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ロケット人間 5

記録日:2187年5月2日(日)


あれから彼が僕のもとに来ることはなかった。おそらく彼の父親が他の病院に行くよう強制したのだろう。僕は彼のことが気になってしかたがないというのに。


気になってしまうと止まらないのが僕なので、すぐに助手たちに彼の所在と現状を調べるよう指示した。報告は迅速に、そして随時させていたので翌日には僕のもとに彼の情報が集まってきた。


彼は自宅謹慎、という名の軟禁状態にあるらしい。どうやら彼の両親はまだ彼の寿命については話していないらしく(彼の自宅に盗聴器を仕掛けさせたのは内緒だ)わけもわからないまま病院に連れていかれては「良くなる」「大丈夫」という中身のない台詞を彼は延々聞かされ、「安静に」「何もしなくていい」と言われながら行動を制限されている。彼にとって過保護を通り越した、もはや拷問に近い生活となっているようだ。


僕はこの環境で彼にどういった変化が起きているのか気になってしかたがなかった。しかたがなかったので、僕は彼に会いに行くことにした。もちろん、両親には秘密でね。



「やあ、久しぶりだね。」

「え!?先生!?」

僕は彼が次に行くであろう病院に忍び込み、彼がひとりで検査を受ける瞬間を伺っていた。まあ、僕の名刺をひらりと院長の前に落とすだけで簡単に彼とふたりきりになれるのだが職権乱用はいけないよね。

「なんで先生がここに?」

「君のことが気になってね。どうだい調子は?」

というわけで、僕は病院の白衣と三流医の名札を失敬して彼と検査室にいるわけだ。ちなみに三流医は僕の行きつけのマッサージ店で居眠り中。だから三流なんだ。



「先生って超人専門の先生だよね?超人ってすごい力を持った人のことでしょ?」

「超人と名付けたのは僕じゃあないがね。まあ、間違ってはいないよ。」

「あのさ、他にも俺みたいな人っていた?」

「ああ、いたよ。ものすごく希少な存在だから知らないのも当然だね。」

「どんな人がいたの?」

「そうだね、体温がものすごく高い人とか、息をしなくても生きられる人、身体がぐにゃぐにゃな人とかがいるよ。」

「なんかあんまりすごくないな、、、」

「そうかね?僕はどの人もすごいと思うよ。常人では不可能なことができる、それだけでもすごいよ。」

「違うじゃん、もっとこう世界を救うヒーロー的な、かっこよくて強い!みんなの憧れの人!みたいなさー。」

「んー、残念だが一人も知らないね。」

「じゃあ、俺が最初のヒーロー超人だ!はっはあ!ああ、でも仲間とかも欲しいなあ、先生なんかいい感じの超人っていない?」

「元気そうでなによりだ。ただ、君にヒーローは似合わないかな。」

「なんでさ!先生だって知ってるでしょう?俺のパワー、スピード、体力、これから俺はもっと強くなる気がするんだ。不眠不休でも戦えるよ。シュシュッ!どう?パンチ見えた?」

「わかったわかった、君はずいぶんと体力が余っていらしいね。でも、その力も期限付きだ。ご両親がなぜ病院に行かせるのかわかるかね?」




「じゃあ、俺はすぐ死ぬってこと?」

「まだわからない。説明したように君の身体が力と引き換えに寿命を減らしているとは言ったが、細胞がなんらかの奇跡で自ら寿命を延ばす現象が起きるかもしれない。」

「わからないことばっかじゃん。」

「まあね。だから君に話したんだ。わからないことばかりの自分の身体をどうしたいかってね。」

「どうするって?どういうこと?」

「今後の君の人生、どう生きてくんだってことだよ。このまま一生を病院観光ツアーに使うのか、世界中が注目したスター選手として名鑑に名を連ねるか。それとも君のいうヒーローになって燃え尽きるか、、、」

「病院だけはいやだ!退屈だし、何やっても結果なんてでないしね。でも親の顔もあるしなあ、しばらく付き合って、あとは自由にさせてもらうよ。」

「ほう、じゃあ輝ける死の道を歩むと?」

「先生って堅苦しい言葉が好きだよね。」

「おっと、職業癖かな。」

「そうだなー、死ぬってのがよくわからないんだ。そんなことより死ぬまで好きなことしたいってのが本音かな。」

「んっふっふ、そうか。なら今すぐそうしよう。」

「なんか面白そうなこと考えてるでしょ先生。」

「んっふっふ、これからの君の人生を考えたんだが、これが面白くなりそうでね。」

「でしょー!?まあ楽しみにしててよ、俺はこの命尽きるまで自分の好きなことをするからさ!」



数週間ぶりの彼は以前よりもテンションが高かった。おそらく自由にできない鬱憤がストレスになって脳内麻薬でも作っていたんじゃないだろうか。

それはさておき、今後、彼は僕のところに定期健診しに来てくれると言っていた。ただ、自分の余命を知りに来るのではなく、自分の身体の変化を知りに来るという。本当に「死」に対して楽観的、というより彼自身「死なない」と本気で思っているのかも知れない。もしかしたら彼には死のブレーキがないのかも、、、

さて、次回の健診予定日はいつだったかな。そうそう、彼には内緒だが実は彼に監視チームをつけた。彼の詳細なデータをとるには健診だけじゃ足りないからね。ただでさえ超人と呼ばれる人々は少ないのだ、これを逃す僕じゃないさ。彼と同じく、僕も死ぬまで好きなことをしていたい性分たちでね。


僕の好きなことかい?超人たちの研究なんかじゃない。彼らの不思議で奇妙な人生を横から眺めることさ。


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