お姉さん『に』耳かきする話
高校からの帰り道、ポケットの中でスマートフォンが振動する。
スマートフォンを持ち始めて数年もすれば、バイブレーションでなんの通知かわかるようになった。これは、LINEのバイブレーションだろう。
「おっしゃ、ビンゴ〜…ん?」
表示された内容は1言だけ『ヘルプ』と書かれていた。
マンションの5階の一部屋の前に立ち、インターフォンを鳴らす。すると、ガチャっと扉が開く。
「いきなり呼んじゃって悪い」
彼女は俺の親戚の水樹さんだ。女性にしては身長が高く、凛とした顔立ちをしており、普段は髪を後ろにまとめているのだが、今日はまとめてはいなかった。
「いいよ、それでどうしたの?」
「いつもの頼む」
「あぁ、オッケ」
いつものという単語で察する事ができた。まぁ、要するに耳かきよ事だ。水樹さんは昔自分で耳かきをしたとき、『やらかした』のだ。それがトラウマで自分ではやらずに俺に頼むようになったのだ。
「んじゃ、早速頼むわ」
「あいよ」
太もものに水樹さんの頭の重さを感じる。髪で耳が隠れているので、そっと髪を耳にかける。
耳の中は…まぁそれなりに汚い。外側の溝にも沢山溜まっている。これはやりがいがありそうだ。
まずは、外側の溝を竹の耳かきで掻いていく。ザリッと音まではしないものの、そのような効果音が聞えそうな手応えがした。匙で掬い上げると、少し油っぽい粉のような垢が山盛りになっていた。
「あぁ、もう寝そう」
ふわぁとあくびをして、水樹さんが言う。
「最近忙しいの?」
「そこそこかなぁ」
そこそこと言っているが、いつもより元気が無いように感じる。隈もあるし、髪も傷んでいる。疲労感を感じるのだ。
これは癒やしてあげなければ。
耳の溝は強く掻きすぎると痛くなってしまうので、優しく掻き取っていく。シャリシャリと白い粉状の垢が大量に出てくる。ぱっと見は汚くなくても、掻いてみると意外と出てくるものだ。
クリクリと匙を動かし、窪みやカーブしているところも丁寧に取っていく。
ほとんどは取り終えたのだが、細かい粉がちらほらと見える。それを用意しておいた綿棒を水樹さんの化粧水で濡らして、拭き取る。これで完璧だ。
「外側は終わり、耳の中やるから動かないでね」
「は〜い」
まずは手前から。匙の横側を耳の壁に当てて、動かす。すると、ポロボロと細かい耳垢が取れていく。ザリザリ、ジャリジャリ。そのような音をたてて耳垢が匙の上に乗る。
手前だけだというのに、テッシュの上には沢山の耳垢が溜まっている。
もう少し奥の方へ進んでいく。この辺りからは耳垢が大きくなっている。
耳かきをそっと耳垢と壁の隙間に滑り込ませる。そのままクッと弱めの力で耳かき棒を上に持ち上げる。すると、ペリッと少しだけ耳垢が剥がれる。そこから少しずつペリペリと剥がしたところで、最後の接着面を剥がして持ち上げる。
「そこそこ大きいのがとれた!」
「うげ、そんなん私の耳の中に入ってたのかよ…」
「まだまだ、あるよ」
「…よろしくお願いします」
真ん中辺の耳垢をあらかた取り、残すは耳の奥。耳の穴の角度的に、中までがよく見えないので、慎重にゆっくりと耳かきを入れていく。
そっと耳の壁に当てたときに何かに当たり、引っかかるような
手応えを感じる。
「痛かったら言ってね」
「うぃ」
一応確認を取ってから、カリカリと掻いていく。ゆっくりと、ゆっくりとやっていくと耳垢の下側から徐々に耳垢が剥がれていき、匙の上に乗る。
(もう少し…)
最後に落とさないように匙の角度を変え、耳垢を持ち上げる。
「ふぅ」
取れた耳垢は耳の穴に沿ってアーチを描いたような見た目をしており、1cmいくかいかないかくらいの大きさである。
こんなにも大きいやつが出てくると達成感と興奮で一杯になる。
もしかしたら、他の方向にも大きいのがあるかもしれない!
探るように耳かきを動かす。ここのあたりはまだ掻いてないはず…。少しだけ力をいれて、1掻きする。すると、匙の上に粉状の耳垢が大量にモッサリと乗っかっていた。
「うわっ!」
「な、なんだよ!」
「いや、なんか滅茶苦茶粉っぽい耳垢が取れて…」
「そんなにとれたのか?」
「うん、こんくらい」
匙を水樹さんに見せる。すると、うわぁと引いた顔になった。
そこからは、他の方向を掻いてみたのだけれども、不発に終わってしまった。だがしかし、あれだけのが取れておいて、他が不発というわけ無いだろうと思い、綿棒を取り出す。
綿棒を化粧水で湿らし、耳の中を撫でる。細かい耳垢が、綿棒に絡め取られ、耳の中がキレイになっていく。
一旦綿棒を交換し、耳の奥に綿棒を入れる。痛くないように優しく一周する。
取り出してみると、狙い通り大量の耳垢が綿棒に付着していた。綿棒を変えて同じことを繰り返す。3本目辺りでやっと耳垢が取れなくなった。
「よし、まぁこんなところかな」
「ん?終わった?」
「こっちの耳は終わったから、反対向いて」
「了〜解」
反対の耳の中を覗き込むと、片方よりも汚れていた。
「なぁ」
耳の外側を耳かきで掻いてるときに、水樹さんに話しかけられる。
「ん?なに?」
「…ちょっとだけ甘えていいか?」
少し恥ずかしそうに言う水樹さんが可愛くって、少し笑ってしまう。
「な、なんだよ」
「いや、なんでもないよ。俺で良ければいくらでも甘えていいよ」
少しだけ沈黙がながれて、水樹さんが俺の腰に手を回してお腹に顔を埋める。
耳かきが終わればきっと水樹さんは元の凛とした水樹さんに戻ってしまうだろう。だから、ゆっくり、ゆっくりと耳かきをしよう。少しでもこの時間が長引くように。
片方の耳かきは長くなりそうだ。
なんか短すぎる気がしないでもないです。百合書きたい(涎)