プロローグ
この人は、脚の部分に腕が生えている。
だからいつも逆立ちでしか歩けない。
身体の左側は胸が2つあり、右側にはない。この人には、本来、性別を決めるはずの器官がどこにもなかった。
人々はこの生き物を恐れて、とうとう迫害して、しまいに殺してしまった。見たことがなかったことと、この生き物に対する知識がなかったので、怖くなって、それで殺すことにした。消してしまえば、もうこれに悩まされることも、恐怖に慄くこともない。自分たちの歴史と威厳は守られた。
この気味の悪い、ヘンテコな生き物は、自分が忌み嫌われ、殺されたことについては哀しいとは思わなかった。
だが、このままでは人類は、自分たちが見たことのないものを、美醜や価値の有無を問わず破壊してしまうのではないかと考えた。
生き物は、人類が知る由もない崇高な精神領域からやってきた、いわゆる「天使」だった。
天使たちは、己の美の価値観を他人に押し付けた上、天使の姿をあろうことか自分たち人間の姿に似せて描いたことに辟易していた。下界のことだし、放っておけば良いと考えたが、どうにもスッキリしない。そこで、1人の天使がもう一度、人間界に降り、人間に慈悲の機会を与えることにした。