6.
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そんなギーベリに、少女は住む場所と仕事を紹介してやった。
甦ったものにはよくあることだから顔が利くのだと、そう言って麓の街での生活を勧めた。
「色々とありがとう」
そう言ってギーベリは去って行った。
笑いもせずに見送った少女のもとに、彼のその後が知らされたのは、十日も経たないうちのことだった。
数日おきに神殿に食糧などを届けに来る馴染みの男から聞かされた。
今度の【棺の死者】は《《もたなかった》》らしい、と。
「せっかく甦ったというのにな。まあ、自分で選んだ結末なら仕方ないか。俺たちがとやかくいう筋合いのもんでもないからな」
男の口調は決して揶揄するようなものではなかった。『他人』という言葉で距離をとっておきながら、まるで自分の身に起きたことのように沈痛な面持ちをのぞかせた。
少女はそれを聞いても、眉の一つも動かさず、「そうか」と応えるだけだった。
ひとりになった神殿で少女は、誰かが眠る棺に寄りかかりそっと目を閉じた。
「この神殿は、棺たちは、そして棺守たる私は本当に必要なのだろうか」
それは少女にとって、初めて口にした言葉ではなかった。
心の中で、鈴のような声色で、今まで何度も思い言葉へとかえた。
それでも少女はそこから立ち去ることはしなかった。
白い指で、さらさらと棺を撫でる。
その途中コツンと音がした。
「ああ、傷をつけてはいけないな」
そう言って、少女は棺ではなく、己の手の指を愛おしそうに撫でた。
そこには金色の指輪が輝いていた。