14 福笑い
14 福笑い
唐突だけど、正直に告白しなければならない。本当はおまえの顔が思い出せないんだ。
卒業後に痩せたり太ったりしたからといっておまえのせいにしてきたが、本当はおまえのせいなんかじゃない。おれに原因があるんだ。大学にいた頃からおまえの顔を覚えたことがないんだ。そのことをおれも大学生の頃は気づいていなかった。そのことがわかったのは、つい最近なんだ。
ボケたわけじゃない。おれが人一倍記憶力がいいこと、おまえも知っているじゃないか。いまでもかわらないぜ。だけど、顔の記憶だけはできないんだ。
最近、そういう疾患があることを知った。結構いるらしいんだ。顔を覚えられないからといって、顔のパーツは人一倍覚えているぜ。おまえの右の眉と左の眉はつながっていた。だけど、そんなものは剃ってしまえばわからなくなる。
目は細かった。入学当初は眼鏡だったのに、途中でコンタクトにかえたよな。そんな細い目にコンタクトが入るのかって、って聞いたことがあるよな。あれはたしか大学二年生の頃、思い出してきたよ。場所は地下鉄東西線の電車が竹橋駅を出た頃だった。おれたちはドアのそばに立って、いつものようにとりとめもない話をしていたんだ。
髪型、いまは剥げているかもしれないが、学生の頃はスポーツ刈りという短髪だった。だけど髪型なんていくらでも変えられる。
口は小さくて、唇は厚く、上唇の右の方に小さな黒子があった。目立たないけどね。
これだけ詳細に顔のパーツはわかっていても、全体のイメージが再構築できないんだ。まるで目隠しをして福笑いをしているようにね。
伸長165㎝体重90㎏。これだけはよく覚えているんだ。数字は強いんだ。だけど、さっき会った奴だってそのくらいだったのに違っていた。このくらいの奴はいっぱいいるしな。それに身長はともかく、体重は簡単に変動するものな。おまえがそれを実証したよ。
顔もわからないのに、どうしてこれまで再会できたのかって。それは問題ない。ナインがおれを見つけてくれたからね。最初にあいつがおれに「久しぶり」って声をかけるんだ。そうすれば、あとはすべてうまくいくだろう。そう、なにも不自然なことはない。だから俺は待ち合わせにいつも早く行くんだ。
さっきだって、ムラコシさんとうまくやりとりをしたじゃないか。
大切なのは決して自分から名前を切り出さないことだ。それさえ守ればうまくいくんだ。今日はサワダさんと会った時にへまをしたけどね。
今日だってきっとうまくいくんだ。あいつがおれに「おくれてごめん」と話しかけてくれさえすれば。
おれのことを理解するとすれば、ナインが顔に白い仮面を付けて歩いている光景をイメージすればいい。相手の顔がわからなくても、その人がわからないわけではなく、その人を認識することはできる。
これだけは言っておくけど、疾患名を探り当てて、それでおれの全部を理解したつもりにならない方がいい。分類できたことで安心するのは、頭の悪い人間のすることだから。あくまでおれはおれなんだ。
つづく




