あっけない
ここは神の愛と憎しみを一心に受ける国。
勇者、僧侶、魔術師などなどとても強力な職業を授けてくれる反面、年に1回神の怒りが国に降り注ぐのだ。
神の怒りは凄まじく、その度に生贄を捧げ被害を最小限に抑えている。
生贄は国民からランダムで選ばれ、最終的に王の意思で決まり、勇者等の職業が選ばれることは無い。
生贄は生贄の崖という場所に放り投げられ、その高さからして生きている者は居ない。
転がる死体の数は定かではないが1万はゆうに超えているだろう。
そんな中にまた1つの死体ができた。
その人物は勇者の幼なじみで勇者についていけるように影でずっと努力をし、勇者と肩を並べるような立派な回復術師になっていた。
しかし、その努力も虚しくぽっと出の女神神官に立場も尊厳も勇者も奪われ、ついには命も奪われ、こうして生贄の崖にいる。
いつからか。回復術師の死体が黒く変色していた。
そのまま溶けて崖の死体全体に広がり、黒い液体に触れた死体も黒く変色し溶けていく。
あっという間に崖の死体は無くなり、黒い液体が広がっている。
突然黒い液体はうねり、ひとつに纏まっていく。
黒い液体は人の形をかたどっていき、髪を下ろした回復術師の形になる。
黒い液体が動きを止めたと同時に色が反転し、真っ白な、しかし瞳は赤く、腕は増殖と減少を繰り返しており、脚は2つに裂けたりしている。
その白いものは崖を登り国を見つめる。
時間帯は夜であり、その白い姿は月光に反射し輝いていた。
白いものの体が溶けだし、黒い液体になり、国へ向かっていく。
門番は大きな欠伸をし、通り過ぎる黒い液体に気づかない。
黒い液体は豪華な家の扉の前に着き、様子を伺っている。
黒い液体は隙間から家の中に入り、ベッドで寝ている人物に近づいていく。
ベッドには2人居た。勇者と女神神官である。
黒い液体は勇者の口から体内に入り込み、勇者を音もなく殺す。
勇者とは各種類の様々な耐性を持っているのだが、そんな耐性を無視して体内に入ってみせたのだ。
死んだはずの勇者はのそりと体を動かす。
そのまま女神神官の顔を殴る。
「イギッ!…ぇなに?どうしたの勇者…?」
殴る。
「グギィッ!…なんで、たすけ」
首を絞め声を出せないようにする。
「かひゅっ、ゆ、しゃ」
殴る。
「ひゃ」
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
女神神官の顔は潰れ、誰も女神神官とは認識できないだろう。
黒い液体は勇者の体から吹き出し、勇者と女神神官を飲み込んだ。
そのまま黒い液体は周りの家を襲い、飲み込んでいく。
勇者という強力な職業を取り込んだ黒い液体はとてつもない力を得ていた。
この国いる勇者等は1人ではない。
その者達を飲み込むため、黒い液体は侵食を始める。