ロケット人間 4
問診日:2187年4月14日(土)
氏名(仮名):トマソン・ローマン(17歳)
出身地:アメリカ合衆国
症状:超順応細胞による細胞分裂過多
病歴:なし
アレルギー:なし
治療経過
僕は患者の両親に彼の特異な体質とその病状について説明した
以下、問診録音より一部抜粋、記録する
「人類は過酷な環境に自身を進化させるのではなく、科学や化学、医学を発展し、機械を発明し、身を守るように繁栄してきました。そうすることで人間という個体は進化を止め、弱体化してきたのが現状です。いまでこそ遺伝子操作で病気にならないという身体になりましたが、人類の進化はいまやこの文明なくして成り立たないほど脆弱になっています。」
「息子はその逆で進化した人間ということですか?」
「その通りです。環境に適応するだけでなく、自身をその環境以上に強く、たくましくその身体を作り変えています。提供してもらった細胞の実験では熱をくわえても凍らせても劇薬に浸しても破壊することはできませんでした。彼の身体は今も進化を続け、最終的には核爆弾すら効かない身体になっていくでしょう。」
「わお、まるで映画やコミックのスーパーヒーローみたいだ、、、」
「いえ、どちらかと言うと宇宙ロケットですね。」
「宇宙ロケット?全然強そうじゃないんですけど、、、」
「なんと説明すればいいか考えていたのですが、これが一番わかりやすいかなと思いましてね。」
「全くわかりません、、、」
「おや、宇宙旅行に行ったことはありません?」
「ロケットは日々進化し、今や超軽量で低燃費、高耐熱、高耐久。そしてエンジンは世の中のどんな乗り物よりも莫大なパワーを誇っています。しかし、今のロケット技術があるのは大昔から培ってきた失敗と成功の積み重ねがあったからです。まさに人類最高峰の技術の結晶ですね。」
「、、、、、」
「そして、彼の身体も同じように失敗と成功によって作られています。」
「どうゆうことですか?」
「細胞実験時のことです。細胞が外部からの攻撃を受けたときに突如として細胞が分裂を始めたんです。細胞が破壊されるよりも早く、その攻撃に適応する新たな細胞を分裂しながら作っていきました。分裂中に死滅した細胞もありますが、生き残った細胞はさらに分裂スピードを増し、最終的には攻撃を無力化する細胞ができたところで分裂はとまりました。」
「あー、、、、つまり骨が折れて治ったとき、折れたところが強くなる、、、みたいな感じですか?」
「その通りです。そして彼の場合はそれを命がけでおこなってしまっている。細胞分裂に限界があるのはご存知ですか?」
「!?」
「おわかりいただけたようですね。多くの細胞は分裂数に限界があり、分裂が止まる=死を意味します。それが俗に言う寿命、大往生なんていう言葉もありますが、彼は身体が強くなるたびに寿命を短くしているのです。僕がロケットと比喩したのはですね、失敗を糧に強くなるという意味もありますが、その失敗と成功の果てにあるのが宇宙という名の死の世界だからです。」
「ま、待ってください!もしかしたら、細胞分裂が無限にできるように進化することだってあるんですよね?それか、、、、この子が普通の子のようにいきていけるように先生が治してくれるとか、、、何かいい方法があるんですよね、、、、、?」
「お母さま、実験で生き残った細胞に新たな攻撃を与え続けたところ、細胞はある程度分裂を繰り返すと活動が止まりました。彼から提供してもらった細胞すべてで試しましたがそのすべてが同じ結果でした。そして、治すことは現時点では不可能と思われます。なぜなら、この奇跡ともいえる現象のメカニズムを解読するには彼の寿命が足りないからです。」
「そんな、、、ああ、、、、」
「まだ、実験が不完全ということは?もっと細胞実験をしたっていいじゃないか!解決するまでくりかえせばいい!」
「お父様、落ち着いてください。これ以上は人体実験を行うしかありませんが、僕の見解では寿命をさらに縮めるだけです。」
「それ以外に方法はないのか!!この藪医者が!あんたこの界隈じゃ腕利きの名医じゃないのか!!」
「お父様、とりあえず座って話をしましょう。ここからは今後の方針の話ですが、、、」
「何が今後だくそ野郎!こいつはな、でかくなったらオリンピックにでるのが夢なんだ!俺は金メダルだってとれる才能があると思ってる!それでも毎日練習して努力もしてる!それが、なんだ!?ロケットみたいに死ぬだと!?ふざけるな!!」
「あなたやめて!!」
診療報告
担当医、左頬に軽度の打撲
患者は自宅で安静生活
今後の診療は未定