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005 新たなる力ーーー序章完結

005新たなる力



地球にいた頃の話だ。

クラスのアイドルオタと話をしようとした事がある。

ネットでもまとめサイトとかで書き込みをしようかと思ったり。

アイドルオタとは話をしたけど、なんかお互い話が通じず、ネットでは、書き込む前に諦めた。


欅◯で、ずっとセンターをしている子がいる。

少なくとも、僕が地球で死ぬまではセンターだった。

彼女のダンスが好きだった。

具体的には彼女の横の動きのダンスが好きだった。

もっと具体的には『世界には◯しかない』のMV3分8秒辺りの動き。何と言っていいのか分からないので、僕は横の動きと言っている。

腰を横、というか上に動かす、首を傾ける。

この動きはめちゃくちゃ可愛く見える。


後日、彼女がバレエをやっていたと知って、腕の上げ方が特徴的だったのも背中で上げていたからなのかと納得した。


その話が、クラスメイトには全く伝わらなかった。


よく聞くのが表現力という言葉だった。

これはアイドルに限らず他でも聞くが、これって好きな人だから『表現力』と言っているわけで、嫌いな人が同じようにやったら『キモい』『ナルシスト』『カッコつけ』とか言われるものではないだろうか。

そこまでは怖くて口に出さなかったが。


『◯に◯かれても』や『◯人セゾン』のソロパートなどは確かにすばらしい。

けれど、本当に同じMVを見たんだろうかと少し悩むぐらいには意見が合わなかった。


ともかく『KAWAII』のためには『背筋』と『柔軟性』が要ると感じた。

どう感じようと、そこにあるものは同じなのだ。

どんな感想かはそれぞれの自由。好きになるのも嫌いになるのも自由だ。


腰や首の横上垂直平面ダンスというのを、この都市で見た事がない。

なので、取り入れるかどうしようか悩んでいた。

踊り子のダンスも見たことあったが、コマの様な、フラフープ運動の様なものが主である。

おっぱいもお尻も大きかったし。


レズビアンの話を聞いてから、結構ビビっている。

ダンスにも禁忌があるんじゃないかと。

その辺は流石に奴隷たちも知らなかったし、知人に尋ねても知らなかった。

だからと言って、無いとは言い切れない。


だが、


「みんな、ちょっと見て」


僕はステップを通して踊っている三人に声を掛けた。

カミングアウトしたからか、やたらイチャイチャ踊っていて、それは仲良し百合営業として非常に良いけど、ガチなのを知っているとちょっと怖い。


「今から見せる動きを覚えて欲しい」


そんなわけで、僕は『KAWAII』に踏み出した。



「キモい」

「ご主人様、自分で思ってるほど可愛くは無いと思いますよ?」

「ダサい」


僕には表現力が足りなかった様だ。







辻吟遊詩人をして帰ろうとしていたところで呼び止められた。

むしろ遅いぐらいである。


「やあ、君、ちょっと話がしたいんだが」


シュッとした笑顔で僕に話しかけてきたのは、吟遊詩人。

身なりからして、雇われではなく流れだろう。

今まで吟遊詩人に声を掛けられなかったのがおかしかったと思う。

奇妙な歌を歌う異国人。

声を掛け難いとは思うけど、気になるはずだ。



僕と彼は食堂に入った。


「君がいつも歌っているのは、君の故郷の歌かな?」

「はいそうです。歌詞は結構変えてるけど、メロディはだいたいそのままです」

「そうか。凄いね。こう……胸に突き刺さる様だよ。君の故郷には素晴らしい音楽家がたくさんいるんだろうねぇ。

そうだ、誰か名前を教えておくれよ。私も知ってる人がいるかもしれない」


情報収集だと思う。作曲家から僕の故郷を割り出そうとか。

普通に聞けばいいのに。


「さだまさし、すぎやまこういち、キダ・タロー、田中公平、菅野よう子、とか、知りませんか?」

「うーん、どれも聞いた事ないなぁ」

「そうですか。『バスターマシン・マーチ』とか傑作ですよ」

「そうなのかい? 君が歌っている曲のどれかかな?」

「いえ。歌ったことはありません」

「こんど聴かせておくれよ」


なんだ? 口で言えばいいのか?

デンドンデンドンデンドンデンドン……



などなど、変な小競り合いはあったものの、僕自身こちらの曲の仕組みなどを聞けて、勉強になった。

彼が言うには、

「音を揃えていないのにあれだけ美しく聞こえるのは素晴らしい」

らしい。

何の事だと思ったが、『韻を踏む』というやつかも。

地球でも外国ではそういうこだわりがある国は多かった。

それに、歌詞が良いとかなんとか。姫や王子や英雄が出てこないのに恋物語が響くとかなんとか。


聞けば聞く程、僕のナガシは意外性で売れてるんだなぁと実感する。


お互い有意義な時間を過ごした。

特に、弦の話は朗報だった。

僕は商人から購入した弦を使っているが、彼は旅の途中で自作したりもしているらしい。

主に繊維や動物の毛、腱、腸など。

商人から買ってるものほど品質は良くないが、自作でもまぁ繋ぎにはなるらしい。

なお、僕が使ってるのは繊維の加工品である。


でも、スチール弦が欲しい……

スチール弦じゃないとピックアップに電流が発生しない。

しかしスピーカーを作る目処が立たない現在、それを考えるのは無駄だろう。

後回し後回し。


そして、最も有益だったのが、この都市で楽器を作ってくれる職人さんの所在を聞けた事だ。

僕は一年以上住んでてそんな事も知らないという。

いや、お金の問題もあったから他所に頼もうとは思っていなかっただけだが。


なぜその所在が聞けたかというと、

「その楽器、私も欲しい」

という彼の話からである。


この吟遊詩人はめちゃくちゃイケメンだったので僕は腰が引けていたけれど、普通にいい人だった。

僕に探りを入れているのは商売敵として当然だろう。

それ以外は、物腰も柔らかく、優しい笑顔を絶やさない…… ああ、こいつモテるな。顔だけじゃなく中身もイケメンかよ。





「ああ? おめぇ、妙に絵が上手いな」

と褒めてくださったのは小道具屋のおっさんである。


細工職人の工房だった。

日本風に言えば指物師だろうか。


吟遊詩人は旅の中町に着くと、まずは町中歩いて見て、必要な場所をしっかり記憶するらしい。

人通りが多い場所、安く食事が摂れる場所、良さそうな宿、そして、もしもの時の楽器修理ができる場所。


僕はこの町に来て1年以上だし、そこらじゅう歩き回ってるはずなんだけど、そういうところに思い至らなかった。ひたすら仕事と廃木材漁ってたし。


「つまり、新しい楽器を作るって事か? 修理ではなく?」

「はいそうです」

吟遊詩人は隣から興味深そうに僕が書いた絵を覗き込んでいる。

木版に炭で書いたものだ。


ヴァイオリンと似たボディの、いわゆるバサラギターである。

ダイナマイト7で銀河クジラと歌ったやつ。

ただ、ピックアップは無いし、ヘッドもペグ(弦巻き上げるアレ)もクラシックギターのと同じだ。

サウンドホール(ボディに空いてる穴)もバイオリンと同じような感じ、fホール。

このシルエットとサウンドホールには地球の技術と歴史が詰まっている。

ブリッジは下の方過ぎて一般的なアコギとは違うが、サドル(ヴァイオリンでは駒とも言う)は定石通り、fホールの真ん中辺り。

弓ではなく手、ピックで鳴らすギターに効果あるかは分からん。


「これが君の国の楽器か……」

いや、別に僕の国の楽器ってわけじゃないんですけど。

「弦が六本って事は、今君が使っているのと同じ音の楽器なのかな?」

「はいそうです。これは自分で作ったもので、そろそろ限界ですし……」

ギターを作った事があると言っても日曜工作のエレキギターだ。それなりにこだわりはしたけど、ピックアップ貼ってたボディ部分はただの角材だったし。


「わかった。まぁ今は仕事もねぇし。作ってやるよ」

「お代はいかほどで……」

「さぁな。金貨一枚稼げたら金貨一枚でいい」


つまり、楽器を作ってもらって、それを使って稼いだら払えという事らしい。


「お前の事は知ってるぜ。有名だしな。俺も何度か聴いてる。エスレラム川は俺も好きだぜ」

「ありがとうございます」


そんなわけで、10日待てと言われた。

木材自体はよく育っているものがあるけど、まずは端材で試しに1回か2回作ってみるとかなんとか。

よくわからんがプロにお任せしよう。


説明とかにも結構時間がかかって、細工職人の工房を出ると午後だった。僕と吟遊詩人は再び食堂に入った。


「それ、何て楽器ですか?」

「これは私の国ではサラムダと呼んでいるよ」

吟遊詩人は外国人だった。


「君のそれは、ギターだったかな? 六本の弦というのは珍しいね。少なく感じ無いかい?」

「いえ、これより少ないのもありましたよ。ウクレレとかベースギターとか、三線にヴァイオリンも」

「全部聴いた事がない。不思議な名前の楽器ばかりだ。一本や三本は見た事があるんだけどね。君の、ちょっと触ってもいいかな?」

「あ、はい。いいですよ。代わりに、そのサラムダを触らせてくれませんか?」

「いいよ。じゃあ交換だね」


で、僕はサラムダを手に取った。

見た目はリュートとかマンドリンとかそんな感じだ。

弦は8本。

引くとシャラシャラ綺麗な音が鳴る。ハープに似ているだろうか。

弦の調律はギターと全然違った。

隣り合っている弦が一音違いだったり三音違いだったりする。

多分、こちらのコードとかがあるのだろう。


ギターを持った吟遊詩人は、

「あれ? これは……」

と少し不満げである。

「まぁ、自作ですから、こんなもんですよ」

「ふうむ…… 君の腕がいいのかな? この楽器はもうボロボロで危ないね」

実際壊れかけである。むしろ素人工作で今まで良くがんばってくれた。

「指の形を教えてくれないかな?」

という彼に、C、Am、Em、G、の、ジャパンヒット曲コードを教えた。

流石に本職、問題なく指が動き、しっかり押さえた。

「なるほど、この横倒しの釘? 棒かな? これは良いものだね

一目で位置がわかるし、引っかかって音が濁らない様になっている」

彼が言っているのはフレットの事である。


「私のサラムダとは全然音の順序が違うね」


最初からわかっていたんだけれど

「ところで、君にお願いがあるんだ。君の曲を私に歌わせて欲しい」

と、いう事である。


そうなんじゃないかなとは思っていた。

先に恩を売られた身としては、断りにくい。

断る気はべつに無いんだけど。

むしろ、ちゃんと言ってくれるだけ紳士的と言える。知らんふりして自分で歌ってしまう事だってできるんだから。


「いいですよ」

「そうか。ありがとう! いやー、私が聞いた分の曲のメロディと歌詞はだいたい憶えているんだけど、私のサラムダでは伴奏が上手くいかなくてね。知恵を貸してくれると嬉しい」


既に耳コピ済みだったぜ。さすがプロ。



「この音とこの音とこの音だよね?」

「はい。でもこれだと……難しいかもしれませんね」

 

 彼が言ってるのは、つまり、指の配置が定まらないという事だった。

 サラムダにはフレットが無くて、指の位置で音が鳴る。

 コードを押さえようとして指が詰まってしまうと、どうしようもなく別の音が出てしまうのだ。

 

「それなら、こっちの音ならどうでしょうか?」


 ギターのコードの押さえ方は一つではない。

 Cの形、Fの形、Aの形などなど、いくつかパターンがある。

 

「その組み合わせならいけそうだね」


 微妙に音の高さが違ってしまったりするのだが、彼の声が正確なため、普通にハモリとして聞こえる。

 弦の張りを変えてしまえば簡単だが、彼も曲毎に弦を調節するのはキツイらしい。弦への負担もかかるし。

 

 

 そんなこんなで10日が過ぎた。

 

 

 □

 

 

「これは…… すごい……」


 審美眼とかは持ち合わせないはずだが、仕上がったギターはめちゃくちゃ良かった。

 

「おう。この曲線がなかなか勉強させてもらったぜ」

「ありがとうございます!」


 僕はさっそく弦を張り、音を調節した。

 

 弾いてみると、音の響きが良い。

 一緒に来ていた吟遊詩人も

「これは凄いですね」

 と感心していた。

 

「おう、ところで、お前さん打楽器がどうのこうのって言ってたろ。俺の知り合いにやれそうな奴がいるんだが……」


 まさかの新メンバー!

 

「ほんとですか! 紹介してください!」

 

 喰入り気味な僕を牽制しつつ、

 

「しかし、そいつエルフでな…… 気難しいっつーかなんつーか。魔王病でな」


 細工職人の言葉に、吟遊詩人の表情が少し歪んだ。

 

 エルフがいるのは知っているし、見たこともあるけど、僕はエルフについてあまりよく知らない。

 

「魔王病ってなんですか?」


 僕の問いには吟遊詩人が答えた。


「一種の魔力疾患だよ。とても強い魔力を持ったエルフが稀にかかる病気でね。出力の調整ができなくなるんだ。その結果、普段からとんでもない魔法を使ってしまうから、まるで魔王の様だという事で、魔王病って言われてる」


 細工職人が続けた。


「元はSクラスの冒険者だったんだが、魔王病にかかっちまって、冒険者を辞めるしかなくなったのさ。エルフの連中は体力も人間よりあるが、魔力を調整できねーとなるとやっぱ使い辛いからな。冒険者廃業して、今は小悪党のピースメーカーよ」


 ピースメーカーという表現は、地球と同じ意味でこちらでもつかわれていた。核兵器だ。

 滅多に使う事ができないが、使ったら勝てる。

 強力な魔力の制御ができない魔王病患者はそういう扱いになっていた。

 

「友人が腐ってるのは見るに耐えねぇ。俺には音楽の事はよくわからねぇが、おめぇならなんとかできそうな気がするのさ」




 イベント発生しました。

 

 

 

 □

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