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喜劇友を待つ男  作者: 美祢林太郎
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1 ナイン

1 ナイン

 東京に来た。東京に来るたびに大学時代の友人と会うのが恒例となっている。仰々しく恒例とは言ってみたが、所詮今度で4度目に過ぎない。我々は大学を卒業してかれこれ20年になるが、かれと東京で最後に会ったのは5年前である。私は地方の会社に勤め、営業で全国を飛び回っているが、担当エリアではないので東京に来ることはめったにない。

かれは大学を卒業して東京で就職するようなタイプには思えなかったが、ずるずると東京に残った。ずるずるといった表現が適切であるのは、かれが東京に残ることに強い意志が働いたわけではなく、引っ越すのが面倒なだけだったからだ。

 東京駅に隣接した地下鉄のある改札口の前で18時に待ち合わせをし、それから適当なところに行って食事をしながら飲むことにしている。あいつもおれも酒が強いわけではないが、久しぶりに会う男二人が喫茶店で珈琲を飲みながら昔話に花を咲かせるのも様にならない。乾杯の生ビール一杯と銚子2本で十分である。

今は15時半だ。約束にはまだ早いのはわかっていたが、何かをするには中途半端な時間だった。以前ならばすかさずパチンコ屋に入っていたが、何がきっかけかわからないが、最近パチンコ屋に行かなくなった。

もしかすると、暇を持て余しているのはおれだけではなく、かれも同じかもしれない。するとかれも早く来るかもしれないから、30分早いが待合せ場所に行くことにした。かれはまだ来ていなかった。そんなにうまくことが運ぶわけがない。でも、数分後に来るかもしれない。もしすぐ来なくても、ゆっくりと東京の行きかう人々を観察するのも悪くはない。人間観察としゃれ込むことにしよう。人それぞれに物語がある。

 ところで、待合せに際して、おれには少々不安なことがあった。それは5年ぶりに会う友だちがすぐにわかるかということだった。30年ぶりならいざ知らず、5年程度だったらちょっと大げさに過ぎるのではないかと思う向きがあるかもしれないが、そうでもない理由があるのだ。

友だちは学生時代太っていた。かれの話では、物心ついて大学生になるまでずっと太っていたらしい。まあ、太っている人は子供の頃からというのが定番である。そして太ったまま人生を終えるのが普通ではなかろうか。

大学生の頃は身長が165㎝なのに、体重が90㎏くらいはあった。この90㎏はあくまで推定値である。そして少なく見積もった値でもあった。どうみても100㎏はあったはずである。だが、相撲部員や柔道部員でもない男子学生の体重が三桁もあるのはそう自慢できる話ではない。かれは体重を尋ねてもいつもニコニコしてごまかすだけで、教えてはくれなかった。大学時代は90㎏という数値が同級生の間での了解事項であった。

いや、体重の正確な値なんかどうでもよかった。我々も大学生なので、小・中学生のように太っていることをからかうことはなかった。我々の付き合いには、体型などどうでもいいことだったのだ。

 誰が命名したか知らないが、かれは大学入学直後、90㎏の体重からナインティと呼ばれるようになっていた。しかし、呼びにくかったのか、いつしか語呂の良いナインと呼ばれるようになり、かれを知るみんながナインと呼ぶようになった。本人もこのニックネームを気に入ったようで、嫌な顔をすることはなかった。多分、小学生の頃は月並みにデブとかブタとか呼ばれていたはずだ。それよりははるかに響きの良い言葉ではないか。

太っていることでナインはキャンパスの中でも目立ち、一目瞭然でかれとわかった。どこでかれのニックネームを知ったのかわからないが、いつしか教職員もナインと呼ぶようになった。太っている以外、見かけ、成績、運動などすべての面において取り立てて目立つ要素はなかったのに、それなりに知られていた。


つづく


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