相撲に関連する作品(相撲小説「金の玉」「四神会する場所」シリーズは、別途でまとめています)
若き日の稀勢の里、そして白鵬。15年前、大力士を予感させる二人の力士の出現に興奮しました。
稀勢の里の新入幕の場所が終わった時に書いた文章です。
同じ年に既に幕内力士となっていて順調に出世していた白鵬。
この時、19歳だった白鵬と、18歳だった稀勢の里。
大力士を予感させる二人の力士の出現に興奮し、その時点での二人の未来を予想した文章です。
過去の大力士との比較もしております。
以下2019年1月17日追記
稀勢の里が引退し、相撲界もいよいよ世代交代か、と言われています。
が、名前があがっている力士の年齢をみると、貴景勝、阿武咲は、22歳。 既に26歳になっている御嶽海、北勝冨士も若手と称されています。
それだけ幕内力士の平均年齢が、かつてに比べて高年齢化しているわけですが、いずれにしても白鵬、稀勢の里の若年昇進と比較すれば、大きな隔たりがあります。
今年は、白鵬、稀勢の里が新入幕となった年からちょうど十五年経つわけですが、大横綱になる可能性がかなり高いと言えるような若手力士は出現していない、と思います。
平成16年九州場所を終わって思うこと 04.12.10記
白鵬と稀勢の 里。そして琴欧州
1.
新入幕の時点で、
「この力士は歴史に残る大横綱になる可能性がかなり高い」
という期待をもたせた力士というと、
昭和35年初場所に入幕した大鵬(新入幕 時(番付発表)、 19歳7ヶ月)
昭和47年初場所に入幕した北の湖(18歳7ヶ月)、
そして平成2年夏場所に 入幕した貴乃花 (貴花田:17歳8ヶ月)
ここ半世紀では、この3人くらいであろうと思う。
そしてこの3人は、その期待通り、戦後4大力士の中の3人と言い得るだけの力士になった。
4大力士のもうひとり、千代の富士は20歳2ヶ月で新入幕を果たし、この3人ほどではないにしろスピード出世だったが、20歳代前半の内は、中堅幕内力士の域を出ることはなく、25歳になって、急に強くなった晩成型の力士であり、また新入幕の時点で、横 綱になる、と予想した人が、もしいたとしても、それは少数派であったろう。
さて、大鵬と北の湖の間が12年。
北の湖と貴乃花の間が18年。
平均したら 15年周期となる。
そして貴乃花が入幕を果してから14年後の今年、またそういう期待を抱かせる力士が出現した。
白鵬(19歳1ヶ月)と、稀勢の里(18歳3ヶ月)である。
大鵬と同じ新入幕の場所での12勝という勝星を、大鵬より半年若くして、あげて、その後も順調に出世している白鵬。
ちなみに大鵬は 新入幕から 12勝、7,11、小結 11、関脇12、 関脇13勝。
6場所で大関に昇進した。
入幕後、4場所経過した白鵬のここまでは 、12、11、 8、12。
4場所経過時点で、通算勝ち星で、大鵬を2勝リード。
が、白鵬の不運は、これだけの勝ち星をあげながら、来場所、ようやく三役昇進という、その番付運のなさだ 。
が、いずれにしても、ここまでは、優勝32回を成しえた大鵬と並ぶ、あるいは それを上回ろうかという出世振りだ。
一方、稀勢の里は、史上2番目の若さで、関取昇進、入幕を果たし、ともに1位の記録をもつ貴乃花も、ともに3位の記録をもつ北の湖も成しえなかった新入幕勝ち越しを、先の新入幕である九州場所に果した(9勝)。
貴乃花、北の湖が各々、22回、24回、の優勝回数を誇ることを考えれば、稀勢の里は優勝回数20回以上の力士の昇進ペースということになる。
ほぼ15年周期で誕生する、大力士を期待することができる力士が出現したわけだが、今、すごいと思うのは そういう期待をもつことができる力士が2人出現した。ということだ。
こういう時代は、少なくとも私の記憶にはない。
では、それぞれが、優勝30回、20回以上できるか、となれば、19歳、20歳で初優勝して 以後10年間、年間5回平均で、この2人が優勝していけば、合計して50回という数字になるので、不可能な数字ではない。
が、ふたりを通算しての優勝回数ということになれば、
大鵬32、柏戸5、 計37。
北の湖24、輪島14、計38。
千代の富士 31、隆の里4、計35。
貴乃花22、曙11、計33。
これをみると、強豪力士とその最大のライバル2人の通算優勝回数は、おしなべ て30回代である。
白鵬と稀勢の里は、その若さからいって、これを上回る可能性は充分にある、とは思うが、やはり30回代 におさまるか、多くても40回をさほど超えない数字。どちらかが、20回代で 、もうひとりが10回代 というのが、現時点では最も穏当な予想のように思う。
さて、特に白鵬という力士には驚かされる。稀勢の里は、三段目時代に
「16歳でここまで昇進している力士がいるのか」と思い、その時点から注目していた。
また琴欧州については、 そのアマ時代の実績もあり、入門した時点で、当時の十両力士、幕下力士と遜色のない稽古をしている、との相撲雑誌の記事を読み、 新弟子時代から注目していた。
が、白鵬については、下の頃は全く注目していなかった。関取 昇進の間際になって、
「この若さでここまで昇進している」
というのに、ようやく気付いた。
ホームページの中で、平成19年初場所の番付を予想しているが、この予想は 白鵬が十両に昇進するその場所の前に行った。
白鵬については、それまで注目していなかったこともあり、
「たまにいる、 ここまでの出世は早かったけれど・・・」の力士かな、と思ったが、
18歳での関取昇進というのは、 やはり出色のことなので、小結に予想しておいた。
また、その後、平成21年初場所の番付も予想したが、そこでは23歳になっている白鵬を横綱で、 優勝回数は、その時点で6回、と予想した。
これは、先の19年初場所の予想で 、平成16年以降 栃東、千代大海、若の里の3人で7回、優勝する、と予想していたので、それを引き継いだ予想としたため、朝青龍、萩原(稀勢の里)、琴欧州にも優勝を割り振ると、それ以上カウントすることができなかったのだ。
(だが、予想はそのままにしておく。ある程度長期の予想をしたのに、その時々の状況でころころ変えるのはみっともないし、個人的には、千代大海、栃東、若の里、琴光喜の世代に頑張ってもらいたい、 と思っており、この世代から横綱が誕生して欲しいし、上記の回数程度の優勝をしてほしいと思っているからだ。もちろん上回る分にはいくらでも構わない)。
私は、相撲を見始めてから、既に40年以上経つ。少年時代から、この予想行為というのは、ほとんど、自分の頭の中だけではあるが、よくやっていた。
では、どの程度当たっただろう 。
先ほど、貴乃花は、新入幕の時点で、大横綱となることを期待され、その通り大横綱になった、と書いた。
この書き方であれば、たしかに予想は当たった。
しかし、新入幕の 時点で、私は貴乃花については、大鵬の優勝32回。双葉山と大鵬の全勝優勝8回。大鵬の6場所連続優勝。 双葉山の69連勝。それら、全ての史上最高記録を更新する力士になる、と予想していた。
はずれた。
父親の貴乃花については、やはり当時の史上最年少で、十両、幕内と昇進していったが、体が小さかったこともあり、将来、独裁時代を作る大横綱になるとは予想しなかったが、兄、若乃花のように、好敵手を得て、二強時代の一方の立役者になると予想し、そのトータル成績では、若乃花を上回るであろうと予想した。
はずれた。
昭和58年から59年にかけて、大乃国、小錦という200Kgを超える力士 、北尾という身長199cm の力士が幕内に登場してきた時代にはどういう予想をしたか。
この3人は、新入幕の時点で、大乃国、小錦は20歳。北尾は21歳になっており、大鵬級の横綱になるとは思わなかったが、それに準ずる横綱は生まれる、と思った。
具体的には 北尾がそうなると思っていた。
柏戸(188cm)、大鵬(187cm)以降、身長の面でこの2人を上回る横綱は登場しなかった。
唯一、ほぼ同身長だった二代目若乃花は体重がこの2人より軽かった。
北尾は、20数年ぶりに登場した体格の面での柏戸、大鵬級の横綱であり、身長の面では、超柏戸、大鵬級だった。
尚、大乃国、小錦についても、体重はもちろん、超々柏戸、大鵬級であるし、身長はほぼ等しい。( 大乃国189cm、小錦187cm。 尚、小錦については土俵生活の晩年には、185cmあるいはそれ以下になっていたと思うが、新入幕当時は この身長で表記されていたと記憶する。過大な体重により、徐々に骨が磨り減っていったのかな、と推測する。)
さて、新国技館開館(昭和60年初場所)以降は、千代の富士は、その年に30歳になることもあり、 もう優勝回数を重ねることはできず、前記3人を中心とする、超大型力士が君臨する時代がすぐにやってくると予想していた。
優勝回数については、北尾20回、小錦10~15回。大乃国 5~10回。3人合わせて40回。 このあたりを予想していたように記憶する。
事実はどうであったか、北尾(双羽黒)0、大乃国2、小錦3、3人合わせて 5回である。
35回は、どこに いってしまったのか。
千代の富士は、新国技館開館以降21回の優勝を重ね、私が「大関に昇進すれば上出来」と予想していた 保志(北勝海)、旭富士が各々 8回、4回優勝している。合わせて33回。こ の3人が、減ってしまった35回 のそのほとんどを肩代わりしている。
すなわち、結局、超大型力士が君臨する時代はやってこなかったのだ。
以上の経験則により、「私の予想ははずれる」という結論が導き出される。
新入幕の時点で、
「この力士は歴史に残る大横綱になる可能性がかなり高い」
と思われた力士。
大鵬以前では、千代の山(新入幕は昭和20年)、武蔵山(新入幕は昭和4年)があげられるかと思う。
ほぼ15年周期で出現という頻度はやっぱりその通りである。
この両力士が、ある意味で、大鵬、北の湖、貴乃花、白鵬、稀勢の里以上であったのは、入門した時点で、その抜群の大物感により、周囲から「未来の横綱」と見られていた、ということである。
大鵬以下の5力士については、例えば、北の湖、貴乃花については、入門した時点で、将来は横綱になる、 と予想した識者がおられたかもしれない。
しかし、その声は、武蔵山、千代の山の入門の時点ほど、 大きなものではなかった、と推測する。
さて、その武蔵山と千代の山だが、入門後、周囲の期待通り順調に出世して、 武蔵山は、21歳 という当時の史上最年少で初優勝した。
千代の山は、終戦後の最初の場所である 、昭和20年秋場所、 19歳(千代の山は6月生まれ)で、新入幕となったその場所で、10戦全勝 という成績を残した
(但し、当時は優勝決定戦の制度はなく、優勝はやはり10戦全勝だった横綱の羽黒山)。
この武蔵山初優勝の時、そして千代の山の新入幕の場所が終わったとき、私がこの世にいたとして、 両力士の将来予想を行ったとしたら
「雷電、太刀山級の、いや、それを超えた史上最高の力士になる」 と後年の貴乃花の時と同様に、いささかミーハー的な予想をしたであろうと、容易に推測できる。
さて、この両力士、その後はどうなったか。
武蔵山はその後、土俵上で負傷があり(沖ツ海戦で 腕の故障であったと記憶する)、それが土俵生命の上で致命的な負傷となった。 結局、横綱にはなったが、優勝は初優勝のあと、一度も重ねることはできず、横綱昇進後の成績も歴代横綱の中でワーストに近い。
千代の山は、そのような致命的ともいえる負傷はなかったと記憶するが、やはり、横綱にはなったが、 その優勝回数は、6回に留まった。
千代の山が主として活躍したのは年3場所、 4場所の時代であったから 当時の6回は、現在で言えば10回程度に相当すると思うが、いずれにしても大横綱とよべる成績ではない。
以上により、白鵬と稀勢の里。その大横綱としての将来は決して保証されたものではない、ということも合わせて認識はすべきだが、これは勝負事である限り、当然のこと。
このふたりが、現時点では大横綱ペースで昇進を続けている、ということは充分に言い得よう。
2.
上記の文章で、今の白鵬、稀勢の里。
この2人が相俟って、大横綱ペースで昇進しているというのは 大相撲史上、類例がない。と書いた。
が、あえて、類例を探せば、 先ず、梅ノ谷(後の二代目梅ヶ谷)が、続いて常陸山が幕内に登場してきたときがそれに当たるかと思う。
梅ノ谷については、当時としては出色の若年出世であった。が、常陸山は、若い頃に数年間、出奔して、 関西相撲に身を投じていた、ということもあって、東京相撲に再入門し、幕内に昇進した時点では、ほとんど 第一人者と言いえるだけの力量を身につけていた。が、既に力士として壮年というべき年齢に達していた。
ゆえに若々しさという面で欠けるところがあった。
次に、柏戸と大鵬のペアがいる。が、柏戸については、若年出世のスピードという面で、大鵬、白鵬、稀勢の里に及ばない。
但し、この2人は、当時の相撲界にあっては、特にその身長の面で抜群の大型力士であった。
白鵬、稀勢の里は、体格においては、若年当時の柏戸、大鵬を、特に体重の面では大きく上回っているが、周囲の 力士の体位向上により、当時の柏戸、大鵬ほどの大型力士とは見られていない。
ゆえに、若年昇進、体格をトータルすれば、その大物感ぶりは互角であろうかと思う。
梅ノ谷、常陸山ペアも、柏戸、大鵬ペアの時も、幕内登場のとき、その人気は沸騰した。
さらに人気の面では、大鵬の新入幕のときから、千代の富士の初優勝のときから 、 貴乃花(貴花田)が幕内下位で初日から11連勝した場所から、ブームと呼ぶべき現象が巻き起こった。
これは、各人が第一人者として、はっきりと君臨するようになった時期に、それぞれの爆発的人気は終息した。
この若くて強い力士が、第一人者の座を目指して駆け上がっていく時期というのは、本来、相撲人気が最も大きくなる時期のはずなのだ。
現状はどうか。相撲人気は、湧き上がるどころか、数十年ぶりとでもよぶべき不人気にあえいでいる。
なぜなのか。
大鵬、千代の富士、貴乃花と、この三人を並べてみて、もうひとつ気付くことがある。
この3人は、いずれも美男。それも相当にレベルの高い、さらに、多くの若い女性に騒がれるに足るアイドル的要素も含んだ 美男であるということだ。
戦後4大力士の内3人までが、かくもレベルの高い美男であったということは、 相撲協会は確率論的にいえばほとんどありえないような僥倖に恵まれていたのか 、とも思う。
誠に失礼ながら、北の湖が、駆け上がって行った時期にはかくのごときブームは起きなかった。
付言すれば、昭和以降までさかのぼれば、5大力士としてここに加わる双葉山も、アイドル的要素というのは無いとしても(但し、現代の感覚でそう思うのであって、当時はそういう要素もあったのかもしれない)、 やはり相当にレベルの高い古典的美男だ。
白鵬、稀勢の里については、ぱっと目を惹くような美男ではないし、アイドル的要素もない。
白鵬は、最初に雑誌で見たときは、地味な風貌というのが第一印象だったのだが 、よくよく見れば、いい男、 美男だと思う。
ただ、多くの若い女性に騒がれるタイプの顔立ちではないかな、 とは思う。
稀勢の里は、美男とはいえないかもしれないが、結構、可愛い顔立ちだと思う。
さらにこのふたりについては、 仮に外面的な素材が平凡であったとしても、自信が、その意志の強さが、いわゆる内面の充実が 外面をどんどん立派に、また美しくしていく。そういうタイプなのではないか、とも思う。
いずれにしても、現状、人気は沸騰していない。
人気先行ということばがあるが、このふたりについては全く逆。実力先行。
その実力に人気が全くと言っていいほど、ともなっていない。
だが、このふたりの大成を願うのなら、それはむしろ望ましいことなのかもしれない、と思う。
3.
さて、ほぼ白鵬、稀勢の里にしぼったこの文章だが、次代の大力士の可能性ということになれば琴欧州にもふれておく必要があるかと思う。
琴欧州の将来を、白鵬、稀勢の里より下に予想したのは、ひとつはまもなく来年2月で22歳になるという、その年齢だ。
が、琴欧州は入門した時、既に20歳の直前だったのだから、これはどうしようもない。
初土俵以来の昇進のスピードという点では、ふたりをさらに上回る驚異的なものだ。
もうひとつ、琴欧州のように極端に長身で、力士としては痩身という体形について、過去に そのような体形の大力士が思い浮かばなかったということもある。
もし、類例を探せば、それこそ上記の武蔵山、千代の山が当時としては相当な長身力士であり、痩身でもあったので、それに 当たると思う。
その両力士の事跡を考慮したとき、あるいは琴欧州も、と思った わけである。
が、現在140kg台の琴欧州が例えば160kgくらいまで増量すれば、それは素晴らしく大力士型の体形になるかと思う。
また 体重が現状とほとんど変わらないままであったとしても 歴史における前例は大いに参考にすべきではあるが、絶対的なものではないはずであり、 琴欧州が新たな前例を作るという可能性はあると思う。
また、先の九州場所、白鵬との初顔合わせで、「呼び戻し」と言っても良いような下手投げで豪快に投げ飛ばしたのは、両力士が大力士となった場合には、将来、繰り返し取り上げられるであろう 初顔合わせの相撲で、このような大技で勝利したということになり、そのことを意義深いことと感じた。
未来予想という観点で主に白鵬と稀勢の里、そして琴欧州にもふれたが、
まだ24歳で、既に大横綱ペースの実績をあげている朝青龍という存在も、むろん、考えないわけにはいかない。
現在、既に将来的には白鵬が朝青龍を超えるだろう、という予想のほうがむしろ多数派のようであるが、朝青龍が今後、5年、6年、白鵬以下の若手の追随を許さず、第一人者として君臨し続けるという可能性も、もちろん否定できない。
ここに取り上げていない力士が天下を取る、あるいは天下の一翼を担う、という可能性だってもちろんある。
未来はどうなるかわからない。
ここに多く記述したような、いわば、可能性の高い王道を行く未来もよいが、 紆余曲折のある意外な未来を見てみたい、という気持ちも大きい。
最後に、私の予想ははずれるのだ。ということを、あらためて強調しておく。
白鵬は、このときの予想をはるかに超えた大横綱に。
稀勢の里は横綱にはなりましたが、予想したような大横綱にはなれなかったと言わざるを得ないでしょう。
現時点での優勝回数は、白鵬41。稀勢の里2 。
予想は大きく外れました。