、あなたの保護者を探しなさい。その保護者を親とし、共に暮らしなさい。」
天使が人間界に降りる数日前に、神がそう命じた。
あと1時間で朝日が昇る頃、天使は赤ん坊の姿で
土の中から出てきた。
とりあえず、生まれることは成功した。
次は、親を探さなければならない。
でも、同じ天使同士は面白くないな…。
せっかくなら、人間の親にしよう。
天使は、言葉を持たない奇怪な幼児の姿で生まれてきた。右目はなく、左目だけが異様に大きく開き、左手の指は3本しかない。おまけに右頬に大きな痣があった。人間は天使を「奇形児」と呼んで、憐れみやら恐れやら、とにかく負の感情を投げつけてきた。
土から生まれたから、当然親などいるはずはないのだが、良心的な人間が1人、例の負の感情を露わにしながら天使を抱き上げ、孤児院に届けた。
5件目に訪れた孤児院は「あらゆる」子どもを救うことを目標にしていた。良識のありそうなシスターが自然な顔で天使を預かることを決めた。
シスターは、奇形児に向かって毎日話しかけてきた。
「子どもは皆、神からの贈り物です。
貴方も神に愛された子。
この身体も神の思し召しなのです。
命を大切にね。」
*
天使はシスターの心の中を見たが、この人の言葉は常に本物だった。孤児院には十数人の子どもがいて、皆最初は天使を怖がったが、天使が1人で遊んでいると、2人ほどは話しかけてきて、一緒に遊ぶようになった。
天使は声は出すが、言葉を持たなかったので、
嬉しいときは「キャッキャ」と笑い、物を頼むときは腕を引っ張って「うー」とか唸り声を出した。
奇妙な子どもが孤児院に来て、6日目の夜。
シスターはいつも通り祭壇に祈りを捧げていた。
その日は下弦の月が出ていた。
他の子と一緒に眠っていた天使は目を覚まして、窓を見に行った。
月は雲に隠れたり、また現れたりして落ち着きがない。天使は、部屋に飾られた十字架を残された片方の目でずっと見ていた。