第二話:新学期二日目
ピピピピピ・・・・。
俺は無機質な機械音によって目が覚めた。
止めなければ永遠に鳴り続けるであろうその機械音を止める。
時刻を見ると6時30分を指している。この時間に目覚めるのは昨日と同じだ。
まだ醒めきっていない頭をフラつかせシャワーを浴びに脱衣所へ向かう。
のろのろと服を脱ぎ風呂場に入る。10分ぐらいシャワーを浴びて出る。
体を拭き、服を着ると、頭にタオルを垂らし台所に立つ。
一人暮らしとは不便なものよ、自分で作らなければ朝飯など出てこないのだから・・・。
といっても大した料理はできない。たいてい炒飯や、とりあえず肉やら野菜やらを炒めたものだ。男が作る料理なんて所詮そんなもんだろ?肉じゃが?煮魚?何それおいしいの?
そんなことはさて置き、今日は普通に学校へ行くか、昨日は何となーくぼーっとしていたら10時くらいになってしまったが、今日遅刻すると担任の片瀬に携帯の番号を教えなければならないのだ。
何とも厄介な。しかし、片瀬という男はよく分からない。たった一度の遅刻で、俺が不良なんかになるわけないのに、もちろん理由は他にもあるんだろうが、今は話したくない。
って、誰に言ってるんでしょうね俺は。
飯も食べ学校の支度をする。学校までは歩いて30分あれば何とかなる、後は時間までぼーっと・・・。
・・・・・。
っと!!マジで寝るところだった。
アホな事やってないで早く話を進めろよな・・・。
昨日とは違い、他の生徒が多い、(当り前か)ブレザーやベスト、ワイシャツだけのやつなど、校則範囲内でいろんな着こなし方があるようだ。
ふと見ると、横を歩く数人の女子がこちらを見て何やらこそこそと話をしている。反対側には誰もいない、というより端を歩いているのだから当たり前だ。
もう一度女子の方を見ると、こちらに気づいたのか足早に俺の先を行ってしまった。
なんだ?ああゆうのを見るといい気分はしない。
桜並木に差し掛かる。柄ではないがこういう風景を眺めるのは昔から好きだった。
あぁこのまま眺めていたい・・・。しかしそんな考えは校門のところに立っている一人の教師により打ち砕かれた。
片瀬だ。
なんでいるんだ?まさか俺が来るのを待っているのか?
ははは・・・まさかそんなことはないだろ。
「いよぅ、おはようさん、今日はちゃんと来たな。えらいえらい」
案の定話しかけられてしまった。
「おはようございます。何でこんなところにいるんですか?」
とりあえず聞いといてみる。
「今日は朝の見回り当番なんだよ。つーかそのブスっとしたしゃべり方やめない?もっとこうフレンドリーにいこうよ」
相も変わらずヘラヘラしたしゃべりだ。
「そのヘラっとしたしゃべり方を止めてくれたら俺もそうしますよ」
あはは、敵わんな、と笑う片瀬を無視し下駄箱へ向かう。ちょっと待てよ〜と聞こえるが無視だ。
丁度校舎に差し掛かると、昨日の女性が窓辺にいる。白衣を着ているように見えるが、保健室の先生だろうか?
こっちに気づいたのだろう、手を振ってきた。
が、見えないふりをして無視をした。だいたい俺は、そんなに友好的な方じゃない、意味もなく自分から他人に干渉しようとは思わない。
下駄箱で靴をはきかえる。そこでも、何人かの男子が俺の方を見て、何やらこそこそと・・・。
よし、捕まえて聞いてみよう。標的はそうだな、あの二人組がいい。
上履きをしっかり履くと俺は唐突に走り出した。一瞬男子がびくっとしたが逃げる間もなく捕まえてやった。
「俺になんかようですか?」
二人の肩をがっしり掴み、逃がさないようにする。
「あ、いっ、いえ、なんでもないです」
「あぁそう?何か俺の方見てこそこそお話してるように見えたもんで」
二人を解放すると、あははと苦笑いしながら小走りで走って行った。
ちらっと上履きを見たが、2年生のようだ。なんか悪いことしたな。
そのまま自分のクラスへ行きドアを開けると、一瞬だがみんながこちらを見て動きを止めた。なんだ?俺はそのまま自分の席へ行き座った。
しばらく外をぼーっと眺めていると、ガラッとドアが開き二人の男子が入ってきた。二人は俺の存在を確認すると、おぉっ居るじゃん、と俺に近寄って来た。
「よっ、おはよ、聞いたぜ?昨日片瀬と腕相撲やって勝ったらしいじゃん」
と、短髪茶髪の男と
「いきなり失礼だよタカ、挨拶しなきゃ」
と、いかにも優等生っぽい感じの男が話しかけてきた。
「おぉそうか、悪いな、俺は藤波鷹尾ってんだよろしく」
「僕は、近藤薫、よろしくね」
と、自己紹介されてしまった。近藤薫って、近藤勲みたいだ。
「大藤皇太、まぁよろしく」
少しそっけなく言ったが、そんなことはお構いなしに鷹尾というやつは話を進めてきた。
「んでんで?ホントなのか?あの片瀬に腕相撲で勝ったってのは!?」
いつの間にか前の席に座り目を輝かせて聞いてくる。
「ん?まぁな、というかなんでそんなに興奮してんだお前は?」
うぉまじか〜〜と一人興奮している。おぃ人の話を聞け。
「昨日、君が片瀬に腕相撲で勝ったって噂が広まってるんだよね」
にこにこと話す。片瀬とは違い、なんだろ?さわやかな感じだ。
こっちの方が断然いい。
「だからどうした?」
その言葉に二人はきょとんとした顔をする。
「なんだよ、あの片瀬に腕相撲とはいえ勝ったんだぞ?もっと喜べよ」
理解しがたいという顔をされても・・・。
「だから、それがどうした?別に騒ぐことないだろ?」
再びふたりは顔を合わせる。
「もしかして知らないの?」
「なにが?」
うぉまじかよと大げさに驚く鷹尾をみて。
「片瀬って結構有名なんだよ、この学校に入ってから格闘技の先生を片っ端から倒しちゃったらしいんだよね」
「空手の顧問って元日本チャンプだろ?すごいよな!?」
あの片瀬が?信じられん。
「片瀬に強くしてもらおうとこの学校に来るやつとかいるしね」
まぁ人は見かけによらずというやつか。
「んで、その片瀬に勝った男として結構有名なんだぜ?おまえ」
たかが腕相撲で勝ったからって大げさだな。
今朝のひそひそ話はこれか。しょうもないな。
「俺はそんなことより、ここにいる三人の名字に藤とついてる事が驚きだ」
二人は少し考える仕草をすると、おぉ!!と歓声をあげた。
そのあと三人で他愛もない話をして過ごした。
俺はこの最初にできた友達?と、これから様々な事件に巻き込まれていくのだが、今の俺には知るよしもなかった。
ただ、これから起きる事件が俺ら三人に絆というものを作ってくれたということは確かかもしれない。
不幸というのはそう、唐突にやってくる。
昼食を食べ終えると、少し学校の中を見て回ることにした。気分転換のつもりで歩き回ることにしたのだがそれがケチのつけ始めだったようだ。
とぼとぼと歩いていると、二人の女子が三人の男子と話をしている。気にも留めず、とぼとぼと近づいていく。
「おい、どうすんだよこれ!!」
「す、すみません」
「あーあ、牛乳なんて臭いが残っちまうだろうが、ほら臭いぞ!!」
どうやら牛乳をかけてしまった女子が絡まれてるようだ。
男ならここで助けに行くところだが俺は違う。面倒事は極力避けたい。可哀そうだが、あっちも女子には手を出さんだろ?
「す、すみません、あ、あの、クリーニング代出しますので・・・」
「あぁ?そんなもんいらねーよ、その代り・・・」
へへへと何とも下品に笑う男子、おぃおぃ高校生。
「ちょっと面かしな、へへへ」
前言撤回、手をあげるどころの騒ぎじゃない。というかお前ら学校で何しようっていうんだ?俺にはしょうもない発想しかできん。一応男だからな。
「あ、あのどこに・・」
「いいから来いよ!」
と腕を掴む、周りを見たが俺ら以外誰もいない。ちっ、しょうがない。
「おい」
一瞬びくっとしたが、先生じゃないとわかると強気になった。
「なんだお前?」
「その辺で許してあげたら?クリーニング代出すって言ってんだし」
「お前には関係ないだろ!?」
確かに関係ないんだが・・・、ここは何かと理由をつけておくか。
「その人、俺の姉ちゃんなんだ」
一瞬場が固まる。
「行こうぜ」
状況が飲み込めないといった二人の手を掴みその場を去ろうとしたが、ちょっと待てやと呼びとめられてしまった。
「何か?」
「話終わってない、俺たちはそっちの姉ちゃんに用があるんだ!!弟だか何だか知らないが引っこんでろ!!」
俺は無視してそのまま歩き始めた。
無視すんな!の掛け声とともに俺は殴られた。
「いって・・」
「これ以上殴られたくなかったらそいつら置いてけ!!」
わけ分からん。そこまで執着すんなよ。
「あんた達このまま走って逃げろ、邪魔だから」
でも、とたじろぐ二人に早く行け!!と一括すると二人は走って逃げて行った。
「おいっ!!何してんだお前!!」
お前が何してんだよ、このドスケベが。
「いいじゃん、女子には逃げられたけど、こいつで憂さ晴らししようぜ」
と三人に囲まれた。ちっ、めんどくさいなこいつら。
おらっ、と一人が殴りかかってくる。それを避け、腹に一発入れ蹴り飛ばす。
同時にもう一人が殴りかかってきた。拳が当たるギリギリで避け、その反動で上段蹴りを食らわす。体制を崩したところで横から思いっきり蹴飛ばしてやると、そのまま崩れ落ちた。
その瞬間横から殴られた。そうだもう一人いたんだ。
振り向くと目の前に拳が迫ってくる。それを間一髪のところで受け止め、外側に捻ると敵の体があらわになる。腹に一発けりを入れ、下がった頭を蹴り上げる。
そのまま倒れこみ一応事は終わりを告げた。
最後にやられた奴は当たり所が悪かったのか鼻血を出している。
先ほどやられた男が立ち上がる。どうやらまだやるらしい。
うらぁ!!と再び殴りかかってくるがそれを受け止め、己の拳を相手の顔面めがけ振りぬく、敵はそのまま吹き飛び動かなくなった。
喧嘩なんて久々にやったもんだから、拳が痛む。
よく見るとどうやら2年のようだ。
ふと後ろを見ると、数人の生徒が見ている、やばい。
俺はそのまま走って逃げる。
と、角を曲がったところで誰かとぶつかった。
「いって、すみません」
さっきの女子だ。
「い、いえ、あ、あの、助けてもらってありがとうございます」
あたふたと話す二人は、正直、可愛かった。
いやいやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。
「あの、よかったら名前、教えてください」
何故か恥じらいながら話す女子は、正直、可愛いと思った。
いやいやいや、早く逃げないと俺。
「えっと、1年3組の大藤です」
「2年4組の高橋由実です。えっと、よろしくお願いします」
正直何をお願いされたのかよく分からない。
「えっと、2年4組の勝俣奈美です。ありがとうございました」
二人は深々と頭を下げ、お礼を言う。
「いや、いいって、それより気をつけな、この学校以外と変なやつがいるみたいだから」
と、柄にもなく爽やかに対応する。
とりあえず、早々に話を切り上げ、俺は教室に戻った。
椅子に座ると藤波と近藤が話しかけてきた。
「うぃ、お前飯一人で食ったのか?」
唐突に変な質問を突き付けられた。
「俺の勝手だろ、かまうなよ」
「何いってんの?友達でしょ?コウ君」
と肩に手を掛けてくる。
「馴れ馴れしいな、お前」
「まぁいいじゃん、クラスメイトなんだし、仲良くしようよ、コウ君」
相変わらず爽やかだな近藤。
「ということで明日からは三人で学食だぁ」
勝手に決めんな。
と、俺らはまた他愛もない話に花を咲かせていた。
放課後になり、帰り支度をしていると、藤波等に遊びに行かないかと誘われた。
だがそのお誘いも、片瀬の呼び出しにより断ることとなった。
『えー、1年3組の大藤皇太、至急職委員室まで来なさい』
校内放送とあらば、逃げるわけにもいかない。
たぶん昼間のことだろう、先生にチクるなんてあいつら以外とチキンだな。
失礼します。と、職委員室に入り片瀬を探す。
いない・・・、野郎・・・。
そこに一人の先生がどうしたと聞いてきたので、片瀬に呼ばれたことを言うと片瀬の席で待ってるよう言われた。
待つこと5分。片瀬が帰ってきた。
「いよぅ、来てたか」
来てたかじゃないだろ、自分から呼び出しといて。
「よいしょ、んで?何で呼ばれたかわかってる?」
片瀬はイスに座ると煙草を出した。
が、隣に座っている女教師に怒られ、しぶしぶしまった。
「わかりません」
とりあえずしらをきっておく。
「昼休みに男子三人が保険室に運ばれたのよ、んで、どうやら喧嘩したらしいんだけど、一部始終見てたやつによると、その相手がね1年の大藤だろうって話なんだけど・・・。お前喧嘩したの?」
できれば喧嘩になる前を見ててほしかった。と内心悔やんだが、いなかったものはしょうがない、いたらそいつに任せてるとこだ。
「あぁ、それ俺です」
とりあえず嘘言ってもしょうがない。
「んで?喧嘩になった理由は?」
片瀬はペンをくるくる回している。真面目に聞く気あんのかこいつは。
「女子が絡まれてたので助けました」
嘘は言ってない。むしろそのために喧嘩したんだから。
「へぇ、女子を助けるためにねぇ、でもお前らの周りに女子はいなかったらしいじゃん」
女子を逃がしたところも見てなかったんかそいつらは。つかえん!!
「まぁなんにしろ、やりすぎだ。一人は鼻が曲がっちまったらしいし、もう一人はろっ骨二本ヒビだとよ」
知るか、自業自得じゃい。
「とりあえずまぁ、三日間停学」
・・・・。まじか?ということは土日合わせて5日間休みじゃん!!ラッキー。
「にすると土日合わせて5日間休みになってお前はウハウハだから、5日間朝早く来て校庭の掃除な」
なんですとーーー!!!
「ど、土日もか!?」
「あったりまえだろ」
最悪だ・・・。
「因みに自宅謹慎だからな、まぁ土日は出歩いてもいいが掃除はしに来いよ」
「あ、自宅謹慎なら家にいますよ」
「ざけんな、掃除しに来い」
ちっきしょう!!ついてねぇー。
とりあえず話は終わり帰らされた。
高校生活二日目にしてこれか・・・。昨日と合わせりゃ立派な不良だわな。
この先楽しいことなんてあるのだろうか?
いやあるではないか、朝掃除しに行かなければならないことを抜かせば実質5連休!!
自宅謹慎なんて言っても誰も見ちゃいない!!
遊ぼう。うんと遊ぼう。俺は心に誓った。
なんて妄想をしながら俺は家に向かった。