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~加地愁斗(2)~

 学校で見た時は何かの間違いだと思った。


 だって、あのひなたが「アイツ」そう、藤山政に話しかけているんだ。


 あれがあかりだったらわかる。


 二人とも辛気臭い感じだからお似合いなのだ。まあ、そもそもあかりが辛気臭いと感じるのもおかしいものだ。


 あのひなたと双子なのだ。


 そう思うと、あんな感じにあかりが暗く見えるのも横にいる藤山政のせいだ。


 そうだろう。藤山がいなければあかりだってもっと明るいキャラだったはずだ。


 それに藤山も気が付いていない。ひなたとあかりは似ているんだ。外見だけじゃない。


 考え方だって似ているんだ。あかりにキャラクターを押し付けて自由を奪ったのは藤山だろう。


 そのことに藤山は気が付いていない。あんな息がつまる毎日を過ごしていたらどこかでストレスを発散させる必要だってある。だからこそ、夜に出歩いていたんだろう。


 周りはわかっていない。


 夜出歩いていたのがひなたじゃなくあかりだったからだ。


 意外そうに周りが言っていたが、俺には普通のことに思えた。


 どうして表面しか見てないんだ。俺があかりとも仲良くしていれば未来は変わったかもしれない。


 いや、きっと変わっていたはずだ。そうすれば、あかりも死ななくて済んだだろうし、ひなたも俺の横にずっといたはずだ。


 俺は未だにひなたがいきなり別れを告げた意味が解らなかった。


 授業が終わっても教室に迎えに来ない。いつもひなたが教室に呼びに来るからついその癖でつい寝たふりをしてしまった。しばらく待ってもひなたが来ないから教室を出たんだ。


 そうしたら、校門の近くでひなたが藤山に話しかけていたんだ。びっくりした。一瞬ひなたじゃなくあかりだと思ったくらいだ。それならよくある日常だ。


 だが、目の前にいるのは藤山政とあのひなただ。


 ありえない。見間違いだろう。それともこれから何かあるのかもしれない。


 ひなたと藤山は家が隣なんだ。そうだ。そうに違いない。そう、思うことにした。


「なあ、今日これからどうするんスっか?」


「はぁ?」


 ついイライラしていたのか変な声が出てしまった。


 まあ、いいか。目の前に居たのはこの高校になって俺に近寄ってきたやつだ。やつというかこいつは谷津という名前なんだ。


 これが結構紛らわしい。そして「ス」だけがちょっと変なアクセントが入いるんだ。はじめ笑いをこらえるので必死だったが、今では慣れてきた。


 というか、谷津でもこの高校に入れたことにびっくりした。


 話し方はこんなのだが、話してみて思ったのがこいつバカっぽい話し方をしているけれどバカじゃないんだ。


 まあ、勉強は出来るけれど他ができないバカではあるけれど。愛すべきバカだ。


「なんだ谷津。今日は通夜だろう」


「え?まじで愁斗さん行くんスっか。意外っス」


「お前は知らないかもしれないが、死んだ新田あかりは俺の幼馴染なんだ。そして、俺の彼女の妹だ」


 まあ、今日その彼女であるひなたに意味もわからず振られたのだがな。なんか腹が立ってきた。


「そうなんスか。じゃあ、俺っちも行くっスかね。今から行くんスよね」


 なんか無理やり「ス」を入れているようにも感じる。


 というか、気が付いたらひなたと見たらムカつく藤山政を見失っていた。どうせこれから行くのは通夜だ。会場もわかっている。まあ、いいか。


 それに行く先の寺は昔かくれんぼをしたことがある場所だ。そういえば、ひなたが昔タイムカプセルを埋めたとか言ったことがあったのを思い出した。


 俺は何を入れたんだっけ。確か当時はやっていたカードゲームのレアカードを入れた記憶がある。


 ひなたは何を入れたんだ。まあ、どうせ後で暇になるだろうからちょっと探してみるか。


 確か変な洞があった木の下に埋めたはずだ。小学生が埋めることができた深さだ。すぐに見つかるだろう。


「でも、不思議っスね。俺もこの辺りなんスけど子供のころ全然会ったことないっスよね」


 谷津がそう言ってきた。確かにこんな変なしゃべり方するヤツがいたら忘れることないわな。


 だが、あの頃4人で居たことが普通だった。あの事故がなければだ。そう言っても仕方がない。それに、その後俺は色んなヤツに出会った。


「愁斗じゃん。やっぱり来た、来た」


 寺の前で金髪の集団が固まっている。


「おお、お前らどうしたんだ?」


「そりゃ、あのアイアンエンジェルひなたの妹が亡くなったって聞いたから来たんだよ」


 変なあだなをひなたに付けたのはこいつらだ。


 俺の運転する原付の後ろに乗って騒いでいたからつけられたあだ名だ。でも、このあだ名の元になったのはひなたが言い出したんだ。


 なんかそれっぽいタイトルの小説があるとか言っていた。そんな変な小説があるんだと思った。


 内容はレディースの話しだと言う。それを聞いてこいつらがアイアンエンジェルと名付けたんだ。


「誰っスか。この人たち。この制服はガラが悪くて有名な▽▽高校じゃないっスか。拉致られるっスよ。殺されるっスよ」


 そう言って谷津はぶるぶる震えている。細面でカマキリみたいな顔をしていて、髪をつんつんにかためているが見かけだけの小心者だ。


 だから俺にべったりくっついているのだろう。こう言うヤツはいつだって寄ってくる。


 だが、そばにいると便利なのも事実だ。それに、近くに置いておけば変な悪さをしないように監視もできる。だが、今はウザい。


「お前は黙って居ろ」


 俺は谷津にそう言った。そして、中学時代のツレにこう言った。


「みんな来てくれてありがとう。とりあえず、中に入ろうか」


「ですね。俺らここに居ちゃ邪魔になりますしね」


 確かに寺の入り口で金髪の集団が陣取っていたら周囲にいい印象を与えない。それでなくても俺らは不良だと思われて嫌われているんだ。まあ、実際不良と言われたらそうなのだが。


 まず、不良という言葉がもつ印象が悪い。まあ、谷津は良くわからないが、中学時代のこのメンバーは自分たちのせいで荒れていたわけじゃない。


 みんな程度や方向性は違うけれど家庭環境が複雑だったり、親がろくでもないのだったりするのだ。


 どれだけ頑張ったって中学生に自分の周りの環境を変えることなんてできない。


 だからといって、なんでも受け入れられるというものでもない。俺らは機械じゃないんだ。心があるんだ。


 納得できないことを押し付けられたら怒りもするし、石ころのように扱われたら憤りもする。その感情をどう表現していいのかわからないんだ。それを何かにぶつけているだけだ。思いを主張しているだけだ。


 だから、こんななりをしているがみんないいヤツなんだ。ああ、谷津のことは知らないが。


 だから、俺が違う高校に行くと聞いてこいつらびっくりしたんだ。今でも連絡を取り合ってはいるが。


 寺に入る。ひなたの父親と母親がいる。挨拶にいかないといけない。だが、その近くにひなたがいないのだ。まだ、寺に来ていないのだろうか。


 まあ、ひなたのことだ。どこか勝手に時間を潰しているのだろう。俺はひなたの両親に近づいた。


「この度はご愁傷様でした」


 俺はそう言って頭を下げた。目の前にある遺影を見てびっくりした。あの笑顔。当たり前だがひなたにそっくりなのだ。


 というか、写真だけだと本当にひなたとあかりの区別がつかないのだ。動いているところを見ればすぐにわかるのに。


「愁斗くん。いつもひなたとあかりと遊んでくれてありがとう。最後にあかりの顔を見てあげて」


 そう言われて棺の中を覗く。


 一瞬ドキッとした。


 そう、ひなたに見えたからだ。目を閉じている。当たり前だがこの状態ではひなたとあかりの区別なんてつかない。


 だが、よく考えたらもう長いことあかりとは遊んでいないし、話しもしていない。学校で見かけるがあまり話すことがないのだ。


 ひなたからあかりの話しを聞くことはあるが、それくらいだ。ふいに思い出した。まだ、俺がひなたとあの藤山と楽しく笑っていた時のことだ。


 きっかけはちょっとした悪戯だった。それがあんなことになるなんて思ってもいなかったんだ。


 だって、あんなことになるなんて想像なんてできやしない。今でも意味不明だ。だが、実際それが藤山の顔に傷を作ることになったんだ。


「あんたどこに行っていたのよ?」


 その声で顔を上げる。そこに居たのはひなたと藤山だ。一緒に居る。なんでお藤山がひなたの横にいるんだよ。ふざけんなよ。


 ひなた。お前と俺は共犯だろう。なんで藤山の横に居られるんだよ。


「大丈夫っスか?顔色悪いっスよ」


 横にふらっと谷津がやってきた。だが、その声は俺には聞こえなかった。聞きたくなかった。心配なんてされるんなんて。


 俺は強くないといけないんだ。守るためにも。だが、守るものが何かもうわからなくなってきた。


 どこかに逃げ出したい。だが、こんなナリをしていても、俺にだって分別というものがある。


 通夜に参列していきなり飛び出すなんてことはしない。それに、そんなことをしたら中学時代のツレがなんて思うか。俺は皆の精神的支柱なんだ。どっしり構えていないといけないんだ。


 だが、俺の心はどこかに行きたがっていた。どこかを走りたい。そういえば、ひなたが不思議なことを言っていたな。


 走るならいつか海岸を走りたいって。この近くに海はない。そうなると遠出になる。俺はそんなふとしたことを思い出した。まだ見ぬ海を思って。


 だが、厳かに進む通夜は俺をどこにも連れて行ってくれなかった。


 道教を聞きながら胸が痛くなった。遠くにひなたがいる。その表情はどこまでも痛々しかった。


 つらそうなんだ。なんで、俺はそんな時に振られなきゃいけないんだ。なんだよ、つらいじゃないか。


 涙が流れたのはあかりが死んだことについてではない。ひなたが俺から離れて行ったことがわかったからだ。


 ひなたがつらいは見ていてわかる。だが俺にそれを言ってくれない。それに頭から離れないのだ。ひなたの笑顔が。


 そう、さっき見たひなたの笑顔。藤山を見るあのひなたの表情。俺にも見せたことがない、この場に似合わない幸せそうな顔だった。俺は自分の気持ちを制御できそうになかった。


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