第4章「戦い」
僕の眼前に広がるのは真っ白の兵士たちだった。黒の甲冑と似ているが、形状が違う。白く美しい装甲は日の光を反射し美しいが、戦場の中では不気味だ。まだ自分の中で答えが出ていないので両者の間に降り立ってみたもののどうしたものか。
「少し話がしたいです」
白い兵士たちに向かってそう告げてみたが、無反応だ。緊張感があたりを包むのを感じ生唾を飲み込んだ。
「魔王様!危険です」
ククルが後方から叫んでいる。その声に反応するかのように白い兵士たちは一斉に銃口を僕に向け攻撃を開始した。黒の甲冑の扱い方は頭に入っているが、銃など打たれたことはない。驚きと恐怖で反射的に目をつむってしまった。鈍くこもった金属音が鳴り響く。銃声が止んだところで恐る恐る目を開けると、黒の甲冑から光沢のある黒い布のような金属がマントのように広がり、眼前に広がっていた。打たれた無数の弾がマントにめり込んでいる。
こめかみ辺りから冷や汗が首まで流れるのを感じた。
「なぜ僕を狙うんですか⁉」
返事は帰ってこない。兵士達は揃った動作で銃の装填を行っている。
(このままではまた)
黒の甲冑の戦い方は覚えさせられた。弾をつかんだ状態で静止しているマントを左右後方に引き、掴んだ球を兵士達に向かって投げるように返した。返された弾は浅い傷しかつけなかったが、隙を作るには十分だった。
(中に人は入っているのか?兵士の情報が欲しい)
眼前の兵士たちの情報が次々と目の前に表示されていく。
(一番奥の以外は全部機械だ……なら)
全力で走ると、あまりの速度に一瞬動揺したが、兵士たちが立て直す前に何とかしないといけない。速度は速く視界は目まぐるしく動くが、驚くほど操れる。金属のマントの形を薄く・鋭くとがらせ装甲の隙間を突いてゆく。
もちろん初めての戦闘だが、驚くほど冷静でいられた。これも身体をいじられた影響だろう。隙間を突かれた操り糸が切れたようにその場に崩れてゆく。慣れた作業のように兵士たちの間を縫い次々と倒していった。十数体ほどの兵士の間を駆け抜け、少し離れた岩の上の最後の一体を残し、ブレーキをかけた。追いかけるように土煙が舞い上がり魔人たちの視界を奪った。
辺りは静まり返り、自分の心臓の音が激しく聞こえる。授業で短距離を走った後に似ているが、体が疲れたというよりも、軽い興奮と緊張が抜けていく感覚だった。
「魔王様!魔王様!」
ククルの不安が混じった呼び声がする。
「……はい!」
魔王ではないが、僕を心配してくれる声に、つい返事をしてしまった。土煙が風に流され視界が広がっていく。魔人たちの目の前には倒れた白の兵士達が転がっていた。
「魔王様……良かった」
先ほどの緊張感が抜け、安堵した様子で涙を流しているククルが一心にこちらを見ていた。ほかの魔人たちからも喜びと安心が見て取れる。だがまだ終わっていない。魔人たちも緊張の糸は緩めていなかった。
今まで、動いていなかった最後の兵士がゆっくりと、動き始めていた。
兵士は小高い岩の上に指揮官のように戦場を見渡すように立っている。着ているのは白い甲冑ではあるが、ほかの兵士と形状が違う。
(この兵士は機械じゃない)
いつでも動ける体制をとり、マントを防御態勢に変形させた。
「あなたは言葉がわかりますか?」
兵士は上から僕を観察するように眺めていた。
「ああ」
男であることは分かったが、少し機械的な声だ。
「今日は魔王を見ることが出来て良かったよ、また会おう」
「え?」
突如兵士の立っていた岩が浮かび始めた。徐々に岩のように見えた擬態が剥がれ落ち、兵士の甲冑と同じ白い装甲が露になってゆく。もはや手の届かない上空まで上がった時にそれが小型の飛行機械だったことが分かった。
「待って!」
飛行機械から噴射される風に舞い上げられた土煙で視界が奪われていたが、声を振り絞り僕は叫んでいた。だがエンジン音のような音にかき消され聞こえるはずもなかった。
結局のところ身を守るために応戦しただけだった。なぜ僕が狙われるのか、なぜ白い兵士からも魔王と呼ばれるのか、何も分からずじまいだった。深くため息をつき、兵士が飛んで行った方向をただ茫然と眺めていた。
「魔王様!」
精神的に疲れ果て、頭が真っ白になっていた僕は驚き、振り返った。ククリを先頭に魔人たちがこちらに向かってきている。こう見ると涙を流したり笑顔だったり、外見は違うけど表情やしぐさは僕らと何ら変わらない。まだ謎は多いけど、しばらく魔人たちと行動を共にしてみよう。彼らは僕に親切にしてくれているのは確かだし、何せ僕のために涙を流してくれている。でも…
「アキラって呼んでもらえませんかー?」