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喜劇友を待つ男  作者: 美祢林太郎
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3 10年前

3 10年前

 それから5年後におれの勤務地である地方都市で会った。するとあっけにとられた。10年前の学生の頃のように丸々と太っていたのだ。体重を聞くと、学生時代と同じ90㎏だと言う。とりあえず、90㎏に同意するしかない。ナインは以前のナインに戻った。5年前の痩せたナインは、いったいどこにいったんだ。

学生時代の体重に戻ったのに、そこには20歳前後の若者の肌のしなやかさはなく、少し脂ぎっているようにみえた。男も30を過ぎると脂ぎってくるのかもしれないと、自分の顔の肌艶が気になった。首筋を手のひらでそっと撫でたが、油なのか汗なのかよくわからない液体が滲んでいた。

夏で暑かったが、それにしてもワイシャツの裾の一部をスラックスから出すナインが少しだらしなくみえた。学生の頃のナインはそれなりにこざっぱりとしていた。話していると、口で息をし、暑さで苦しそうだった。

前回のこともあり、彼女はできたのかと聞くと、めんどくさそうに、「彼女なんかいないよ」、と答えるので、それ以上は詮索しなかった。おれにも彼女がいるわけではないので、深入りしても楽しい話題にはならないと思ったからだ。

かれは服に金がかかってしかたがないと言った。極端に痩せたり太ったりでは、途中の段階もあるのでしかたがないだろうと思った。

それにしても、太って元に戻ったのに、学生時代のかれとはどこかが違って見える。そりゃあ、卒業して10年も経つのだから変わって当たり前なのだが、うまくは言えないが、なにかが違っていたのだ。服装が違う。確かに学生時代のようなラフな格好はしていないから当然と言えば当然である。髪型が違う。学生時代は相撲部の選手のように短髪にしていた。いまは普通の長さだ。だが、そんなこととも違うような。言葉、そう言えば、あいつ学生の頃は故郷の方言が混ざっていたのに、東京暮らしが長いせいか、標準語になっている。

大学を卒業する時に都庁の試験を受けて落ち、翌年も受けて落ち、結局マンション販売の会社に就職した。そこを1年でやめて、カーディーラーの仕事をし、そこも向いていないということで、食料品の卸会社に入社した。今も食料品屋かと聞くと、そうだよと答えるが、よくよく話を聞くと、食料品屋は食料品屋でも前とは違う会社らしい。扱っている商品が肉から魚に代わっていたからだ。あいつのことだから引き抜かれたわけではないだろうけど、深く詮索しないことにする。授業以外は一日中部屋でゴロゴロしていた学生の頃を考えると、無職にならずに東京で10年生きてきただけでも立派なものだ。

大学を卒業して10年も経つのだから、大学時代と違っていて不思議ではない。はたから見ると、おれだって大学時代とはずいぶん変わっているのかもしれない。ナインの場合は、途中で激やせした時期をはさんでいるので、余計違和感を持っているだけなのだろう。

ナインは回転鮨で50皿を食べた。気持ちのいい食べっぷりだ。やっぱりナインはこうでなくっちゃあ。


つづく


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