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3/12

~加地愁斗(1)~

「意味がわからん」


 俺はそう言った。


 目の前には幼馴染の新田ひなたがいる。


 黒くふわっとした髪をしている。


 だが目つきはするどい。ネコの様だ。


 甘えた表情の時もあれば、いきなりツンとするときがある。


 だが、全体的にかわいい感じだ。だが、雰囲気に騙されてはいけない。こいつはほんわかしているようで実は頑固なんだ。そして、派手なことが好きだ。


 だが、派手好きなのに、不思議とそこまできつい化粧はしない。多分、化粧をすればもっと映えるはずなのだ。


 何度それを言ってもひなたはうっすらとしか化粧をしない。だから、不意に見るとあの優等生のあかりみたいに見えるのだ。双子だから仕方がないが。



 そのひなたが言ったことの意味がわからなかった。今までもわけのわからない事をいう事は多かったが、今回は雰囲気が違うのだ。


 真面目な表情をして言ってきている。だからこそ、本当に意味がわからないのだ。


「だから別れよって」


「なんでだよ」


 何が起きたのかまったく意味がわからない。


 別れる理由がわからないのだ。昨日夜に何か家で騒ぎがあったのは知っていた。朝になってひなたの妹のあかりが事故で死んだことも聞いた。


 だから、今日の夜は通夜らしい。だから、大変だろうと思って連絡を取らなかった。それが原因だというのか?だが、今までケンカしたことはあっても、別れ話になるなんてことはなかった。


 まあ、俺らはある意味共犯だ。だから一緒に居る方がいいんだ。そうだったろう。


「だって、あかりが死んだから」


「それが別れる理由なのか?」


 あかりはひなたと顔は似ているけれど、まったくの別人。


 あかりはおとなしくて何を考えているのかわからない。俺は苦手なのだ。


 ひなたと同じ顔をしている。


 おとなしいが、あの、あかりの目は何かを見透かしているように見える。それが怖いのだ。


 そんな目で見るなといいたくなる。そんな表情をひなたとおなじような顔でするなと叫びたい。まるで俺の罪を責めるように見るのだ。


 だが、何も言って来ない。それが余計に怖いのだ。


 それに、あかりは「アイツ」の横にいることが多い。それもむかつく原因だ。どうして「アイツ」なんだ。


 何度かひなたと話してみたが変わることはなかった。多分あかりもひなた同様に頑固なんだろ。そう思うことにしたのだ。いつからかわからないが。


 ひなたとの付き合いを思い出してみる。あのムカつく「アイツ」、そう藤山とひなたたちの家は隣通しだ。だから誰から見ても幼馴染だ。


 そして、俺は保育園で出会ったらしい。その時はまったく覚えていない。だが、小学校で同じクラスになってからよく遊ぶようになった。


 ここからは覚えている。小学3年生の時に事件が起きた。ジャングルジムで鬼ごっこをしていたんだ。


 藤山はトロいのに上に登りたがる。あかりは良くわかっている。上に登るのが怖いからいつも下の方にいる。


 だから鬼になりやすい。だが、鬼になっても上にあまり登れないから結局ひなたが鬼になるために近くに行く。


 子供のころからひなたとあかりの関係はそうだ。ひなたがいつも先に行って、そして、あかりの手を引いて一緒に進む。


 だから俺は正直新田あかりが事故で亡くなったと聞いて、これでひなたが解放されて楽になるんだと思っていた。


 まあ、親族が亡くなったのだからナイーブになるのはわからなくない。だからこそ何も声をかけなかったんだ。


 それって優しさだろう。


 それに、ひなたはいつだって忘れっぽい。「そんなことあったっけ?まあ、いいじゃん」とか「そんな細かいこと覚えていないよ」とか言って俺を振り回していた。


 そう、ひなたはいつだって忘れっぽい。いつだが、本当にそういう病気なんじゃないかと思ったこともある。


 それを言うと「そこまでひどくない」とキレられた。まあ、ちょっと俺も言い過ぎたと反省した。


 まあ、ちょっとだけだがな。


 ちょっとだけの反省だから俺はやっぱりあかりがいなくなってせいせいしただろうって言いそうになったんだ。


 本当にヤバかった後少しで口に出すところだった。だから、俺が声をかけないことも忘れたとか知らないで押し通そうと思ったんだ。


 ずかずかと土足で踏み入っていいものでもないだろう。


 俺は正直兄弟もいない。仲いいツレはいるけれど、こいつからバカばっかだからそんな細かいことを考えているとも思えない。


 気に入らなきゃ、暴れるし、叫ぶし、ケンカもする。それをまとめるのが俺の役目らしい。本当にめんどくさい。だが、誰かがこいつらをまとめなきゃもっとめんどうなことになる。


 まあ、そのめんどうから解放されたかったから俺は勉強をして、学力の高い学校を受験したんだ。中学時代のツレはひどく荒れているので有名な高校に大半行った。


 ただ、どの高校にもちょっと不良っぽいやつはいる。


 だが、俺の名前は俺の思いとは別に結構知れ渡っているみたいだ。まあ、髪を金髪からもうちょっと落ち着いた色に染め直すのを忘れていたというのもある。入学式は本当にひどいものだった。


「ねえ、どうしてあの金髪の狂犬がこの高校にいるんだ」


「おい、この高校も荒れるのか?」


「俺、聞いたことあるぞ。なんでも逆らったヤツを川に投げ捨てた上に石をぶつけて笑っていたって」


「いや、そんなの可愛いものだ。バックにあやしい組織がいるとか聞いたこともある」


 みんな好き放題いう。


 川に向かって石を投げたのは水切りをしていた時だ。


 たまたまその時におぼれていた子供がいたからみんなで飛び込んで助けたんだ。だが、子供が泣き叫び、俺らが子供を川に落としたと思われたのが原因だ。


 それにバックにあやしい組織がいるわけじゃない。


 多分、それは俺の親父だ。


 小さな建築会社の社長をしている親父はかなりいかつい顔をしている。


 そして従業員もがたいのいい人が多い。なんでも重いものを運ぶから体が鍛えられたという。本当なのかどうか俺もわからない。だが、一度手伝わされた時、本当につらかった。


「坊ちゃん、大丈夫ですか?」


 人相の悪いやつにそう言われたのが無性に腹が立った。


 だから余計に体を鍛えたのだ。身長もあるから余計にいかつくなった。まあ、それにこの金髪だ。教師に何かを言われるかとも思ったが意外と何も言って来ない。


 校則がどうなっているのか知らないが何も言われないのならこのままでいいのかもしれないと思った。


 そんなことはどうでもいい。


 ひなただ。


 俺だって頑張った理由の一つにひなたがこの高校に行きたいと言ったことも理由だ。


 こいつは不思議なヤツで夜一緒に遊んだりしているにもかかわらず成績がいいんだ。妹のあかりが勉強でも教えているのだろう。


 あかりはかなり成績優秀だ。確かこの高校も新入生代表挨拶をしていたからトップ合格だったのだろう。


 俺はギリギリだった。というか、危ないと思った。


 そして、もう一つ。腹立たしいことにアイツもいた。


 そう、藤山政だ。


 あいつもこの高校なんだ。あいつと関わるといい事なんてない。あいつはひなたとあかりは二人ともピュアだと思っている。


 俺のせいでひなたがおかしくなったと思っているんだ。だから、いつも喰ってかかってくる。入学式の時もそうだ。


「どうしてお前が居るんだよ」


「はあ?いちゃ悪いかよ」


 俺のことをただのバカだと思っていたのだろう。


 俺だってやる時はやる男なんだ。勉強だってやったらちゃんと成績もあがった。お前だけが苦労したなんで思うな。バカが。


 それに藤山の顔を見ていると無性に腹が立つ。あいつの左目の下にある怪我を見ると本当に嫌になる。


 そんな怪我なんてすぐ目立たなく出来るだろうが。それだけの慰謝料うちは払ったはずだ。あの怪我を見ると俺が悪いことを突きつけられているように感じる。


 だが、一度示談をしたものは蒸し返さない。だから俺は悪くない。つっぱねる。だが、突っぱね方が良くわからないんだ。


 だからケンカになる。


 どう接していいのかわからないんだ。でも、人との距離感なんてそんなものだろう。どの距離が適切なのか正解なんてありゃしない。


 あったら、今ひなたとの距離の取り方を教えてもらいたいくらいだ。


「なあ、わかるように言ってくれよ」


 目の前にいるひなたとの距離だってそうだ。


 ひなたとはずっと一緒に居る。だから、いなくなるなんて想像もしていなかった。しかも高校生になって1か月しか経っていない。なんで別れなきゃいけないんだ。


「だって、一緒にいる意味もうないじゃん」


 この理屈がわからん。


「なあ、他に好きなヤツが出来たとかならまだ理解できんだよ。なんだよ、一緒にいる意味がないから別れましょうって。何が理由なのか教えてくれよ。そうじゃなきゃ、俺納得できねえんだ」


 つい声が大きくなってしまった。周りを見渡す。


 大丈夫だ。わけのわからないことをひなたが言ったからだ。だが、ひなたはこう言ってきた。


「理由なんて言ったってわかってくれない。別れることは決定事項なの。だから受け入れて」


 そう言って、走り去って行った。


 わけがわからねえ。とりあえず、落ち着くためポケットからタバコを取り出す。ここが学校でも関係ないと思った。


 なんだかなにかもむちゃくちゃにしてやりたくなった。


 ついてない。ライターの火がつかない。


 俺はタバコを諦めて教室に戻ることに決めた。


 教室の中はものすごく辛気臭い。この空気がイヤなのだ。


 そう、同じクラスだったのだ。顔のそっくりな新田あかりとそして、あの藤山政と。


 教室に入るとすでにHR中だった。黒板に書いてあるのは通夜と告別式のことだ。


 それを見てまたさっきのひなたとのやり取りを思い出した。


 むしゃくしゃする中、俺は椅子を思い切り引いてドカッと座った。それくらいじゃ何もかわらない。ただ、誰も俺に近づいてこないだけだ。こういう時誰も声をかけてこないのは助かる。


 窓の外を見る。


 5月というのはなんでこんなに中途半端に暑いんだ。空を見ているとあの時を思い出しそうになった。俺はとりあえず眠ったフリをすることに決めた。


 だが、頭の中を占めているのはひなたのことだ。だが、どれだけ考えてもひなたがいう「別れ」の意味がわからなかった。



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