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喜劇友を待つ男  作者: 美祢林太郎
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5 待合せ

5 待合せ

 ナインは電話で普通だと言っていたが、あいつに普通はありえなかった。太っているか痩せているかのどちらかしか見たことがないのだから。順番から言うと、今度は太っている番だ。今度はどの程度太っているかが問題だ。少なくとも100㎏はいっているだろう。だけど、学生の頃のような若さはないはずだから、体全体が弛んできているかもしれない。10年前の太っていた時も、学生時代のような張りはなかった。

そんなに太っていたら会ってもわからないかもしれない。100㎏を超して太っていたら顔も大きくなっているだろうし、目や鼻も顔全体の肉の中に埋没しているだろう。顔が変わっていたら本当にわからない。前回会った時の痩せたイメージが頭にこびり付いて、学生の頃の太ったイメージが消されている。会ってもあいつのことがわからないからと言って、おれのせいじゃない。あいつが痩せたり太ったりするのが悪いんだ。

 それにあいつは服装が毎回変わっている。昔の名残がまったくない。まあ、ファッションも時代のはやりすたりがあるから学生時代と同じというわけにはいかないが、色の好みというものはあるだろう。学生の頃は地味な紺色の服を毎日のように着ていたのに、急に派手な色を着だしたこともあるし、前回はシックなモスグリーンを着ていた。痩せてモスグリーンだったから余計末期癌に思ったんだ。もっと元気のいい色を着てくれば、そう思わなかったかもしれない。いや、元気な色を着ていても、おれに悟られないようにしていると思ったかもしれない。おれの頭の中は癌一色になっていたから。

 そう言えば、前回は野球帽を被ってきた。今回はまた違った帽子を被ってくるかもしれない。帽子を被るようになったのは、髪が薄くなったせいか。もしかすると今回ははげているかもしれない。はげているにしても、てっぺんだけがはげているとか、全体が薄くなっているとか。かつらを被ってくるかもしれないな。すると髪の色だってわからない。茶髪は普通だとして、まさか金色にしてくることはないだろう。会社員だからな。

ひょっとして、あいつおれをおちょくるために、体重を増やしたり減らしたりしているのか。まさかそんな器用なこと、ナインにできるわけがないよ。

 友だちを驚かすために、体重を倍にしたり半分にする奴がいたら凄いな。女だったら振った男に仕返しのために痩せることはあるかもしれないけど。本当は美人だったんですよ、別れて惜しくなったでしょう、って。これはくだらんラブストーリーだな。でも、男同士はないだろう。ましてや、ただの悪ふざけで。

 ああっ、向こうから太った奴がくる。あいつかもしれないな。わかるような場所に立っておかなきゃ。間違っても恥ずかしくない程度の愛想笑いを浮かべて。おお、相手もニコニコ笑っているぞ。やっぱり結構太ったな。首がなくなっているじゃないか。少し背が伸びたような気もするが。でも、愛想がいいところは昔のままだ。歩きながらスマホをいじったりするんじゃないよ。真っすぐ前を見て歩かなきゃ危ないだろう。

 やっぱり早くきて正解だったじゃないか。あいつも暇だったんだ。

おれが右手を上げようとした瞬間、相手はおれに目をそらして通り過ぎていった。おれは上げようとした手を所在無げにゆっくり下していった。

間違いでした。ナインにしては目が大きいと思ったんだ。だけど、どうしてあいつ最初はニコニコしていたんだ。あいつも愛想笑いなのか。おれ営業職だから普段から愛想いいんだけど、あいつも営業なのか。それとも、おれの後ろに誰かいたの。誰もいなかったよな。無駄に愛想を振りまくんじゃないよ。間違うじゃないか。

時計は40分だ。約束時間までまだ20分もあるぞ。


つづく

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